本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

本屋、はじめました

2024-06-30 06:08:10 | Weblog
■本
57 本屋、はじめました 増補版/辻山 良雄
58 なぜ働いていると本が読めなくなるのか/三宅 香帆

57 定年後に本屋をするのもいいかな、といった軽い気持ちで読み始めましたが、そんな浅はかな考えが恥ずかしくなるほど、本気に本屋という職業について考え抜かれた素晴らしい本でした。「リブロ」で20年近く働いた生粋の書店員の方が、その事業計画から、立地、間取り、品ぞろえ、イベント企画、そしてその1年目の営業成績まで、隠すことなく細かく紹介してくれていて、とても興味深いです(しかし、今からのにわか勉強で、真似できるとはとても思えません)。自店の顧客のターゲットを明確にし、その顧客に喜んでもらうためには、どのような品揃えやイベントを考えるべきか、ということの整合性が取れていて、実に見事です。ウェブサイトや旧ツイッターの活用方法も適切で、デジタルマーケティング事例としても秀逸です。環境変化により衰退しつつある業界でも、知恵と情熱があればビジネスとして成立させることができるということがよくわかります。ただ、成長産業とは異なり、人と同じことをしていては、成功できないという厳しさも感じます。人口減少局面にある日本で働く我々も、今後ますます辻山さんのような心構えで、仕事に取り組まなければならないのだとも思いました。ある種のサクセスストーリーなので爽快感も感じますが、日本のビジネスパーソンが置かれている厳しい状況についても考えさせられる本です。

58 引き続き「本」に関する本を。最近売れているということで、タイトルのキャッチーさにも惹かれて読みました。働きながら本を読めるだけの心の余裕が持てるように、「全身全霊で働くことはやめよう(半身で働こう)」という結論は大いに共感できますし、「修養」と「教養」をキーワードに明治時代から現代に至るまでのベストセラーの変遷を振り返りながら、日本人と読書との関係を見ていく構成も興味深かったです。しかし、細部のロジックは個人的には甘さを感じました。働くとスマホゲームはできても読書ができなくなる理由として、新自由主義の競争社会で疲弊している労働者にとっては、ノイズ(未知の要素)が含まれる読書をする精神的な余裕がない、ということがこの本の大まかな趣旨だと私は理解しましたが、このような傾向は否定しないまでも、やはり、本という媒体がインターネットやソーシャルメディア、動画も含めた他の媒体との競争に負けているという面の方が大きいと思います。確かにネット社会にフィルターバブル的な傾向があるのは事実ですが、知的好奇心(必ずしも自分の既知の知識を強化する目的だけではない)からショート動画などを観る人も大勢いると感じますので、「ノイズ」の有無だけで労働者が接するメディアを選択することはそう多くはない気がします。この本がウェブでの連載を元にしているという事実も、ウェブを閲覧している人が「ノイズ」に耐えられることを証明しているのだと思います(筆者はウェブ連載は、本と同等と考えられているのかもしれませんが)。とはいえ、毒舌も交えつつも丁寧に議論を進める姿勢からは、筆者の教養の深さと読書に対する愛情を感じました。働いていてもゆっくり本を読める社会になって欲しいです。


■映画 
55 レッド・スパロー/監督 フランシス・ローレンス
56 オータム・イン・ニューヨーク/監督 ジョアン・チェン

55 ジェニファー・ローレンス出演作は、はずれがないという印象があります。こちらは彼女がロシアのスパイを演じた2018年公開の作品です。相変わらず芯の強い女性を巧みに演じています。フルヌードシーンも含めた身体を張った演技で、いろいろな意味で迫力満点です。ギリギリでエロティックな絡みに進まないこともあり、セクシーさよりも凛とした佇まいの方が印象に残ります。もちろん素晴らしい演技なのですが、従来の彼女の演技と比べると少しクドさを感じます。ストーリーの方は、若干冗長でご都合主義的ですが、二重三重に観客の予想を裏切る先の読めない展開で、最後まで飽きませんでした。残酷な拷問シーンが多い割には、後味もよく、ジェニファー・ローレンスの強かにサバイブしていくイメージによく合った作品だと思います。やはり男は美人に弱いということも思い知らされます。彼女の出演作の中ではベストなものではないですが、良質のサスペンス映画だと思います。

56 一見ウディ・アレン監督作かと思うタイトルの、リチャード・ギアとウィノナ・ライダーが、歳の離れた恋愛関係を演じた作品です。リチャード・ギアもウィノナ・ライダーも実に美しく、それだけでも一見の価値はあります。特に、中年のプレイボーイを演じたリチャード・ギアはセクシーで、この作品で初めて格好いいと思いました。ウィノナ・ライダーも2000年公開の作品なので、まだ、無垢な魅力に溢れています。一方、ストーリーの方は実に平板で、既視感のある展開が続き、先の展開が容易に予想出来て興ざめでした。その分「真実は悪臭を放つ」などの魅力的なセリフで雰囲気を出そうと健闘していますが、いかんせん、ストーリーが浅すぎて、ウディ・アレン監督作のスタイリッシュさには遠く及びません。何より、プレイボーイの過去のエピソードがクズ過ぎて、なぜ、彼がこんなに周囲の人間に恵まれているのかが疑問になるほどでした。モテない中年男の嫉妬も多分に含まれていますが、ニューヨークを舞台にした恋愛映画なら他にいくらでも観るべき映画はあると思います。
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君はどう生きるか

2024-06-23 07:38:56 | Weblog
■本
55 君はどう生きるか/鴻上 尚史
56 ネガティブクリエイティブ/藤井 亮

55 「シンパシー」と「エンパシー」の違いや「悩むこと」と「考えること」の違いなど、鴻上尚史さんが、これまでに様々な場所で発信されてきたメッセージを、10代の人たち向けにわかりやすくアドバイスされている本です。10代の人たちの多くが悩む、「コミュニケーション」についてのアドバイスが多いことが特徴的で、「もめること」や「迷惑をかけること」は悪いことではないとし、「対話すること」の重要性が強調されています。ベースにあるのは「自分の頭で考える」ことの大切さで、学ぶことの意味も、この点にあるということが繰り返し説明されています。結局は、自分の好きなことを追求して、自立できる人間になるという結論に集約されるのだと思います。スマホやAIとの付き合い方やルッキズムなど、最新の課題についてもアドバイスしてくれていて参考になります。個人的には、「よりよく生きるため」に「たくさんの言葉を手に入れる」というアドバイスが印象に残りました。大人にとっても、鴻上さんが発する「たくさんの言葉を手に入れる」ことができ、気持ちが軽くなる示唆に溢れた本です。

56 私もネガティブな人間なのでタイトルに魅かれて読みました。内容は、元電通のしかも亜流の関西で勤務されていた、クリエイターの方が書かれた発想術、仕事術です。ネガティブな人間が持つ、細かいことにくよくよとする性質や劣等感を創作活動のバネとしている点や、亜流であったが故に徹底的に差別化したアウトプットを追求されてきた筆者の姿勢に共感します。一方で、理想を高く持ち、リスクを取って活動し、様々な分野に自分で手を動かして取り組まれている、ネガティブ人間にまるまじき姿勢に憧れます。個人的には、私はネガティブ思考に加え、手先が不器用という欠点もあるので、物を生み出す技術を持つ筆者がうらやましいです。結局は、ネガティブな思考をどのようにポジティブな行動につなげるのかが重要なのだと気づきました。マイナスをプラスに転化する、クリエイティブな仕事以外でも役立つ思考法が満載です。個人的には「土台となる世界観をしっかりと決め込んで」「その世界観の枠組みの中で遊ぶ/ふざける」という考え方が印象に残りました。私が好きな映画や小説はこの世界観の完成度が高いのだと思います(ヨルゴス・ランティモス監督作品が好きな理由もこの点にあると気づきました)。ネガティブで不器用な私でも、なんとかサバイブしていくために、自分の強みや特徴は磨いていきたいと思いました。


■映画 
52 星の子/監督 大森 立嗣
53 死刑にいたる病/監督 白石 和彌
54 許されざる者/監督 ジョン・ヒューストン

52 少し前に読んだ「むらさきのスカートの女」がとても印象的だったので、同じく今村夏子さん原作のこの作品を観ました。新興宗教にはまった両親をその子どもの視点から描き、愛情と崩壊の予感に満ちた、ありそうでないタイプの作品で不思議な余韻が残っています。公開当時16歳の芦田愛菜さんが、まさにはまり役で、恋に恋する中三女子を見事に演じています。器の小さいイケメンを演じると天下一品の岡田将生さんが、この作品でも薄っぺらい教師を自然体で演じられていて魅力的です。その他にも技巧派俳優が効果的に配されて、作品に安定感をもたらせています。観ている間、もやもやとした感情がずっとついてまわりますが、その感情が不思議と不快ではないです。よかれと思ってとっている行動が、少しずつ不幸を増幅させていく過程が切ないです。せめて、宗教にはまる人たちが、誰かの悪意によって翻弄されていないことを祈るのみです。そういった複雑な宗教という問題に、ありのままの感情でタブーなく向き合っているこどもたちの姿が新鮮です。強烈なインパクトはないですが、引っ掛かりの多い作品です。

53 「羊たちの沈黙」のレクター博士のように、阿部サダヲさん演じる連続殺人犯が、獄中からいろいろな登場人物に影響を与えるサイコ・スリラーです。ストーリーは、よく練られていて、随所に張られた伏線が、終盤にかけて怒涛のように回収されていきます。殺人シーンは、思わず声が出そうになるほど残酷で迫力があります。エンディングも違った角度からの恐ろしさを提示してきて印象的です。阿部サダヲさんは、こういった作品で重要な、凶暴さと狂気と可愛げとを兼ね備えた人物を見事に演じています。にもかかわらず、私個人としてのこの作品の評価は低めです。マインドコントロールと言ってしまえばそれまでですが、主人公に操られる人々の行動原理の説得力が弱いと感じました。また、これだけ狭いエリアでの連続殺人で、犯人がなかなか捕まらなかったということも考えられません。異常な世界を描くにしても、その世界の中での説得力は必要だと思います。いっときの刺激は得られますが、「羊たちの沈黙」のように長く語り継がれる作品にはならない気がします。

54 クリント・イーストウッド監督主演でアカデミー作品賞を取った「許されざる者」ではなく、オードリー・ヘプバーン主演の1960年公開の方です。オードリー・ヘプバーンがこういう西部劇に出ていたことを知らなかったので興味深かったです。埃っぽい西部においても、オードリー・ヘプバーンはとても魅力的でした。ストーリーの方はネタバレになるので詳しく書きませんが、少し前に観たエルヴィス・プレスリー主演の「燃える平原児」と構造が全く同じものでした。ハリウッドは、ネイティブ・アメリカン迫害の贖罪意識もあってか、大スター主演で同じ構造の作品を好むのかもしれません。ストーリーはダラダラとした展開で、クライマックスのカイオワ族との戦闘シーンに入ったのが最終盤で、無事エンディングにたどり着くかという点でハラハラとしました。予想通り中途半端で力技の結末で、美しい風景を描けば、オチがつくという安直な発想にガッカリしました。一方、恋愛映画としてはベタながらも、オードリー・ヘプバーンの美しさと相まって、それなりに萌えました。やはり、オードリー・ヘプバーンを愛でるための作品だと思います。
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季節のない街

2024-06-16 06:26:21 | Weblog
■本
53 人生・キャリアのモヤモヤから自由になれる 大人の「非認知能力」を鍛える25の質問/ボーク 重子
54 季節のない街/山本 周五郎

53 この本の筆者の言う「非認知能力」は一般的な定義とは少し異なるような気もしますが、自己肯定感、自分軸、成功体質、主体性、オープンマインド、共感力といった「非認知能力」を鍛えて、人生やキャリアを切り開いていこうというコーチング本です。認知行動療法的な手法も用いたワークシートを使って、これらの能力を鍛えるための具体的な方法を教えてくれます。以前に流行った「EQ」を焼き直しているだけなような気もして、さほど目新しい発見はなかったのですが、筆者も仰っている通り「プランド・ハップンスタンス(計画された偶然性理論)」を重視している点は、今風でユニークだと思いました。要するに不確実性の高い世界では、事前に綿密に計画を立てるのではなく、鍛えた「非認知能力」を元にまずは行動してみて、その結果に応じて素早く改善していくことの大切さが強調されています。書かれている内容は賛成できることも多いのですが、アメリカの競争社会を勝ち抜いてきた人特有の、ハイテンションで過度の自己肯定感ときれいごとにまみれた文体が、個人的にはあまり合いませんでした。「何を語るかよりも誰が語るか」を重視する私の偏った視点からすると、実践する気があまり起こらない、行動に繋がらない読書でした。

54 宮藤官九郎さん脚本のテレビドラマを観て興味を持ったので、その原作を読みました。テレビドラマとの違いを確認しつつの楽しい読書体験でした。どぶ川と崖で区切られた貧しい街に住む人々の生活を描いた短編集です。人間の欲と弱さ、そして、ささやかな気高さが、存分に描かれています。落語的な教訓話もありますが、よくわからないまま終わる話や共感できない話も多く、人間の複雑さを複雑なまま提示する姿勢がとても印象的です。1962年に新聞に連載された小説なので、まだ戦争の影響が残り、生活レベルはかなり低いですが、切羽詰まると気軽に逃げ出せるフットワークの軽さが少しうらやましくもあります。個人的には、たんば老人が発した「男というものには、女房子にも云えないような悩みにぶっつかることもあるもんだよ、女房子を抱えて、こんな荒い世間の波風を乗り切ってゆくのはたいへんなことだからね、本当にたいへんなことなんだよ」と言う言葉に励まされました(今の価値観から言うと偏った発言ではあるのですが、それでも)。日々サバイブすることの大変さと、それが故の尊さを教えてくれるやさしい本です。この本が原作の黒澤明監督の「どですかでん」も観てみたいと思いました。


■映画 
51 地獄の7人/監督 テッド・コッチェフ

 ベトナム戦争で捕虜となった息子を助けるために、ラオスの捕虜収容所を襲撃する父親をジーン・ハックマンが演じた1983年の作品です。息子の戦友や、同じく戦闘中に行方不明となった父親を持つ若手軍人などを仲間に加え、米国政府の妨害を受けつつも、7人+現地の中国人支援者のみで作戦を実行します。ベトナム戦争の戦後処理についての米国政府に対する批判的な視点が印象的です。内容はかなり主人公の視点に偏っていますが(身内の命は尊重するのに、ラオス兵の命はとても軽く扱われています、そして、現地の支援者は1名しか生き残りません)、アクションシーンの描き方は普通に優れていると思います。救出には成功しつつも、苦みの残るエンディングは戦争の悲劇を伝える上で効果的です。アジア人としては素直に楽しめませんでしたが、努力、友情、勝利といった少年ジャンプ的要素が備わった王道の作品だと思います。
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ボルサリーノ

2024-06-09 07:34:56 | Weblog
■本
51 たった一人の分析から事業は成長する/西口 一希
52 イルカも泳ぐわい。/加納 愛子

51 P&G、ロート製薬、ロクシタン、スマートニュースとキャリアを進め、「顧客ピラミッド」や「9セグマップ」といったフレームワークを開発されたことでも有名なマーケッターの方による本です。とかく「コミュニケーションアイデア」に偏りがちな類似書と比較して、「プロダクトアイデア」を重視されている点は、広告代理店ではなく、事業会社で数字を背負ってきた人ならではの説得力があります。内容的には、定量調査結果を顧客をセグメント化するフレームワークに落とし込み、その中で強化したい領域の対象者にN=1のデプスインタビューを行い、そこから、さまざまな「アイデア」の仮説を立て、実行・検証を行っていくというものです。分析の元となる定量調査項目のシンプルさと、実経験からの具体的な数字に基づく説明とが相まって、とてもわかりやすく実務に活かしやすい内容です。わかったつもりに留まらない、実践につながる素晴らしい本だと思います。

52 最近出版物を目にすることが増えた、Aマッソのツッコミかつネタ担当の加納さんによる、エッセイ、短編小説集です。奇抜な視点のシュールな文章が多く、加納さんの個性的なセンスが楽しめます。一方、オードリー若林さんやピース又吉さんの文章と比較すると、人間味があまり感じられません。そういった面が、初々しくもあり物足りなさも少し感じてしまいます。興味関心が自分よりも外部に向かうタイプなのかもしれません。また、シニカルなクールさよりも、好きなものに対する熱量を文書から感じた点も少し意外でした。お笑いに対する執念とも言える愛情と、細部にまで至る言葉選びのこだわりが印象的でした。爆笑エッセイというよりも、少しずつ角度の違う発想を味わうタイプの作品だと思います。「チョロギ」が食べたくなりました。


■映画 
49 聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア/監督 ヨルゴス・ランティモス
50 ボルサリーノ/監督 ジャック・ドレー

49 引き続き、ヨルゴス・ランティモス監督作品を。「ロブスター」と「女王陛下のお気に入り」の間の2017年公開の作品です。人間の悪意と愚かさをより強調した、身も蓋もない「ソフィーの選択」といった趣の作品で、観ていてなかなか辛い作品ですが、テンション高く先の見えない展開が続き、最後まで目が離せません。「ロブスター」や「哀れなるものたち」と同様に、ちょっとあり得ない設定なのですが、不思議とリアルに感じさせる点がこの監督の魅力のひとつだと思います。そして、何と言ってもその想像力のユニークさ。よくこんな話を(しかも露悪的に)描けるな、とどの作品を観ても感心します。この監督のもうひとつの特徴でもある、「狂気のなかに潜むチャーミングさ」は今回は控えめで、ホラー色が強いのですが、それでも、手淫で重大な秘密をばらす主人公の友人など、バカバカしくも切ない人間の欲を滑稽に描いています。話が進むにつれて、各登場人物の印象が当初から少しずつ変わっていき、人間の先入観の怖さにも気づかされます。コリン・ファレルは「ロブスター」と同様に、一見魅力的ではない人物をセクシーに演じていますし、ニコール・キッドマンは、一癖ありそうで実は凡庸なその妻を、ミステリアスに演じています。恐怖と毒と救いのなさが強すぎて、ヨルゴス・ランティモス監督作品にしては私の評価は低めですが、今これだけのインパクトを観客に与えられる監督はそうはいないと思いますので、今後も注目していきたいです。

50 ジャン=ポール・ベルモンドとアラン・ドロン、二大スターが共演した、1970年公開の作品。古き良き男の美学を描いたクライム・ムービーです。女性を取り合って殴り合った末に友情が芽生えるなど、今の価値観から見るとベタなシーンが多いですが、二人のカリスマ性もあり不思議な安定感があります。二人が成り上がっていく姿が、印象的なアクションシーンを軸に、時系列にテンポよく描かれているので、とてもわかりやすいです。最近の映画は複雑なストーリー展開のものが多いので、このシンプルさはかえって新鮮でした。苦みを残したハッピーエンドかと思いきや、最後は伏線をきれいに回収したバッドエンドとなっている点は、いかにもフランス映画(正確にはフランス=イタリア合作映画)です。しっかりした映画を観たな、という満足感が得られる作品です。
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ワイルドサイドをほっつき歩け

2024-06-02 07:24:06 | Weblog
■本
49 ワイルドサイドをほっつき歩け/ブレイディみかこ
50 Coaching A to Z 未来を変えるコーチング/ヘスン・ムーン

49 「ハマータウンのおっさんたち」というサブタイトルがついている通り、「ハマータウンの野郎ども」というエスノグラフィーの名著に影響を受けて、イギリスのアラフィフ、アラ還世代の切なくも微笑ましいエピソードを描いたエッセイ集です。と言ってもブレイディみかこさんとその連れ合いの友人と言うごく狭い範囲での人物描写で、それぞれの人物に対する愛情あふれる視線が印象的です。普通の「おっさん」「おばはん」の日常を描いているにもかかわらず、非常に面白い読み物になっていて、ブレイディみかこさんの書き手としての力量の高さを思い知らされました。「おっさん」の生きにくさが世界共通だと知って、アラフィフの私も読んでいて少し楽になりました。特に、NHS(国民保健サービス)が単なる制度を超えて、左派の心の支えのイデオロギーになっているという記述が興味深かったです。そのため、緊縮財政でいかにNHSが使いにくい制度(無料ではあるものの医者に診てもらうための予約を取るために行列待ちしなければならず、さらに数か月も診察までに待たされることさえあるそうです)になっていても、日本のような〇割負担の保険制度にしようという議論にならないのは、このような背景があるそうです。さらに、EU離脱により浮いたEUへの拠出金がNHSの資金に使えるという離脱派の訴え(のちにその訴えに根拠が全くないことが判明するのですが)がブレグジットの決定的な要因の一つになったらしいです。このような事実を知ると、ブレグジットの背景に、反移民を超えた、古き良きイギリスを維持したいというおっさんたちの熱い思いがあったことがよくわかります。アメリカのトランプ大統領支持者の背景にも、我々日本人のが思っているようなシンプルな構造を超えた、個々人の思いがありそうです。つくづく、世界情勢を正確に理解するのは難しいと思いました。だからこそブレイディみかこさんのような異国の地べたで生活している人の文章に価値があるのだと思います。

50 タイトル通りコーチングの対話技法を教えてくれる本です。心理学の翻訳本にありがちな自分語りから各項目の議論が始まりますが、そのエピソードが、そこそこ面白い(「ミナリ」ばりの韓国人移民ストーリーが垣間見られます)のとギリギリ耐えられる分量なので、類似書程の嫌悪感は感じませんでした。対話技法の内容も一見類似書と同じようなことを言っているのです、ところどころに予想の斜め上を行く解釈や技法の紹介があり、発見の多い読書でした。基本的には相手のロジックを尊重しつつ、これまでに積み上げてきた成果に焦点を当てつつ、進みたい方向への気づきを与えるための質問方法を教えてくれます。語源からいろいろな気付きを与えるアプローチが多用されていて、個人的には、コーチングの定義を「目的・可能性・前進のストーリーをキュレートすること」とし、「curate」の語源として、ラテン語で「大切に扱う、気遣う」といった名詞の「cura」を紹介し、さらに英語の「cure(癒す)」も同じ語源から発生したと説明する手際は見事だと思いました。「happy」の語源である名詞「hap」が好機や幸運を意味し、「happening(突発的な出来事)」などに連なるとし、私たちがコントロールできない事象という説明も印象的です。そこから「幸福」よりも私たちがコントロール可能な「希望」の言語化に焦点を当てるコーチングを重視している点は、個人的にも納得感が高かったです。コーチングの基礎知識を一通り持たれている方にお勧めの本だと思います。


■CD
1 CIRCUS TOWN/山下達郎

 最近めっきりCDを買わなくなりましたが(年間100枚以上買った年もあったのに、こちらが今年に入って初めて購入したCDです)、サブスクでは聴けない山下達郎さんの作品を少しずつ集めていこうと思っています。こちらは1976年発表のソロ一作目です。二作目の「SPACY」を聴いたときにも思いましたが、さまざまな音楽を消化した上で、日本仕様に食べやすく料理した手腕が印象的です。各楽器の音もとてもよく、聴いていてひたすら心地よいです。「SPACY」と比較すると山下さん独自の個性はまだ発揮しきれていない印象ですが、それでも、ファーストアルバムでこのクオリティは驚異的です。聴いていてずっと飽きない点も素晴らしいです。背景にある膨大なインプットが、情報量のとても多い(それでいて疲れない)アウトプットに繋がっている歴史的名盤です。


■映画 
48 ジュラシック・ワールド/新たなる支配者/監督 コリン・トレヴォロウ

 「ジュラシック・パーク」シリーズの6作目にして、現時点での最新作です。6作目ともなると、もうどれを観たのかわからなくなりますね。あらすじを読んで観たことがないことに気づき慌てて観ました。過去作とストーリー上は繋がっているようですが、1作目以外の内容は、もうほとんど覚えていませんでした。それでも、本作だけ観ても十分に楽しめる内容でした。やはり、恐竜に人間が食べられるシーンや恐竜同士の激しいバトルは興奮しますね。夜間だけではなく日中でも恐竜が躍動している映像は、CG技術の発達を感じました。その一方での人間側のダメダメぶりも際立っていて、悪徳社長の最期はすっきりしました。映画内は人間社会に恐竜が解き放たれた混沌とした世界が描かれていますが、メタ的な視点に立つと主要人物は絶対に死なないという安心感が露骨に透けて見えるストーリー展開で、テーマパークのアトラクションのような安心感もありました。随所に現代社会批判のメッセージが込められているのですが、それがほとんど伝わらないほど、映像の力が強いです(恐竜だけでなく人間のアクションシーンも見応え十分です)。良くも悪くも頭を空っぽにして映像を楽しむタイプのシリーズになったと思います。その映像のクオリティがとてつもなく高い点は感嘆するばかりです。
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