本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

「読まなくてもいい本」の読書案内

2019-05-25 06:22:49 | Weblog
■本
45 「読まなくてもいい本」の読書案内/橘 玲
46 映画に仕組まれたビジネスの見えざる手/谷國 大輔

45 とても興味深く読みました。これまで読んだ、橘さんの本の中で一番良いと思います。橘さんの「言ってはいけない」、「~には理由がある」シリーズや、「朝日ぎらい」の元ネタとも言える内容で、これらの本が挑発的な文体で書かれていたのに対し、本作は「知の最前線を5日間で探検する」というサブタイトルの通り、インパクトよりは読者の理解を優先する丁寧な語り口です。また、「複雑系」、「進化論」、「ゲーム理論」、「脳科学」、「功利主義」といったそれぞれの知が相互に繋がっていくスリリングな展開で、刺激的な読書体験でした。特に、私も大学生時代あこがれから挑戦しようとした「ポストモダン哲学」を、難解なだけの「知的曲芸」と喝破しつつ(ただ、その文体の格好良さは認めています)、そこから生まれた「リゾーム」という概念を、要は「複雑系のスモールワールド」とロジカルに説明する手際は見事だと思います。「古いパラダイムでできている知識をどれほど学んでも、なんの意味もない」とシニカルな態度を取りつつも、既成概念や既得権者に対抗しながら、ファクトに基づく合理的でよりよい世界を創っていこうという、強い希望にも満ちた本です。高校生の息子にも読ませたいと思います。

46 思い入れが強すぎる冗長な文体と、脈絡もなく移り変わる話題についていくのに少し苦労しますが、映画ビジネスの背景にある、さまざまな仕組みを知ることができる本です。映画の裏話的にはさほど目新しい情報はなかったですが、筆者の専門領域であろう、映画を活用した地域の活性化については、多くのページが割かれていて、この分野に興味のある方には有益だと思います。また、映画にまつわる複雑な権利関係についてもかみ砕いて説明されているので、こちらも参考になります。一つの映画に様々な人々がいろいろな思惑で関わっていることを知ることができたので、今後エンドロールを見る目が少し変わる気がします。


■映画 
47 ドクター・ストレンジ/監督 スコット・デリクソン
48 ジュラシック・ワールド/炎の王国/監督 J・A・バヨナ
49 コララインとボタンの魔女/監督 ヘンリー・セリック
50 ミッション:インポッシブル/フォールアウト/監督 クリストファー・マッカリー

47 先週観た「アベンジャーズ/エンドゲーム」で重要な役割をしていたので、慌てて観ました。マーベルものにしては、登場人物説明の手際が悪く、肝心のメインストーリーに割かれる時間が少なく、最後の強敵もあっけなく主人公に言いくるめられて少し拍子抜けしました。しかし、重力が変化する独特な映像や東洋的な世界観は目新しく、ドクター・ストレンジの知的で癖のあるキャラクターも印象的で、「マーベル・シネマティック・ユニバース」を一つの作品として考えると、この作品は良いアクセントになっていると思います。未回収の伏線もたくさんあり、続編以降に本領を発揮するのかもしれません。

48 「ジュラシック・ワールド」の意味を転換させる衝撃的なエンディングは見事だと思いますが、その過程のストーリー自体はスケール感に乏しく、恐竜の迫力ある映像もさすがにマンネリ気味です。一部の人間の欲により翻弄される恐竜と、そのしっぺ返しを受ける人類という展開だけでは、もう持たないのかもしれません。CG技術の発達にもかかわらず、夜間シーンが多い点も少し気になりました。とはいえ、平均点以上の作品ですので、シリーズファンの方は楽しめるはずです。

49 「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」の監督だけあって、王道のダークファンタジーのストップ・モーション・アニメ作品です。癖の強い世界観と引っ掛かりの多いストーリー展開で、観た後もいろいろと独自の解釈で楽しめる深みがあります。主人公のコララインとその両親のキャラクターには全く共感できなかったのですが、感情移入させず俯瞰的に魔女の世界を体験させるという狙いがあったのかもしれません。ピクサーやイルミネーション・エンターテインメントの作品とは、一風変わったオルタナ感が素敵です。

50 ご都合主義過ぎる展開はご愛敬。安定感たっぷりのスパイアクション映画です。トム・クルーズも年齢のためか、アクションシーンは少し控えめになった印象ですが、それでも、全力疾走や接触事故、高所からの飛び降りと身体を張った演技に応援したくなります。ストーリーの方も、フィクションと完全に割り切ればとてもよくできていて、ハラハラドキドキの連続です(と同時に、絶対にイーサン・ハントは死なないという安心感も半端ないです)。過去の登場人物もうまく活かして、シリーズ作としてのメリットも存分に味わえます。CIAがあまりにも無能すぎるので、現実はそうでないことを祈るのみです。
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Father Of The Bride

2019-05-18 06:24:04 | Weblog
■本
43 私たちの国で起きていること/小熊 英二
44 セゾン 堤清二が見た未来/鈴木 哲也

43 朝日新聞に月一で連載されていた「論壇時評」を愛読していたので、まとめて読みたくなり購入しました。ファクトをベースにロジカルに、何が問題で背景にはどういった事象の変化が隠れているのか(なぜ今までうまくいっていたかのように見えていたものが、問題として露見してきたのか)を丁寧に説明して下さるので、様々な社会課題に対する自分のスタンスを考える上でとても参考になりました。格差是正に対して最低賃金の引上げを提案するなど、賛否が分かれそうな議論に対して、小熊さんの主張を明確にされている点も、私の考えとの距離感を測りつつ思考する上で有益でした。8年間の時評を遡りながら読むと、私自身も含め、日本という国が変化への対応力がどんどん失われていることがよくわかり、かなり怖くなりました。

44 友人に面白いと紹介されたので読みました。「無印良品」が堤さんの最大の成果という風に取り上げられていますが、個人的には、「WAVE」、「リブロ」、「ロフト」、「シネセゾン」といった学生時代好きでよく通っていた店舗や施設に、堤さんのセンスや思想が存分に注入されていたことが知れて興味深かったです。渋谷という街はあまり好きではなかったですが、これらの店舗や施設は、地方から東京に出てきた私にとっても、最先端の文化に触れることが出来たような気がして、とても楽しかった記憶が蘇ってきました。最近よく考える、「人は結局好きなことでしか頑張れない」ということと、「他人の意見をどの程度採用するかの難しさ」(聞き過ぎれば尖がれないし、聞かなすぎると独善となってしまう)を学ぶ上で、堤さんの華麗な成功から無残な失敗へと至る事実は、ケースステディとして最適です。今となっては「モノからコトの消費へ」という考え方は当たり前となっていますが、それを今から50年近く前に思いつき、具体的な施策として実現した先見の明と行動力には本当に敬服します。


■CD
6 Father Of The Bride/Vampire Weekend

 バンパイア・ウイークエンドの6年ぶりの新作です。今、ベックとともに最先端のロック・ミュージックを創っているのはこのアーティストだと思います。作品を重ねるごとにどんどん優しい音になっているのですが、それでいてトリッキーなリズム展開や細かい音の工夫など迸りまくる才気が随所から感じられ、心地よくもとても刺激的です。身体に浸み込むような温かい音楽を噛みしめるように聞いております。個人的には、現時点で今年1番の傑作です。


■映画 
44 グーグーだって猫である/監督 犬童 一心
45 アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー/監督 アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ
46 アベンジャーズ/エンドゲーム/監督 アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ

44 よくも悪くもミニシアター系っぽい作品です。ストーリーは脈絡なく、センスありげな映像やセリフが随所に挟み込まれる作家性が前面に出た作風は、観る人を選ぶと思います。原作(というよりも元ネタ)の大島弓子さんの漫画も結構癖が強いですが、こちらは個人的にしっくりとくる一方、この映画はあまり肌に合いませんでした。主演の小泉今日子さんもあまり魅力的に感じませんでしたし、大好きな役者である加瀬亮さんの存在感も希薄でした。「ジョゼと虎と魚たち」や「ゼロの焦点」など、犬童一心監督作品で気に入ったものもあるので、単なる相性の問題だと思います。井の頭公園や「いせや」など、吉祥寺愛に満ちた映像は、中央線沿線に住んでいたことがある人間にとっては懐かしかったです。

45 「エンドゲーム」を映画館に観に行くために慌てて観ました。多数の登場人物の個性を巧みに描き分ける手腕が見事です。「ドクター・ストレンジ」や「パイレーツ・オブ・ギャラクシー」シリーズなど、「マーベル・シネマティック・ユニバース」シリーズで観ていない作品もあったのですが、すんなりとキャラクターを受け入れることができました。敵役の「サノス」の描き方も見事で、到底受け入れられないものの、彼の中には一貫した論理があることが丁寧に説明されていて、単なる凶悪・凶暴で理解不可能な悪役ではない、奥行きのある登場人物に仕上がっている点に好感が持てました。最終章へのつなぎの作品として、盛り上げ方に難しい面もあったと思いますが、十分に楽しめました。

46 「アベンジャーズ」の一応の完結編。前作の衝撃のエンディングから、敵役「サノス」のあっけない死、そして、あっという間に5年の月日が過ぎるという斜め上の展開に、どう収拾をつけるのかとハラハラしましたが、見事に納得感のあるストーリーとして完結させています。前作で出番のなかった「アントマン」の使い方に象徴的なように、各キャラクターの個性を活かした緻密でロジカルな展開が快感でした。ありがちな展開になりそうなストーリー要素に微妙なヒネリを加えつつ、ご都合主義的に陥っていないところが素晴らしいです。大迫力の映像が印象に残りますが、各キャラクターの心温まるエピソードを巧みに挟みつつ、怒涛のエンディングに向かう計算された展開の緻密さにも唸らされました。ただ、ダレずにエンドロール後の映像まで楽しめたものの、3時間の上映時間はアラフィフの人間には少し辛く、お尻が痛くなりました。
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社会学史

2019-05-11 10:27:37 | Weblog
■本
41 社会学史/大澤 真幸
42 ナナメの夕暮れ/若林 正恭

41 学生時に社会学部にいたので復習も兼ねて、長期間のGWの課題として読みました。学生時代に課題図書として読んだ、マルクス、マックス・ヴェーバー、デュルケームといった学者が、社会学上でどういう成果を成し遂げたのかを知ることができて、点で学んでいたことがおぼろげな線としてつながったような気がした反面、学生時代にもっときちんと勉強しておけばよかったと反省しました。厳密には社会学者ではない、レヴィ=ストロースやフーコーが社会学的な文脈で多く語られている意味についても解説してくれていて、長年の疑問が解消できた点もよかったです。大澤さんの個人的な思いも込めつつ、事例を交えながらわかりやすく説明してくださる良い本です。社会学の主題は「社会秩序はいかにして可能か?」である、と冒頭で明確に示していただいた点も各理論の目的を理解するうえで役立ちました。もちろん一読で理解できる内容ではありませんので、引用された書籍や他の社会学の解説本を読んだ際には、この本に戻って社会学史的な位置づけを確認したいと思います。

42 オードリー若林さんのエッセイ集。同じ人見知りとして、前作「社会人大学人見知り学部 卒業見込」に非常に感銘を受けたので読みました。前作同様、自意識が肥大した人間に共通の「生きにくさ」をテーマにしつつ、ゴルフ等若い時には毛嫌いしていた趣味や習慣にも偏見なく取り組めるようになった、より成熟した人間としての視点から、その「生きにくさ」となんとか折り合いをつけている真摯な姿に共感します。と言っても、決して上から目線ではなく、自分の弱さ、醜さをさらけ出し、それを起因とする過去の暴走も俯瞰的視点から笑いに変えている手腕もさすがです。そして、最後には、前作以上に自分のダメさ加減や「生きにくい」人生に対するポジティブな視点で締めている点が、単なる一芸人の感情ダダ洩れの呟きとは一線を画し、エッセイ作品としてのクオリティを担保しています。これも前作同様、一芸人の成長物語としても読めて、その完結編として感動的な余韻が残ります。思春期真っただ中の息子たちにも読ませたいと思います。


■映画 
42 LOOPER/ルーパー/監督 ライアン・ジョンソン
43 主戦場/監督 ミキ・デザキ

42 個人的にブルース・ウィリス出演作は必見だと思っているので観ました。彼の出演作は名作か迷作かのどちらかで、そのどちらに転んでもインパクトは絶大なので注目しています。こちらは迷作の方で、ご都合主義な展開で突っ込みどころ満載のタイムパラドックスものですが、世界観はしっかりしていて楽しめました。期待のブルース・ウィリスも上手なのか下手なのかよくわからない演技が、B級っぽい作品のテイストと絶妙にマッチしています。制作に中国資本が入っている影響が露骨に出ているところが少し気になりましたが、ディストピア的な世界観に希望を灯して終わるエンディングの後味もよく、SF映画好きな方にはお勧めできる作品だと思います。

43 予告編を観て気になっていた作品で、ネット上も(賛否それぞれ)盛り上がっているようなので観に行きました。従軍慰安婦問題についての右派の主張の矛盾点を、ファクトベースで否定していく構造がメインの、日系アメリカ人監督によるドキュメンタリー作品です。謎解き感覚でスリリングに事実を追求するアプローチは、映画として純粋に面白いと思いました。個人的にはこの種の問題は、どちらかの当事者の主張が事実と完全に合致することはなく、双方の主張の間のどこかの地点が事実に近いと思っているのですが、この映画を観て、元慰安婦の方々の主張の方が8割方正しいのではと思いました。もちろん、右派の主張のうち矛盾を指摘しやすい箇所のみを抜き出している点(それにしても腋が甘い気もしましたが)や日本人の若者の無関心さの取り上げ方に悪意を感じる点もありましたので、そのあたりは、右派の冷静な主張もきちんと理解しておく必要があると思いました。また、本当になんらかの利権が伴わない純粋な正義心から、他国の被害者の慰安婦像をサンフランシスコに建てるなんてことがあるのか、という疑問も残りました。いずれにしても、自国に都合の悪い過去を無視するのではなく、こういう主張もあると理解することは問題解決に近づく上では有益だと思いますので、どういう感想を持つにしても多くの人に観てもらいたい作品です。
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銀河鉄道の父

2019-05-05 11:36:39 | Weblog
■本
39 銀河鉄道の父/門井 慶喜
40 二度寝とは、遠くにありて想うもの/津村 記久子

39 芥川賞と違って直木賞受賞作に基本的にはあまり興味はなかったのですが、宮沢賢治が好きなので、父親の視点から語られた彼の物語という着想が面白くて読みました。賢治が利発で従順な理想的な少年時代から、金を無心してくる厄介な存在を経て、自分のやりたいことを見つけて自立し、その道半ばで生涯を終える様子を、父親の子を愛するが故の弱さや矛盾と巧みに絡めて、丁寧に表現されている点が同じ父として、とても共感できました。誰もが知っている「雨ニモマケズ」をクライマックスに持ってくる構成も見事です。素材は同じでも、視点を変えることにより、小説はいくらでも豊かにオリジナリティのあるものになることを示す、素敵な作品でした。

40 引き続き津村記久子さんの作品を読んでいます。こちらはエッセイ集ですが、例によって仕事をテーマにしたものが多いので(その真摯な姿勢にはいつも感銘を受けています)、現実に引き戻されてGW中に読むには少し不適切でした。一方、終盤のゆるーい(なぜか必ずグッズについての記述で終わります)美術館訪問記は、休日中に読むのに最適で、次の休みに何か所かには行ってみたくなりました。あまり触れられることのない津村さんの生い立ち(普段の職場や作家としての生活はよく語られるのですが)についても、珍しく突っ込んで語られていて興味深かったです。最後はブラジルW杯の観戦記で締められ、全編を通して語られる、「仕事」、「孤独」、「リラックス」というテーマや、そのどこか自虐的なユーモアも含めて、実に津村さんらしい作品だと思いました。GW明けの仕事に向けての心構えがほんの少しですが、出来た気がします。


■CD
5 労働なんかしないで 光合成だけで生きたい/スガシカオ

 こちらはGW期間中に聴くのに最適なタイトルの作品。攻撃的なタイトルの割には、王道のスガシカオ節で、ファンク、バラード、ロックとバラエティに富んだ楽曲が縦横無尽に展開されます。暗い印象の前作「LAST」の方が、ある意味攻めていて、本作はファンの期待に応えつつ、楽しい作品を創ろうという意図を感じました。歌詞の方は前作と同様に幾分露悪的な私的なものが多い印象です。デビュー当初のような突き抜け感はないですが、いろんな葛藤や妥協を経た上での作品だと思うと愛おしいです。


■映画 
38 ザ・ウォーク/監督 ロバート・ゼメキス
39 バイス/監督 アダム・マッケイ
40 64-ロクヨン-前編/瀬々 敬久
41 64-ロクヨン-後編/瀬々 敬久

38 数年前に観た予告編の映像が記憶に残っていたので観ました。ワールドトレードセンターの屋上間を命綱をつけずに綱渡りをして成功させた、フランスの大道芸人フィリップ・プティの実話の映画化作品です。主人公の生い立ちや綱渡りの計画とその協力者を手際よく説明しクライマックスにつなげる展開の速さと、綱渡りシーンのスリリングで臨場感あるCG映像のクオリティは、さすが「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のロバート・ゼメキス監督です。見せ場を「綱渡りシーン」に絞って時間をたっぷりとった潔さは評価できますし、成功していると思いますが、それにしても長すぎますね。ハラハラして思わず、「何往復すんねん!」と呟いてしまいました。ただ、そう感じる時点で監督の策略にはまっているのだと思います。あまり頭を使わず、身体的に映画を楽しめる作品です。

39 息子ブッシュの下で副大統領を務めたディック・チェイニーの生涯を描いた作品です。予告編を観た印象では、もっとコメディ色の強い作品かと思っていましたが、語り口はやり過ぎなくらいシニカルなものの、極めてメッセージ性の強い作品でした。その一方できちんと娯楽性も担保されていて、このあたりのバランス感覚はアメリカ映画の美点だと思います。三権分立が機能していると言われているアメリカで、チェイニーによってその牽制機能が骨抜きにされたという事実やコピーライティング(「相続税」を「死亡税」と言い換えるなど)も含めた政治へのマーケティング手法の導入と、それを日本の現政権が参考にしているであろうことが伺えたところが、この映画を観た最大の収穫でした。権力者に批判的なこの作品が、作品賞や主演男優賞(主演のクリスチャン・ベールがここまで特殊メイクをする必要があったのかという疑問を感じますが・・・アカデミーメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞しています)も含めて8部門も今年のアカデミー賞にノミネートされたという事実に、アメリカ映画界の批評精神を感じます(アメリカの三権分立と同じで実際にはかなり劣化しているのかもしれませんが)。

40、41 元号が変わるタイミングなので、昭和が終わる前後を舞台にしたこの作品をドラマ版、映画版と続けて観ました。ドラマも映画も一長一短がありますが、おそらく原作により忠実であろうドラマ版の方が個人的には好みでした(ピエール瀧さんや新井浩文さんが派手さはないものの、リアリティのある良い演技をされていましたし)。映画版の方は、元号が変わることによる被害者家族への影響(報道が改元一色になり他のニュースは報道されにくくなる)について、深く取り上げている点が、このタイトルの意味がより正確に伝わってよかったです。ただ、前後編と分けたミステリー作品の宿命か、前編で謎解き以外の見せ場が必要になるため、演技やストーリーが無駄に大きく、ドラマティックになっている点に少し抵抗を感じました。後編の方も見せ場の必要性のためか、謎が解けた後にアクション的要素が付け加わり、リアリティが売りの原作に極めて非現実的な要素が加わったことも残念でした。ドラマ版で主人公の妻を演じた木村佳乃さんの演技が素晴らし過ぎたので、映画版の評価が辛くなった面もあります。
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