本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

蜜蜂と遠雷

2018-03-31 10:19:56 | Weblog
■本
26 蜜蜂と遠雷/恩田 陸
27 日本再興戦略/落合 陽一

26 かなりの長編ですが、漫画を読んでいるかのような読みやすさで一気に読み終えました。コンテストという舞台設定をフルに活用し、誰が優勝するかと最後までドキドキさせられます。登場人物が演奏する様子が見え、演奏される音楽が聴こえてくるかのような恩田さんの筆力に圧倒されます。文体も自由自在で、これ以上熱が入ると自己満足では、となるギリギリのところで適度に抑制されているバランス感覚が素晴らしいと思いました。何より、キャラクターが魅力的で、圧倒的な天才揃いの中で、普通の人間でも共感できる高島明石という秀才タイプのキャラクターを配した点も見事でした。私は、この明石というキャラクターを応援することで、完全に作品の中に引き込まれました。挫折した天才が再起する様子や幼なじみとの偶然の再会など、ご都合主義的でベタになりがちな要素も作品世界が強力なので、力技で納得させられます。筆者の音楽に対する敬意が溢れ出ていて、読んでいて清々しい気持ちになる作品です。

27 タイトル通り、かなり大風呂敷を広げた扇動的な内容ですが、書かれている内容は極めてロジカルで説得力があります。専門のテクノロジーに関する議論に多くのページが割かれており、若干技術万能主義的な面もありますが、人口減少下では機械が人間の仕事を奪うことについての抵抗が少ないので、日本に取って逆にチャンスである、など、一定の根拠に基づく希望的観測が示されています。日本の文化的背景をきちんと分析した上で、政治、教育、コミュニティなどについても、「欧米」追従型でない日本向けにカスタマイズされた具体的な提言がなされているので参考になります(大企業で燻っているおじさん達を、事務処理能力等が不足しているベンチャー企業に供給するといった「ホワイトカラーおじさん」の生かし方、についての記述は耳が痛かったですが、これも説得力がありました)。単にビジョナリーなだけでなく、落合さん自身が、経営者、アーチスト、教育者として、しっかりと活動されているが故の説得力があるのだと思います。


■CD
3 Boarding House Reach/Jack White

 元ザ・ホワイト・ストライプス、ジャック・ホワイトの新作です。いつもの温故知新的なアプローチはそのままに、本作はかなり実験的な作品となっています。キャッチーさはかなり二の次とされていて、初期衝動を重視した粗削りな構成の楽曲が多い印象です。その分、情念は迸りまくってます。ギターをフィーチャーした楽曲がほとんどないところがファンにとっては戸惑う点かもしれません。正直言って、私もまだ感想をうまく言語化できていません(いつもですが)。ただ、聴き込むほどに新たな魅力が出てくるという確信だけは不思議とあります。


■映画 
22 ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険/監督 高橋 敦史
23 ウルフ・オブ・ウォールストリート/監督 マーティン・スコセッシ

22 最近の映画版のドラえもんは脚本がしっかりしているので、安心して楽しめます。この作品も、タイムパラドックス的な内容を、子どもにも理解できるようにわかりやすく処理されています。映画版の宿命として、新キャラや設定の説明に時間を要するので、序盤は冗長、クライマックス以降は子どもの集中力持続時間にも配慮してか一気に急展開、というバランスの悪さが大人にとってはどうしても気になってしまうのですが、この作品はさほど苦になりませんでした。明確な「悪人」を描かないところなど、随所に工夫がなされている点も感心しました。

23 レオナルド・ディカプリオの怪演、マーティン・スコセッシ監督の挑発的で野心的な演出、豪華な共演陣など、観るべきところの多い作品ですが、3時間近い上映時間はやはり長すぎます。主人公の生い立ちやサブキャラクターの深堀りなど、サイドストーリーがほとんどなく、ハイテンションで薬まみれのウォールストリートバイヤーの成功と没落の話だけで、よくここまで引っ張れたと逆に言えるかもしれません。主人公の下衆な生活は露悪的なまでに再三描写されているのに、なぜ、彼が罪に問われたのかについての説明は希薄で、結局、主人公の独り相撲にしか見えないところも残念です。画面から溢れんばかりのパワーが伝わってくる点は素晴らしいですが、それが、鬱陶しさにしかつながっていない印象です。レオナルド・ディカプリオは、やはりこの作品ではなくて、「レヴェナント」でオスカーを取ってよかったと思います。



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アマゾンが描く2022年の世界

2018-03-26 06:44:53 | Weblog
■本
25 アマゾンが描く2022年の世界/田中 道昭

 アマゾンの現状の取り組みや今後の戦略について、最新情報が詳しく整理されているよい本です。ジェフ・ベゾスという人物を掘り下げて分析されている点や、アリババ(恥ずかしながら、ジャック・マーという人物をあまりよく知らなかったのですが、この人物について詳しく知ることができたのもこの本を読んだ収穫でした)との比較がそれぞれの長所と課題とともに整理されている点も非常に参考になりました。「5ファクターメソッド」という筆者独自の分析メソッドは正直私には取っつきにくいものでしたが、PESTや3Cなどのフレームワークを用いながら分析はわかりやすく、なぜ、リアル店舗(ECでは取得できない位置情報や店舗の購買情報を取得しようとしている)への取り組みを推進しているのか、など、アマゾンの取り組みの背景にある考えもよく理解できました。こういう本は鮮度が大事なので、いいタイミングで読んだと思います。


■映画 
20 ちはやふる-上の句-/監督 小泉 徳宏
21 ちはやふる-下の句-/監督 小泉 徳宏

20、21 原作漫画は読んでいないのですが、キャラクターが立っていてわかりやすく、王道の青春スポーツものです。ベタベタの恋愛ストーリーにしていないところも良いと思いました。おそらく原作の完成度がかなり高いので、広瀬すずさんの制服、体操服姿を観るための映画という側面も大きいと思いますが、暗い役が多いイメージ(「海街diary」の印象が強いためでしょうが)の彼女が、きちんとコメディエンヌとして存在感を放っている点が印象的です。競技かるたの緊迫感や激しさを伝える、接写が多くダイナミックな映像も小気味良いです。気楽に安心して楽しめるよい映画だと思います。
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失敗の本質

2018-03-17 10:12:56 | Weblog
■本
23 失敗の本質/戸部 良一、寺本 義也、鎌田 伸一、杉之尾 孝生、村井 友秀、野中 郁次郎
24 肩書き捨てたら地獄だった/宇佐美 典也

23 最近、社内の新規事業部門の若手がよく読んでいるという話を聞いたので、以前から気になっていたこの本を読みました。大東亜戦争の日本軍の失敗を分析し、その組織的特性を明らかにするという内容が、まず、読み物として抜群に面白かったです。特に、インパール作戦の事例研究は、私の祖父が一兵卒としてこの戦いに参加していたらしく、地球儀でビルマを指し示しつつ、いかにその戦いが辛かったかについて、子どものときに何度も聞いていたので、よりリアルに感じながら読みました。日本の社会は、組織に過剰適応しないと成功しにくいですが、その適応が過剰であるが故に、環境変化に柔軟に対応できないというジレンマに今も悩まされているのだと思います。そういう意味では、過去に成功を納めたが衰退しつつある既存事業に取り組む社員と、環境変化により柔軟に対応した新規事業に取り組む社員との間に軋轢が生じるのはある意味当然で、この本で言われる過去の成功体験を忘れる「学習棄却」というプロセスとそれを組織に浸透させるリーダーシップとフォロワーシップが重要なのだと思います。また、私もどちらかと言えば自分の経験に基づく「帰納的」なアプローチで意思決定を行う傾向が強いので、既知の一般的法則に基づく「演繹的」な思考法とのバランスを意識的に取っていく必要性も感じました。

24 タイトル通り、東大卒の元経済産業省キャリア官僚が、起業を目指して肩書を捨て退職したが、その後思うように仕事が得られず貯金も尽きてどん底に落ちた後に、ブログ等のセルフブランディングにより、徐々に新たな人間関係が構築でき、今ではベンチャー企業の代表やテレビのコメンテーターとして活躍するにまで至った、という経緯が書かれた本です。東大に合格できるだけの地頭があったから、と言ってしまえばそれまでですが、ブログ等読者の反応がリアルに得られるメディアでの情報発信で鍛えられた方だけあって、自分のコンプレックスなどを赤裸々に語り、上から目線ではない実にバランスの取れた文体が印象的です。元官僚らしく、日本の労働環境が変化していることについてのマクロ的な分析を交えつつ、自らの経験をもとに、セルフブランディングとゆるやかな人的つながりにより、組織に頼らないキャリア形成を提案されているところも説得力があります。グローバル競争至上主義者に対して反論した「アンチグローバルマッチョ宣言」など、扇情的ではない身の丈にあった提案をされているところも共感できます。


■映画 
19 小さいおうち/監督 山田 洋次

 黒木華さんがベルリン映画祭で最優秀女優賞を受賞したことでも話題になった作品です。山田洋次監督作品らしく、俳優陣の能力を十分に活かして人間のささやかな心の交流を丁寧に描いた作品ですが、この監督にしては珍しく恋愛関係がメインとなっている点が新鮮でもありました。予告編を観た印象では、松たか子さん、吉岡秀隆さん、黒木華さん演じる主要登場人物の三角関係が描かれていると思っていましたが、主従関係等もっと微妙な関係が取り上げられています。戦時中の描写も徐々に閉塞感が漂い悲惨ではあるものの、個々人がそれなりに日々の「生活」を楽しんで過ごしている様子が、より多面的にリアルに表現されているところも印象的です。過度にドラマティックな演出を排し、職人芸のように地に足のついた繊細な人間模様が描かれている好感の持てる作品です。山田洋次監督の熟練の技が堪能できます。
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湯を沸かすほどの熱い愛

2018-03-10 06:56:36 | Weblog
■本
20 底辺への競争/山田 昌弘
21 サイコパス/中野 信子
22 夢魔去りぬ/西村 賢太

20 「パラサイト・シングルの時代」や「希望格差社会」という著書で有名な山田昌弘さんの本です。「パラサイト・シングル」に象徴的な、将来に希望を持てないながらも、親に寄生しながらそれなりに裕福な生活をしていたアラフォー世代が、いよいよ、親の高齢化や自身の賃金低下により、中流生活を維持できなくなりつつある現状を描いた本です。私たちアラフォー世代が若い時に漠然と感じていた、希望のない未来がまさに現実となったかたちで、読んでいてやるせない気分になります。また、前述した本で、そのような社会的な問題点を指摘していたにもかかわらず、予想通りに悲惨な未来が到来した山田先生の無念さも読んできて伝わってきます。それでも、この現状をどのように改善していけばよいかの処方箋を出されているところは立派ですし、参考になります。悲惨な未来が現実に到来した以上、打てる手はそれほどなく、結局は個人、地域、国がそれぞれ負担を負いつつ、連携してなんとか凌いでいくしかないのだと思います。

21 昨年のベストセラーということで読みましたが、さほど新たな発見はありませんでした。決してわかりやすい本ではないのに、ヒットしたということは、サイコパスに悩まされている人が想像以上に多いのかもしれません。脳科学を背景に、サイコパスが他者への共感や、恐れを感じにくいということが証明されています。また、進化心理学をベースに、社会的に悪影響を与えるサイコパスが、なぜ、現存しているかを分析したところは興味深かったです。不確実性が増す現代社会においては、リスクや他者との軋轢を恐れず、とりあえず行動に移すことのできる、サイコパスの需要が高まっていいて、その点もこの本が注目された理由かもしれません。

22 西村賢太さんの短編集。同棲女性にDVを働くいわゆる秋恵ものは、主人公北町貫多の相変わらずのクズっぷりが安定の(?)クオリティですが、その主人公と真逆の善良な古書店主、新川というキャラクターが新たに登場するなど、微妙に新しい展開を見せてくれます。何と言っても注目すべきは、父親の性犯罪が理由で転校を余儀なくされた母校の小学校に、テレビ番組の企画で芥川賞作家として子どもたちに私小説を教えた際の心情を描いた表題作です。これまであまり触れられることのなかった、父親やその小学校の同級生、近所の人々などに対する、微妙な感情が生々しい言葉で率直に語られていて胸を打ちます。西村賢太さんの進化が感じられる作品集です。


■映画 
17 湯を沸かすほどの熱い愛/監督 中野 量太
18 ブラックパンサー/監督 ライアン・クーグラー

17 宮沢りえさんの熱演が話題になった作品ですが、彼女の演技だけでなく、全体的にとても素晴らしい作品です。余命数ヶ月の主人公が残された時間を家族(この家族の定義も血のつながりに限定されていないところが新しいです)のために惜しみなく捧げる、という言葉にするとお涙頂戴的なストーリーを、主人公の過去と絡めながら、斜め上の予想がつかない展開で観客を惹きつける監督の手腕が見事です。その美しくもトリッキーな脚本に、宮沢りえさんだけでなく、オダギリジョーさん、杉咲花さんが見事な演技で応えます。さらに、子役の演技も完璧なのでほぼ無敵の布陣です。どこか昭和を感じさせる映像と相まって、懐かしくも新しい独特の世界観を作りだすことに成功しています。不遇な境遇の主人公が死に向かっていくストーリーなのに、ポジティブな空気が全編に流れていて、安易な方向に流れない創り手側の志の高さが感じられる傑作です。

18 ストーリー的には、一度失った王座を主人公が奪還するという定番のものですが、テーマとその語り口が新鮮です。テーマの方は、自国の安定と世界平和との間に悩む国王の葛藤という、極めて現代的なものを真っ向から取り上げているところが興味深いです。語り口の方は、これまで白人男性主人公をサポートする役割の多かった、黒人男性や女性が前面に立って、しかも、身体的強みだけでなく知的な優位性を武器に戦っているところが新しいです。説教臭くならず、エンターテイメントに徹しながらも、時代を踏まえたメッセージを作品に込めてくる、ハリウッドの底力が感じられる作品です。日本の単純な漫画原作映画化作品とは、予算だけでなくその目指すところのスケールが違う気がします。
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サブマリン

2018-03-03 05:53:16 | Weblog
■本
18 9プリンシプルズ/伊藤 穰一、 ジェフ・ ハウ
19 サブマリン/伊坂 幸太郎

18 「理論より実践」、「強さより回復力」など、技術進化が速く、複雑性が高まった現代社会で必要な9つの原理が、さまざまなエピソードとともに紹介されています。シンプルな言葉で書かれた9つの原理自体はどれも納得感が高いものですが、翻訳が悪いのか、原文がそもそもそうなのかはわかりませんが、各エピソードが脈絡もなく紹介されているので、少し取っつきにくく、読み手を選ぶかもしれません。「シンギュラリティ時代の成功法」といったような、わかりやすい内容にあえてしたくなかったのかもしれません。こういう知の最先端にいる人たちも、結局は自分が情熱を持って打ち込めるものを、速く小さく始めて失敗しながら成功に導いていく、というアプローチを取られているという事実に不思議な勇気が湧いてきます。

19 家庭裁判所の未成年担当調査官を主人公にした「チルドレン」という作品の続編です。何と言っても陣内という破天荒でどこか心優しいキャラクターが魅力的です。未成年の無免許運転による複数の過失致死事件が時代を越えて複雑に絡み合いながら、「罪と罰と更生」について、多面的な視点から見事に描かれています。安易な二元論に陥っていないところに共感します。相変わらず、やたらとスキルの高い超人的な人物が登場しますが、今回はその存在が控えめで、伊坂さんの作品にしては、極めてリアルな印象が残ります。それでいて、様々な伏線が見事に回収されていくストーリー展開は快感です。エンターテインメントと社会性、そして読みやすさが見事に融合した素敵な作品です。伊坂幸太郎さんの作品の中で一番好きかもしれません。


■映画 
15 スコア/監督 フランク・オズ
16 シェイプ・オブ・ウォーター/監督 ギレルモ・デル・トロ

15 ロバート・デ・ニーロのための映画です。彼の可愛げと渋さが堪能できます。50代後半時の作品ですが、果敢にアクションにも取り組んでいて格好いいです。ストーリー的には、ありがちな金庫破りものですが、トリッキーな役を見事に演じたエドワード・ノートンとの演技合戦が見ものの安定感抜群の作品です。マーロン・ブランドの遺作となった作品ですが、役的には老いぼれた犯罪プロデューサーで、さほど見せ場もなく、少し残念でした。

16 今年のアカデミー賞最多ノミネート作品ということで観に行きました。個人的には、極めてストーリー力が強い「スリー・ビルボード」の方が好きですが、似たような作品がありそうでない(「ET」とか「スプラッシュ」を連想しますが、やはりどこか違います)、独特の世界観が見事です。映像、音楽、脚本、演技とも完成度の高い作品です。リアリズムを追求した雰囲気で、突然ミュージカル風の展開になったのは少し興ざめでしたが、これも古い映画か何かのオマージュなのでしょうか? 確かに、今の時代に純愛を描こうと思えば、いろんなパターンがやり尽くされていて、もう人間同士だと難しいのかもしれません。ギレルモ・デル・トロ監督の個性(怪獣好き)が画面から迸っていて、自分のやりたいことをやりつくすパワーに圧倒されます。
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