■本
26 蜜蜂と遠雷/恩田 陸
27 日本再興戦略/落合 陽一
26 かなりの長編ですが、漫画を読んでいるかのような読みやすさで一気に読み終えました。コンテストという舞台設定をフルに活用し、誰が優勝するかと最後までドキドキさせられます。登場人物が演奏する様子が見え、演奏される音楽が聴こえてくるかのような恩田さんの筆力に圧倒されます。文体も自由自在で、これ以上熱が入ると自己満足では、となるギリギリのところで適度に抑制されているバランス感覚が素晴らしいと思いました。何より、キャラクターが魅力的で、圧倒的な天才揃いの中で、普通の人間でも共感できる高島明石という秀才タイプのキャラクターを配した点も見事でした。私は、この明石というキャラクターを応援することで、完全に作品の中に引き込まれました。挫折した天才が再起する様子や幼なじみとの偶然の再会など、ご都合主義的でベタになりがちな要素も作品世界が強力なので、力技で納得させられます。筆者の音楽に対する敬意が溢れ出ていて、読んでいて清々しい気持ちになる作品です。
27 タイトル通り、かなり大風呂敷を広げた扇動的な内容ですが、書かれている内容は極めてロジカルで説得力があります。専門のテクノロジーに関する議論に多くのページが割かれており、若干技術万能主義的な面もありますが、人口減少下では機械が人間の仕事を奪うことについての抵抗が少ないので、日本に取って逆にチャンスである、など、一定の根拠に基づく希望的観測が示されています。日本の文化的背景をきちんと分析した上で、政治、教育、コミュニティなどについても、「欧米」追従型でない日本向けにカスタマイズされた具体的な提言がなされているので参考になります(大企業で燻っているおじさん達を、事務処理能力等が不足しているベンチャー企業に供給するといった「ホワイトカラーおじさん」の生かし方、についての記述は耳が痛かったですが、これも説得力がありました)。単にビジョナリーなだけでなく、落合さん自身が、経営者、アーチスト、教育者として、しっかりと活動されているが故の説得力があるのだと思います。
■CD
3 Boarding House Reach/Jack White
元ザ・ホワイト・ストライプス、ジャック・ホワイトの新作です。いつもの温故知新的なアプローチはそのままに、本作はかなり実験的な作品となっています。キャッチーさはかなり二の次とされていて、初期衝動を重視した粗削りな構成の楽曲が多い印象です。その分、情念は迸りまくってます。ギターをフィーチャーした楽曲がほとんどないところがファンにとっては戸惑う点かもしれません。正直言って、私もまだ感想をうまく言語化できていません(いつもですが)。ただ、聴き込むほどに新たな魅力が出てくるという確信だけは不思議とあります。
■映画
22 ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険/監督 高橋 敦史
23 ウルフ・オブ・ウォールストリート/監督 マーティン・スコセッシ
22 最近の映画版のドラえもんは脚本がしっかりしているので、安心して楽しめます。この作品も、タイムパラドックス的な内容を、子どもにも理解できるようにわかりやすく処理されています。映画版の宿命として、新キャラや設定の説明に時間を要するので、序盤は冗長、クライマックス以降は子どもの集中力持続時間にも配慮してか一気に急展開、というバランスの悪さが大人にとってはどうしても気になってしまうのですが、この作品はさほど苦になりませんでした。明確な「悪人」を描かないところなど、随所に工夫がなされている点も感心しました。
23 レオナルド・ディカプリオの怪演、マーティン・スコセッシ監督の挑発的で野心的な演出、豪華な共演陣など、観るべきところの多い作品ですが、3時間近い上映時間はやはり長すぎます。主人公の生い立ちやサブキャラクターの深堀りなど、サイドストーリーがほとんどなく、ハイテンションで薬まみれのウォールストリートバイヤーの成功と没落の話だけで、よくここまで引っ張れたと逆に言えるかもしれません。主人公の下衆な生活は露悪的なまでに再三描写されているのに、なぜ、彼が罪に問われたのかについての説明は希薄で、結局、主人公の独り相撲にしか見えないところも残念です。画面から溢れんばかりのパワーが伝わってくる点は素晴らしいですが、それが、鬱陶しさにしかつながっていない印象です。レオナルド・ディカプリオは、やはりこの作品ではなくて、「レヴェナント」でオスカーを取ってよかったと思います。
26 蜜蜂と遠雷/恩田 陸
27 日本再興戦略/落合 陽一
26 かなりの長編ですが、漫画を読んでいるかのような読みやすさで一気に読み終えました。コンテストという舞台設定をフルに活用し、誰が優勝するかと最後までドキドキさせられます。登場人物が演奏する様子が見え、演奏される音楽が聴こえてくるかのような恩田さんの筆力に圧倒されます。文体も自由自在で、これ以上熱が入ると自己満足では、となるギリギリのところで適度に抑制されているバランス感覚が素晴らしいと思いました。何より、キャラクターが魅力的で、圧倒的な天才揃いの中で、普通の人間でも共感できる高島明石という秀才タイプのキャラクターを配した点も見事でした。私は、この明石というキャラクターを応援することで、完全に作品の中に引き込まれました。挫折した天才が再起する様子や幼なじみとの偶然の再会など、ご都合主義的でベタになりがちな要素も作品世界が強力なので、力技で納得させられます。筆者の音楽に対する敬意が溢れ出ていて、読んでいて清々しい気持ちになる作品です。
27 タイトル通り、かなり大風呂敷を広げた扇動的な内容ですが、書かれている内容は極めてロジカルで説得力があります。専門のテクノロジーに関する議論に多くのページが割かれており、若干技術万能主義的な面もありますが、人口減少下では機械が人間の仕事を奪うことについての抵抗が少ないので、日本に取って逆にチャンスである、など、一定の根拠に基づく希望的観測が示されています。日本の文化的背景をきちんと分析した上で、政治、教育、コミュニティなどについても、「欧米」追従型でない日本向けにカスタマイズされた具体的な提言がなされているので参考になります(大企業で燻っているおじさん達を、事務処理能力等が不足しているベンチャー企業に供給するといった「ホワイトカラーおじさん」の生かし方、についての記述は耳が痛かったですが、これも説得力がありました)。単にビジョナリーなだけでなく、落合さん自身が、経営者、アーチスト、教育者として、しっかりと活動されているが故の説得力があるのだと思います。
■CD
3 Boarding House Reach/Jack White
元ザ・ホワイト・ストライプス、ジャック・ホワイトの新作です。いつもの温故知新的なアプローチはそのままに、本作はかなり実験的な作品となっています。キャッチーさはかなり二の次とされていて、初期衝動を重視した粗削りな構成の楽曲が多い印象です。その分、情念は迸りまくってます。ギターをフィーチャーした楽曲がほとんどないところがファンにとっては戸惑う点かもしれません。正直言って、私もまだ感想をうまく言語化できていません(いつもですが)。ただ、聴き込むほどに新たな魅力が出てくるという確信だけは不思議とあります。
■映画
22 ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険/監督 高橋 敦史
23 ウルフ・オブ・ウォールストリート/監督 マーティン・スコセッシ
22 最近の映画版のドラえもんは脚本がしっかりしているので、安心して楽しめます。この作品も、タイムパラドックス的な内容を、子どもにも理解できるようにわかりやすく処理されています。映画版の宿命として、新キャラや設定の説明に時間を要するので、序盤は冗長、クライマックス以降は子どもの集中力持続時間にも配慮してか一気に急展開、というバランスの悪さが大人にとってはどうしても気になってしまうのですが、この作品はさほど苦になりませんでした。明確な「悪人」を描かないところなど、随所に工夫がなされている点も感心しました。
23 レオナルド・ディカプリオの怪演、マーティン・スコセッシ監督の挑発的で野心的な演出、豪華な共演陣など、観るべきところの多い作品ですが、3時間近い上映時間はやはり長すぎます。主人公の生い立ちやサブキャラクターの深堀りなど、サイドストーリーがほとんどなく、ハイテンションで薬まみれのウォールストリートバイヤーの成功と没落の話だけで、よくここまで引っ張れたと逆に言えるかもしれません。主人公の下衆な生活は露悪的なまでに再三描写されているのに、なぜ、彼が罪に問われたのかについての説明は希薄で、結局、主人公の独り相撲にしか見えないところも残念です。画面から溢れんばかりのパワーが伝わってくる点は素晴らしいですが、それが、鬱陶しさにしかつながっていない印象です。レオナルド・ディカプリオは、やはりこの作品ではなくて、「レヴェナント」でオスカーを取ってよかったと思います。