本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

だから僕たちは、組織を変えていける

2022-04-30 08:02:18 | Weblog
■本
34 リスクを生きる/内田 樹、 岩田 健太郎
35 だから僕たちは、組織を変えていける/斎藤 徹

34 「コロナと生きる」に続く、内田樹さんと感染症専門医の岩田先生との対談本の第2弾です。新型コロナウイルス発生直後だった前作と比べると、ある程度明らかになった医学的、社会的影響の知見をベースに議論が展開されます。岩田先生ほどの専門家が、新型コロナについてはわからないことがまだまだ多いとおっしゃっていることが印象的で、安易に白黒をはっきりつける言論が危険であることがよくわかります。まともな部下だと異を唱える無意味なタスク(ブルシット・ジョブ)を課すことにより、イエスマン以外の人間を無意識にあぶり出そうとする、トップダウン型組織の弊害について語られている点が興味深かったです。世の中が不条理なものであると理解し、それでも粘り強く、サバイブするための確率を上げていく努力を続けることが大切であると気づかせてくれます。

25 ラノベのようなタイトルですが、さまざまな心理学や組織論の研究成果を踏まえつつ、ベンチャー経営者だった斎藤さんご自身の経験も交えて、わかりやく日本の会社組織の問題点やその解決の処方箋について解説してる良い本です。基本的には管理・指導よりも、組織が目指すべき目標・理念(この本では「パーパス」という言葉が用いられています)に対する個々人の共感をベースに行動を促す組織を理想とし、そのための考え方について解説されています。「リーダーとは情報と仕事を配る人ではなく、意味と希望を伝える人である」と『「褒める」より「感謝する」「勇気づける」ことが大切』という言葉が特に印象に残りました。「傾聴」に対して重きを置いている点にも共感しました。リーダーが気配りし過ぎることや、責任感が強すぎることによる弊害も指摘されている点はいろいろな気づきがありました。個人的には、最近漫才コンテストなどで審査員がよくコメントする「人間味」を率直に表現すること、そして、それを表現できるだけの「心理的安全性」が組織に備わっていることが重要なのだと思いました。


■映画
24 名探偵コナン 緋色の弾丸/監督 永岡 智佳

 「名探偵コナン」シリーズは映画版しか観ないので、よく知らないキャラクターが多数登場し最初は少し戸惑いましたが、コナンや灰原といった主要キャラクターが要所で存在感を発揮し抜群の安定感でした。大人、女性、子ども、それぞれに人気がありそうなキャラクターがバランスよく配置され、また、長年のファンと私のような一見さんに近い人の双方が楽しめる配慮もされていて、マーケティングがとても行き届いていることが感じられます。謎解き要素はさほどなかったですが、パニックアクションものとしてよくできた作品です。FBIがここまで日本で幅を利かせていると、日本の警察が少し心配になります。あと、東京オリンピックに批判的な匂いを感じたのは私だけでしょうか?大人から子どもまで楽しめる、一級のエンターテイメント作品です。
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それでも映画は「格差」を描く

2022-04-23 07:07:11 | Weblog
■本
32 ストーリーメーカー/大塚 英志
33 「最前線の映画」を読む Vol.3 それでも映画は「格差」を描く/町山 智浩

32 先週読んだ「現代思想入門」で構造主義を理解する上で有益だと紹介されていたのと、最近個人的に「物語」に興味があるので読みました。ものごとを「構造的」に捉えるとはどういうことかと、その構造の理解をどう活かしていくのか、を肌感覚で理解できるよい本です。『物語の基本中の基本は「行って帰る」である』など、昔ばなしや神話、ハリウッド映画の脚本等を分析した本からの引用を交え、物語の構造を分析し、それを応用して誰でもストーリーを創れるようになる方法論(この本では「物語の文法」と呼んでいます)を具体的に教えてくれます。この本の中でも、村上春樹さんは「物語の文法」を作家になった後に習得されたと推察されていますが、確かに村上春樹さんはこの構造に自覚的であることがよくわかりました。村上作品に、井戸や壁など境界を表す象徴が多く登場することや、意識と無意識(現実と夢)の往来が多く描かれていることに表れていると思います。今後、映画や小説を観るときの視点が変わってくる気がします。筆者の大塚さんも強調されているように、読んで理解するだけではなく、この方法論を「使って」こそ有益な本だと思いました。もう少し創作意欲が高まったら使ってみようと思います。しかし、本当に圧巻なのは、人が「物語」に畏怖する理由が書かれた補講にあると思います。「物語」の人を騙し利用する側面ではなく、公共の利益に資する側面(大塚さんは「物語」と区別して「カタリ」という言葉を用いられていますが)に注目する必要があると感じました。

33 タイトル通り最近公開された映画を中心に、映画評論家の町山さんが論評される本の第3弾です。取り上げられた作品だけでなく、その監督の過去作品まで遡って解説して下さるので、このシリーズはとても勉強になります。これまたタイトル通り、本作は、「パラサイト」、「ノマドランド」、「万引き家族」など、「格差」をテーマに各映画賞で評価された作品が多く取り上げられいますし、心なしか町山さんの熱量も高めで、読み手の側も自分の偽善や格差問題に対する不作為に向き合わざるを得なくなります。ケン・ローチ監督作品が3つ取り上げられていて、ケン・ローチ論としても読み応えがあります。解説されている映画の半分以上は観たことがあったので、その深い考察で、各作品の新たな魅力に気づくことができました。特に「天気の子」は、私は格差の視点からは観ていなかったので、言われてみれば、環境問題も含めてさまざまな世代間格差を描いた作品であると気づかされました。「ジョーカー」公開時の反響に象徴的なように、「格差」を描いているにもかかわらず、「分断」につながりがちな点にやるせない思いがしますが、「格差」を描きつつ、「包摂」につながるような物語のあり方は考え続けたいと思いました。


■映画
23 トキワ荘の青春/監督 市川 準

 石森章太郎さん、藤子不二雄さん、赤塚不二夫さんといった有名な漫画家が下積み時代に過ごしたトキワ荘を舞台にした青春群像劇です。テレビ等での大ブレーク前の阿部サダヲさん、古田新太さん、生瀬勝久さんといった舞台俳優の方々が多数出演されていて、今となっては、作品中の漫画家の方々との共通点が興味深いです。本木雅弘さん演じる主人公が、知る人ぞ知る存在の寺田ヒロオさんであることや、断片的なエピソードの羅列が中心であるが故に、登場人物ごとの掘り下げがさほどなされていないので、ある程度前提知識がないとあまり楽しめないかもしれません。逆に言うと、その不親切さが、市川準監督の作家性であり、通好みの趣を醸し出しているとも言えます。主人公の今後の苦境を予感させるエンディングも含め、青春時代の美しさ、儚さ、切なさが水彩画のような淡さで描かれた作品です。
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人生の謎について

2022-04-16 07:13:00 | Weblog
■本
30 人生の謎について/松尾 スズキ
31 現代思想入門/千葉 雅也

30 「大人計画」主宰の松尾スズキさんのエッセイ集です。私も「人生の謎」に関心があるので読みました。全エッセイが「人生って、なんなんだ。」で終わる構成がおしゃれです。相変わらず抜群のお笑いセンスですが、老いに伴う不都合や別れに満ちた枯れたエピソードが満載です。歳を取って丸くなったとか、諦念したとかとはまた違って、身内に対する意固地さや他人に対する攻撃性は保ちつつも、その他者に向けた攻撃のベクトルが自分に返って来るような構造になっている絶妙のバランス感覚が上品です。必ずしも一途に仕事に取り組んでいるという感じでもないのに、結果的に還暦が近くなってもハードワークを続けられている点も不思議です。宮藤官九郎さんや阿部サダヲさんといった劇団員に対する憧れや賞賛を、素直に表現されている点もなんだか意外です。演劇がなければ自分の人生はかなり悲惨になっていたということを自覚し、それに出会ったことに対する感謝を繰り返し述べられているのも感動的です。つくづくつかみどころがない人だと思います。ロールモデルとはしにくいですが、なぜか惹かれてしまいます。

31 こういう小難しいタイトルの新書がなぜか売れていることに興味を持って読みました。ジャック・デリダ、ジル・ドゥルーズ、ミシェル・フーコーといった「ポスト構造主義」の哲学を中心に解説してくれます。冒頭に「現代思想を学ぶと、複雑なことを単純化しないで考えられるようになります」と言いつつ、複雑な現代思想を、その学びの魅力が損なわれないギリギリの範囲までシンプルにして説明する、という離れ業を見事に成し遂げられています。現代思想のエッセンスをざっくりつかむところと、細部にまでこだわって読み込むところとのメリハリのつけ方も絶妙です。「人間は過剰な動物である」とし、全体を通じて、逸脱や人間のだらしなさに対して寛容で、カラッとした明るさが貫かれている点も売れている理由だと思います。個人的には、偶然性や個々人の「存在の偏り」(この本では、『いかにも明るく「個性」とか言うよりも、精神分析的な意味を込めつつ人間の特徴をいくらかネガティブに表現する方が、むしろ多様性を肯定する姿勢だと僕は思います』という記述とともに用いられています)をポジティブにとらえている点や、構造主義と「物語」とを関連付けて説明されている点が、私の最近の関心とも一致して興味深かったです。付録として「現代思想の読み方」について説明されていて、また、参考図書も多く示されているので、今後の学びにつながる本でもあります。「秩序」に縛られ過ぎず、(私の最近の関心で言うと「既存の物語」に縛られ過ぎず)、偶然を楽しみながら、自分の手持ちのカードを最大限に活用しながら生き抜いていこうという勇気が湧いてくる本です。


■映画
21 約束のネバーランド/監督 平川 雄一朗
22 レプリカズ/監督 ジェフリー・ナックマノフ

21 週刊少年ジャンプに連載されていた人気漫画の実写映画化作品です。ジャンプの実写映画化作品は当たり外れが大きいですが、本作は原作ストーリーの面白さをある程度忠実に再現していて、及第点の内容だと思います。ただ、浜辺美波さんを主演にするために、メインキャラクターの年齢設定を原作から引き上げた点は賛否が分かれると思います。大人ばかりのメインキャストの中、当時まだ中学生だった城桧吏さんに、そのしわ寄せが一気にいった気がします。子役として見れば遜色のない演技が、他の俳優と比較すると一気に稚拙に見えてかわいそうでした。しかも、セリフの量が半端なく多い点も不幸です。興行的には有名タレントをキャスティングする必要があるのは理解できますが、それなら、メインキャストを同年代で揃えた方がよかったと思います。とはいえ、限られた予算の日本のSF作品にしては、あまり安っぽさを感じない仕上がりになっている点など、評価すべき点も多い作品だと思います。

22 ネットでは酷評されている作品ですが、なんだかんだ言っても、キアヌ・リーブスが好きなので観ました。ストーリーは極めてご都合主義ですし(ある登場人物が自分がクローンであることを秒で納得したシーンには笑ってしまいました)、主人公の性格は自分勝手で全く共感できません(そのためキアヌ・リーブスの魅力もさほど感じません)。それでも、冒頭から漂う、いかにもホラー的なバットエンディングの予感を裏切って、強引にハッピーエンドへと導く力技は、個人的には評価したいと思います。それなりに、どんでん返しもありますので、数多くある矛盾点を大目に見ることが出来れば楽しめると思います。
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人はなぜ物語を求めるのか

2022-04-09 07:16:23 | Weblog
■本
28 双極性障害/加藤 忠史
29 人はなぜ物語を求めるのか/千野 帽子

28 以前は躁うつ病とも言われていた「双極性障害」について、わかりやすく解説してくれる本です。周囲にその傾向のある人がいるのと、今年の「公認心理士」試験を受けようと思っているので、勉強も兼ねて読みました。躁状態は本人が調子が良いと思っているため、なかなか治療には至らず、一方で、その旺盛すぎる活動量により、周囲に多大な迷惑をかけ社会的なダメージを受ける可能性も高く、うつ病以上に深刻な病気であることがよくわかりました。治療法について丁寧に解説されている点も参考になりました。薬でコントロールをする重要性が強調されていて、そのリスクや完治しないことを心配する意見に対して、そうだとすると高血圧症や高脂血症も完治しない病気だが、多くの人がさほど思い悩まず薬を飲んでいると指摘されている点は、これらの薬を飲んでいる私にとって、わかりやすい考え方でした。双極性障害をコントロール可能なリスクと捉える視点が印象的です。

29 引き続き「物語」に関心があるので、先日読んだ『「物語」の見つけ方』という本に紹介されていたこの本を読みました。文学、哲学、宗教、脳科学など、様々な分野から引用しつつ、「物語」に惹きつけられがちな、人類に共通の思考の癖についてわかりやすく説明してくれています。「物語」(それは「宗教」や「信念」についても言えることだと思いますが)は、自分を生きやすくするためのツールとして利用すべきものであり、そのツールに縛られて、自分を苦しめたり、他人を責めたりしないようにせねば、と改めて思いました。「must」には、蓋然性(××に違いない)=「一般論」と、義務(××すべきである)=「べき論」の二つの意味があり、しばしばそれが混同されているという説明は腑に落ちました。確かに、我々は、自分の思い込みから、他人に何かを期待したり、強制したりすることが多いと思います。最近の世界の分断化傾向に、「物語」が果たすネガティブな影響について、私が漠然と感じている危機感を言語化してくれているので、頭の中の整理に役立ちました。やはり、この世界は確率に支配されていて、私にできることは自分の思考や行動を変えることによって、ものごとが良い方向に進む確率をいかに上げられるか、しかないということを再認識しました。


■映画
20 帰らざる河/監督 オットー・プレミンジャー

 西部劇の宿命である白人中心の視点と銃万能主義、そして人命の軽視が今となってはどうしても気になってしまいますが、序盤からテンポよく話が進み、一級品のアドベンチャー映画だと思います。人物描写が紋切り型な点もこの作品では欠点とならず、キャラクター理解が負担にならないため、速いストーリー展開にマッチしています。露出の多い格好で野宿をしているので、虫刺されとか心配になりましたが、マリリン・モンローももちろん魅力的です。当時の限定された世界観の中で、ヒットする要素をふんだんに盛り込んだ作品だと思います。
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ウエストウイング

2022-04-02 07:48:31 | Weblog
■本
26 ウエストウイング /津村 記久子
27 「教える」ということ 日本を救う、[尖った人]を増やすには/出口 治明

26 先週読んだ、「エヴリシング・フロウズ」の主人公ヒロシが、小学生時代に主人公の一人として登場しているので、続けて読みました。つまり、「エヴリシング・フロウズ」の方が続編的な位置づけで、読む順番を間違えました。古い商業ビル内の整頓されないまま放置されたスペースに、秘密基地のような癒しを求め、見知らぬ三人の主人公が、それぞれの気配は感じつつもすれ違いながら、ささやかに交流する様子を描いた作品です。ヒロシの他には30代前半の女性と、20代後半の男性が主人公で、この二人の仕事上のぬるくも切実な悩みや、やるせなさ、そしてやりがいを描く、津村さんお得意のお仕事小説的な要素に、ヒロシの思春期初期の葛藤がうまく絡み、絶妙の奥行が加えられています。これまた、津村さんお得意の大荒れの気象状況を舞台にした、非日常的な状況での人々の新たな交流の始まりの描写も印象的です。小五にしては、ヒロシが大人社会にうまくなじみ過ぎていて少し心配になりますが、そこに、「エヴリシング・フロウズ」にも登場する、塾の友人とのささやかな交流が描かれていて、ほっとしました。感染症の話が出てくるところや、小説の舞台が梅田スカイビルのある新梅田シティ周辺である点も、私にとってはかなりのリアリティを感じつつ読むことができました。「エヴリシング・フロウズ」のような、しみじみとした感動に浸るタイプではなく、先が気になるストーリー展開の面白さを楽しむタイプの小説だと個人的には思いましたが、津村さんの作家としての高い能力をあらためて感じる作品です。

27 出口治明さんの本は定期的に読みたくなります。この本も、「タテ(過去の同種の事例を参考にするなど歴史的観点)、ヨコ(他国との比較など地理的観点)、算数(数字に基づくエビデンス)」で考えることや、「人・本・旅によるインプット」の大切さを強調する、いつもの出口さん節ですが、立命館アジア太平洋大学学長としての教育者の立場から語られている点が新鮮です。柔軟な発想が魅力である出口さんが、社会人教育として「マニュアル化」の重要性を強調されている点が少し意外でしたが、「業務プロセスの標準化」や「作業時間の短縮化」などのメリットの説明を読むと納得できました。これだけのことを成し遂げた方が、「川の流れに流されていく人生が一番素晴らしい」と言い切られいる点も痺れました。


■映画
19 ダーティファイター/監督 ジェームズ・ファーゴ

 クリント・イーストウッド主演の1978年の怪作です。オランウータンと同居しているストリートファイターが、好意を寄せていた女性シンガーの行方を追う旅に、主人公にぶちのめされた中年暴走族や警官も絡むという、混沌とした内容です。力が全てのエピソードが満載で、こういう人たちが、後のトランプ支持者になったのかもしれません。逆にこのカラッとしたおおらかさが、古き良きアメリカの魅力とも言えます。旅に出るまでの喧嘩中心のくだらない日常生活の描写が長すぎて、この作品がどのようなジャンルかなかなか理解に苦しみましたが、旅に出てからはドタバタコメディであることがわかり、やっと作品に集中できました。主人公が追いかける女性シンガーのしたたかさや、おばあちゃんや一見かよわい女性が銃を撃ちまくる点など、意外とジェンダーフリーな世界観も興味深いです。オランウータンまで銃を撃つなど、ツッコミどころ満載ですが、不思議な脱力感と魅力にあふれたB級映画です。
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