本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

火花

2015-07-26 07:34:05 | Weblog
■本
66 火花/又吉 直樹
67 もたない男/中崎 タツヤ
68 ドキュメント パナソニック人事抗争史/岩瀬 達哉

66 ピース又吉さんが漫才を題材に書いた芥川賞受賞作。賞の名に恥じない傑作だと思います。「道」を究めようとする人の気高さと、生きにくさを、過剰になりすぎず、クールになりすぎず、絶妙のバランスで描かれていると思います。破滅に至る一歩手前で救いを残しているエンディングも、安易にステレオタイプに陥らず、読後感がよくて個人的には好きです。ある方がおっしゃっていた通り、女性の描かれ方が、男性にとって都合がよすぎる点が少し気になりますが(この業界の関係者にはもっと嫌な女性がたくさんいそうですが)、社会の成功者でもなく、落伍者でもないグレーゾーンの男性を巧みに描いた又吉さんの人間描写力は素晴らしいと思います。

67 漫画「じみへん」で有名な中崎タツヤさんの、「ものを捨てる」ことをテーマにしたエッセイです。ブラックマヨネーズの吉田さんを思わせるような、地味で全く生産性のないこだわりに、じわっと笑みが漏れてしまいます。決してストイックなエコ信者ではなく、新製品が出たら欲しくなる物欲をしっかり満たした上で、その自分の物欲自身に逆に嫌悪感を持つ、中崎さんの複雑な人間性に不思議と癒されます。中崎さんが漫画家になったいきさつや、歩き遍路をされた背景(僕が大学生のときに連載を休んで行かれていたことが記憶に残っています)、現在の奥さんとの暮らしぶり、なども知ることができて人間としての中崎さんにより興味が持てる本です。

68 東芝の不正関係問題で社長の記者会見を目にする機会が増えたので、社長人事をテーマにしたこの本を読んでみました。元会長の松下正治さんの評価が少し辛辣過ぎる気もしますが、パナソニックのような日本を代表する、頭脳的にも人格的にも行動力的にも素晴らしい人材がそろっているイメージの会社でも(それだからが故に)、社長人事の争いやその結果生じたボタンの掛け違いの影響が非常に大きなことが窺えて怖くなりました。結局、人はプライドや恩義など非常にパーソナルな事情に意思決定が支配されがちなので、そのあたりのしがらみを越えて適切な判断が下せる経営のプロ(そしてその経営のプロはそのようなドライな判断が下せるので、必ずしも人格的に優れているわけではなさそう)が昨今持てはやされているのだと思います。この本の内容を全て鵜呑みすると危険だとは思いますが、読み物としても面白く、人間というものを理解する上では参考になる本だと思います。


■CD
36 風街であひませう/VARIOUS ARTISTS

 作詞家の松本隆さんの活動45周年を記念して作成されたトリビュート作品です。スピッツの草野マサムネさん、斉藤和義さん、やくしまるえつこさん、YUKIさん、ハナレグミといった大好きなアーチストがそろっているので、とても楽しめました。シンプルなアレンジに、松本隆さんの印象的な歌詞がからみ、参加者の個性的な声が堪能できます。個人的に特に印象的だったのは、元andymoriの小山田壮平さんが歌う「SWEET MEMORIES」で、この名曲を朗々と歌い上げる小山田さんがとても新鮮でした。


■映画
50 みんなのいえ/監督 三谷 幸喜

 三谷さんの監督作品はウェルメイド過ぎて、その完成度には感心しつつも、サービス精神が旺盛な作り手側の狙いが見え過ぎて苦手なことが多いのですが、本作は適度に抑制の効いた演出で素直に楽しめました。唐沢寿明さん演じるキザな建築デザイナーと田中邦衛さん演じる頑固な大工の棟梁だけでなく、野際陽子さん演じる風水マニアの母親が出てきたあたりでどうなるかと思いましたが、後半は意外とドタバタコメディ色が薄まり、仕事に対する矜持にさりげなく焦点が当てられて後味のよい映画でした。メインキャラクターの夫婦を田中直樹さんと八木亜希子といった本職の俳優さんではないキャスティングにしたところも、この作品の好感度アップにかなり貢献していると思います。お二人とも素朴な演技でとても愛らしいです。三谷幸喜さん監督作品のなかでは一番好きな作品です。
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Ray Charles The Ultimate Collection

2015-07-20 08:10:31 | Weblog
■本
64 偽りの戦後日本/白井 聡、カレル・ヴァン・ウォルフレン
65 マーケティングオートメーション入門/電通イーマーケティングワン

64 安保関連法案についての議論が熱いこのタイミングにふさわしいと思い読みました。白井さんが主張される「永続敗戦レジーム」(「敗戦」を「終戦」と読み替えたがゆえに、アメリカからの支配に無自覚で、結果的に冷戦が終わって世界情勢が変わっているのに、未だにアメリカに隷属し続けている日本の状況を指している、と私は理解しました)に、「日本/権力構造の謎」で有名なウォルフレンさんが、日本の官僚とメディアの問題点(「現状維持」に傾きがちな点が特徴的です)を指摘しつつ議論が進んでいきます。若干「陰謀史観」的な議論に傾きがちな点が気になりますが、白井さんのいつもの毒舌と、ウォルフレンさんの外国人としての立場から見た日本に対する愛憎半ばする発言の切れ味が鋭く、今の日本が抱える様々な問題に気づかされます。痛快な批判で溜飲を下げるだけでなく、実際に行動につなげないと何も変わらないという危機感が芽生えました。

65 タイトル通り、今流行のマーケティングオートメーションというツールについての理解を深めるにはよい本です。イベントや自社サイトの資料請求などで取得した見込み顧客を、WEB施策を中心とした最適な情報提供により(この部分が自動化されます)、有望な顧客へと育成し、営業担当に行き渡して受注へと導く、というツールですが、単なるツールの紹介に留まらず、そのために必要な社内コミュニケーションや戦略立案方法についても踏み込んで説明されています。思考の助けとなるフレームワークやフォーマットも提示してくれているので、実際の仕事にも応用できそうです。


■CD
35 Ray Charles The Ultimate Collection/Ray Charles

 映画「RAY」を観てRay Charlesさんの音楽に興味を持ったので購入しました。映画の感想でも書きましたが、もっとトラディショナルな作風だと思っていたのに、非常に斬新で攻撃的なサウンドに興奮しました。今聴いても新しいです。ブラックミュージックだけでなく、スティーブ・ウィンウッドやビリー・ジョエルといった白人アーチストへの影響も強く感じられます。75曲も収録されているのに、同じような曲がほとんどなく、全く飽きません。常に新しい音を求めていた彼の探究心の強さに驚嘆します。


■映画
49 HERO/監督 鈴木雅之

 めちゃくちゃ面白いというわけではありませんが、安定感があり楽しめました。木村拓哉さんと松たか子さんのからみも、なんか懐かしかったですし。キャラが多い上に、韓国ロケ(個人的にはこの場面は不要だと思いますけど)でイ・ビョンホンさんまで出てきて、かなりお腹いっぱいになりました。キャストがとにかく豪華です。ストーリーよりも、キャラを楽しむタイプの作品だと思いますので、タモリさんの使い方も含め、そのあたりは成功していると思います。
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Ryan Adams

2015-07-12 07:23:06 | Weblog
■本
62 夢をかなえるゾウ3 ブラックガネーシャの教え/水野 敬也
63 ザ・プラットフォーム:IT企業はなぜ世界を変えるのか?/尾原 和啓

62 女性を主人公にしている点と、夢をかなえる過程の苦しみが強調されている点が、これまでの2作品と違っています。ギャグ頼みだった1作目と比べると、読み物としても格段に面白くなっています。批判しようと思えばいくらでもできると思いますが、成功者のエピソード(その人物のチョイスの仕方にもセンスを感じます)を巧みに引用しつつ、自己啓発本をエンターテイメントにして、敷居を下げたのはこの人の発明だと思います。頭で理解するだけでなく実行に移せるように配慮されているところもよいです。あと、この種の本特有の胡散臭さを隠すことなく、胡散臭いままに提示しているところも潔くて結構好きです。

63 グーグル、アップル、フェイスブックなどのプラットフォーム的役割を果たしているIT企業の動向を網羅的に知るにはよい本です。リクルートの取り組みがプラットフォームであるという分析も興味深かったです。個人的にはプラットフォームに対する評価が楽観的すぎるところが、読んでいて少し辛かったです。しかし、これらのIT企業がどんなに高邁な理想を持って設立されていても、利益を追求することによりその取り組みが「悪い方にかたむく」傾向にあることを、「ビジネスモデルの重力」という言葉で説明し、バランスを取っているところに筆者の頭のよさを感じました。でも、くどいようですが僕にとっては、ドワンゴ会長川上量生さんの「鈴木さんにも分かるネットの未来 」で書かれていた、若干悲観的ですが地に足の着いた未来像の方がしっくりきました。あくまで、好みの問題ですが。


■CD
34 Ryan Adams/Ryan Adams

 2014年に発売されたRyan Adamsの現時点での一番新しいスタジオアルバムです。セルフタイトルをつけていることから、内容に自信を持っていることが伺えますが、その通りRyan Adamsの最高傑作だと思います。あえて例えるとニール・ヤングの全盛期の作品のように、シンプルながらも内省的で深みのある楽曲が次々と続きます。勢いにまかせてたたみかけるRyan Adamsも格好いいですが、この作品は切々と訴えかけるような歌声が胸に染み入ります。何度聞いても感動的な傑作です。


■映画
48 かぐや姫の物語/監督 高畑勲

 独特のタッチの表現を楽しむべき映画なのだと思います。ストーリーの方は「竹取物語」をベースに、女性の自立という問題意識が色濃く反映されています。よくも悪くも引っかかりの多い作品で、記憶には残るのですが、その挑戦的な試みが必ずしも成功していないところが微妙です。かぐや姫とその育ての母親以外のキャラクターが、月世界の住民も含めてあまりにも薄っぺらく描かれているところが、個人的には一番の失敗だと思います。かぐや姫の周囲の人間を見下しているかのような態度が、ただの中二病にしか見えない場面があったのが残念です。かぐや姫が地球の生活にあこがれた理由となったエピソードをもっと掘り下げて描けば違う印象を持ったのかもしれません。
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21世紀の自由論

2015-07-05 07:38:54 | Weblog
■本
61 21世紀の自由論:「優しいリアリズム」の時代へ/佐々木 俊尚

 IT業界に造詣が深いフリージャーナリストの佐々木俊尚さんが、グローバル化が進展し経済成長も期待できず、さまざまな問題が顕在する日本社会の中でどのような立ち位置で生きていくべきか、の可能性を探る力作です。「リベラル」、「保守」、「ネット右翼」をキーワードに日本の世論がどのように変化しつつあるかを分析した1章、グローバル化の進展とインターネットの普及により、ヨーロッパ中心の「世界には普遍的な価値観がある」という考えが崩壊しつつある状況を解説した2章までの丁寧な論理展開を経て、多様化した価値観の中で、したたかに臨機応変に対応しつつ、情報通信技術に支援された柔軟な共同体の中で、心地よい居場所を求めていく生き方が提言されています。途中までの丁寧な議論から導かれる結論が若干唐突な気もしますが、厳しい競争にさらされるグローバリゼーションの中で戦い抜けるだけの力を持った「特別な人」だけでなく、日々他人からの評価にさらされ、自分がやりたいことも不明確な、「普通の人」にとっても、生きるに足る社会を模索しようとする優しい視点にはとても好感が持てました。今後ますます厳しくなる社会状況の中で、どのようにサバイブしていくか、をあらためて考えるにあたってとても参考になるよい本だと思います。


■映画
46 Ray/レイ/監督 テイラー・ハックフォード
47 アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン/監督 ジョス・ウェドン

46 盲目の天才シンガー、レイ・チャールズの自伝映画です。この作品でアカデミー主演男優賞を受賞したジェイミー・フォックスの本人そっくりの熱演(最近のアカデミー賞はいかに実在の人物に似せるかと、ハンデを負った人をリアルに演じるかの競争になっている気がしていて、それはそれで個人的には疑問なのですが、レイ・チャールズ役はまさにその両方を満たしていて、賞に恥じないクオリティの高い演技をされています)と、効果的に挿入される初期のレイ・チャールズの名曲が楽しめます。母親と弟に対する回想シーンが、若干甘く描かれ過ぎている一方で、ドラック中毒からの復帰が淡々と描かれすぎているなど、脚色面でのバランスが少しいびつな気がしましたが、名曲が生まれる背景となった心理的葛藤が丁寧に描かれていて、レイ・チャールズという人物と楽曲に興味を持ちました。もっとトラディショナルな作品を作った人だと勝手に思っていましたが、ゴスペルなど過去の形式を打ち破る攻撃的な作風だったことに驚きました。今、聴いても刺激的な楽曲の数々が新鮮でした。

47 映像は迫力満点ですし、キャストも有名な俳優を惜しみなく使っていて豪華で楽しめるのですが、シナリオは肝心の敵役がアイアンマンが作り出した人工知能というマッチポンプ的な展開であまり感情移入できませんでした。元々1作目からキャラクター説明を省いて、本題に入っていたので、キャラクター説明が不要という続編の強みがあまりない上に、さらにキャラクターが増えているので、散漫な印象がよりいっそう強まっています。エンディングはキャストを若干入れ替えた続編を作る気満々で、新キャラの双子のうち、今売り出し中のエリザベス・オルセンの方だけが生き残り、続編への出演権を獲得している点がハリウッド作品の残酷さを感じました。アイアンマンの秘書役でいい味を出していたグウィネス・パルトローが本作に出演していないのも残念でした。欠点はたくさんありますが、ハリウッド大作らしい力技で思わず盛り上がってしまう作品です。
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