■本
66 火花/又吉 直樹
67 もたない男/中崎 タツヤ
68 ドキュメント パナソニック人事抗争史/岩瀬 達哉
66 ピース又吉さんが漫才を題材に書いた芥川賞受賞作。賞の名に恥じない傑作だと思います。「道」を究めようとする人の気高さと、生きにくさを、過剰になりすぎず、クールになりすぎず、絶妙のバランスで描かれていると思います。破滅に至る一歩手前で救いを残しているエンディングも、安易にステレオタイプに陥らず、読後感がよくて個人的には好きです。ある方がおっしゃっていた通り、女性の描かれ方が、男性にとって都合がよすぎる点が少し気になりますが(この業界の関係者にはもっと嫌な女性がたくさんいそうですが)、社会の成功者でもなく、落伍者でもないグレーゾーンの男性を巧みに描いた又吉さんの人間描写力は素晴らしいと思います。
67 漫画「じみへん」で有名な中崎タツヤさんの、「ものを捨てる」ことをテーマにしたエッセイです。ブラックマヨネーズの吉田さんを思わせるような、地味で全く生産性のないこだわりに、じわっと笑みが漏れてしまいます。決してストイックなエコ信者ではなく、新製品が出たら欲しくなる物欲をしっかり満たした上で、その自分の物欲自身に逆に嫌悪感を持つ、中崎さんの複雑な人間性に不思議と癒されます。中崎さんが漫画家になったいきさつや、歩き遍路をされた背景(僕が大学生のときに連載を休んで行かれていたことが記憶に残っています)、現在の奥さんとの暮らしぶり、なども知ることができて人間としての中崎さんにより興味が持てる本です。
68 東芝の不正関係問題で社長の記者会見を目にする機会が増えたので、社長人事をテーマにしたこの本を読んでみました。元会長の松下正治さんの評価が少し辛辣過ぎる気もしますが、パナソニックのような日本を代表する、頭脳的にも人格的にも行動力的にも素晴らしい人材がそろっているイメージの会社でも(それだからが故に)、社長人事の争いやその結果生じたボタンの掛け違いの影響が非常に大きなことが窺えて怖くなりました。結局、人はプライドや恩義など非常にパーソナルな事情に意思決定が支配されがちなので、そのあたりのしがらみを越えて適切な判断が下せる経営のプロ(そしてその経営のプロはそのようなドライな判断が下せるので、必ずしも人格的に優れているわけではなさそう)が昨今持てはやされているのだと思います。この本の内容を全て鵜呑みすると危険だとは思いますが、読み物としても面白く、人間というものを理解する上では参考になる本だと思います。
■CD
36 風街であひませう/VARIOUS ARTISTS
作詞家の松本隆さんの活動45周年を記念して作成されたトリビュート作品です。スピッツの草野マサムネさん、斉藤和義さん、やくしまるえつこさん、YUKIさん、ハナレグミといった大好きなアーチストがそろっているので、とても楽しめました。シンプルなアレンジに、松本隆さんの印象的な歌詞がからみ、参加者の個性的な声が堪能できます。個人的に特に印象的だったのは、元andymoriの小山田壮平さんが歌う「SWEET MEMORIES」で、この名曲を朗々と歌い上げる小山田さんがとても新鮮でした。
■映画
50 みんなのいえ/監督 三谷 幸喜
三谷さんの監督作品はウェルメイド過ぎて、その完成度には感心しつつも、サービス精神が旺盛な作り手側の狙いが見え過ぎて苦手なことが多いのですが、本作は適度に抑制の効いた演出で素直に楽しめました。唐沢寿明さん演じるキザな建築デザイナーと田中邦衛さん演じる頑固な大工の棟梁だけでなく、野際陽子さん演じる風水マニアの母親が出てきたあたりでどうなるかと思いましたが、後半は意外とドタバタコメディ色が薄まり、仕事に対する矜持にさりげなく焦点が当てられて後味のよい映画でした。メインキャラクターの夫婦を田中直樹さんと八木亜希子といった本職の俳優さんではないキャスティングにしたところも、この作品の好感度アップにかなり貢献していると思います。お二人とも素朴な演技でとても愛らしいです。三谷幸喜さん監督作品のなかでは一番好きな作品です。
66 火花/又吉 直樹
67 もたない男/中崎 タツヤ
68 ドキュメント パナソニック人事抗争史/岩瀬 達哉
66 ピース又吉さんが漫才を題材に書いた芥川賞受賞作。賞の名に恥じない傑作だと思います。「道」を究めようとする人の気高さと、生きにくさを、過剰になりすぎず、クールになりすぎず、絶妙のバランスで描かれていると思います。破滅に至る一歩手前で救いを残しているエンディングも、安易にステレオタイプに陥らず、読後感がよくて個人的には好きです。ある方がおっしゃっていた通り、女性の描かれ方が、男性にとって都合がよすぎる点が少し気になりますが(この業界の関係者にはもっと嫌な女性がたくさんいそうですが)、社会の成功者でもなく、落伍者でもないグレーゾーンの男性を巧みに描いた又吉さんの人間描写力は素晴らしいと思います。
67 漫画「じみへん」で有名な中崎タツヤさんの、「ものを捨てる」ことをテーマにしたエッセイです。ブラックマヨネーズの吉田さんを思わせるような、地味で全く生産性のないこだわりに、じわっと笑みが漏れてしまいます。決してストイックなエコ信者ではなく、新製品が出たら欲しくなる物欲をしっかり満たした上で、その自分の物欲自身に逆に嫌悪感を持つ、中崎さんの複雑な人間性に不思議と癒されます。中崎さんが漫画家になったいきさつや、歩き遍路をされた背景(僕が大学生のときに連載を休んで行かれていたことが記憶に残っています)、現在の奥さんとの暮らしぶり、なども知ることができて人間としての中崎さんにより興味が持てる本です。
68 東芝の不正関係問題で社長の記者会見を目にする機会が増えたので、社長人事をテーマにしたこの本を読んでみました。元会長の松下正治さんの評価が少し辛辣過ぎる気もしますが、パナソニックのような日本を代表する、頭脳的にも人格的にも行動力的にも素晴らしい人材がそろっているイメージの会社でも(それだからが故に)、社長人事の争いやその結果生じたボタンの掛け違いの影響が非常に大きなことが窺えて怖くなりました。結局、人はプライドや恩義など非常にパーソナルな事情に意思決定が支配されがちなので、そのあたりのしがらみを越えて適切な判断が下せる経営のプロ(そしてその経営のプロはそのようなドライな判断が下せるので、必ずしも人格的に優れているわけではなさそう)が昨今持てはやされているのだと思います。この本の内容を全て鵜呑みすると危険だとは思いますが、読み物としても面白く、人間というものを理解する上では参考になる本だと思います。
■CD
36 風街であひませう/VARIOUS ARTISTS
作詞家の松本隆さんの活動45周年を記念して作成されたトリビュート作品です。スピッツの草野マサムネさん、斉藤和義さん、やくしまるえつこさん、YUKIさん、ハナレグミといった大好きなアーチストがそろっているので、とても楽しめました。シンプルなアレンジに、松本隆さんの印象的な歌詞がからみ、参加者の個性的な声が堪能できます。個人的に特に印象的だったのは、元andymoriの小山田壮平さんが歌う「SWEET MEMORIES」で、この名曲を朗々と歌い上げる小山田さんがとても新鮮でした。
■映画
50 みんなのいえ/監督 三谷 幸喜
三谷さんの監督作品はウェルメイド過ぎて、その完成度には感心しつつも、サービス精神が旺盛な作り手側の狙いが見え過ぎて苦手なことが多いのですが、本作は適度に抑制の効いた演出で素直に楽しめました。唐沢寿明さん演じるキザな建築デザイナーと田中邦衛さん演じる頑固な大工の棟梁だけでなく、野際陽子さん演じる風水マニアの母親が出てきたあたりでどうなるかと思いましたが、後半は意外とドタバタコメディ色が薄まり、仕事に対する矜持にさりげなく焦点が当てられて後味のよい映画でした。メインキャラクターの夫婦を田中直樹さんと八木亜希子といった本職の俳優さんではないキャスティングにしたところも、この作品の好感度アップにかなり貢献していると思います。お二人とも素朴な演技でとても愛らしいです。三谷幸喜さん監督作品のなかでは一番好きな作品です。