本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

オーバー・フェンス

2016-09-24 08:51:10 | Weblog
■本
75 〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則/ケヴィン・ケリー
76 何者/朝井 リョウ

75 邦題タイトルが若干ミスリードしそうですね。インターネットの次にくる「もの」をずばり予測する本ではなく、「COGNIFYING]、「FILTERING]、「INTERACTING」など、AR、IoTなどの普及に伴う、今後のテクノロジーの方向性の核となるキーワードについて解説された本です。抽象的な議論が多く少し取っつきにくいですが、各章の後半にそれぞれの要素が浸透することにより、将来の生活がどのように変わるかについて具体的に解説してくれているので、なんとか議論についていけると思います。特段、新しい発見はないですが、現状のテクノロジーの動向とそれらが人々に与える影響を体系的に理解するにはよい本だと思います。

76 人間のダークな部分をこれでもかと描きつつ、後味はそれほど悪くなく、社会批評を随所に盛り込みつつ、エンターテイメント作品としても成立している素晴らしい作品だと思います。「就活」というこれまでの自己肯定感を一気に否定される状況を舞台にしたことと、人間の内面を可視化する装置としてのソーシャルメディアの使い方が非常に巧みです。終盤に思わぬどんでん返しがあるのですが、その伏線の張り方も見事で、「桐島、部活やめるってよ」でも思いましたが、朝井さんの全体的な構成力の高さに感心しました。


■CD
57 Jack White Acoustic Recordings 1998-2016/Jack White
58 Here/Teenage Fanclub

57 タイトル通り、ザ・ホワイト・ストライプス時代の作品も含めた、ジャック・ホワイトのアコースティック楽曲集です。月並みな表現で恐縮ですが、既発表曲はシンプルな構成のため楽曲自体の良さがより際立っていますし、未発表曲も収録されているので、ファンには楽しめる内容だと思います。ただ、もともと凝ったアレンジをするアーティストではないので、楽曲の新しい側面を発見するというよりも、ジャック・ホワイトの迸る才気を再確認するといった位置づけの作品だと思います。

58 ティーンエイジ・ファンクラブの6年ぶりの新作。ジャケットの印象そのままに、淡々と素敵な楽曲を奏でる円熟の極みのような作品です。穏やかで美しいハーモニーを聴いていると悟りの境地に近づける気さえします。過度にドラマティックにならず、それでいて心の琴線にきっちりと触れるメロディが素晴らしいです。短く唐突にフェイドアウトする曲もあり、一聴すると淡泊な印象もありますが、繰り返し聴くとその深みが感じられる、長く付き合っていける作品です。


■映画
67 さらば愛しき女よ/監督 ディック・リチャーズ
68 グッモーエビアン!/監督 山本 透
69 オーバー・フェンス/監督 山下 敦弘

67 コンパクトまとまっていて見やすい映画でしたが、同じレイモンド・チャンドラー原作の映画化である「ロング・グッドバイ」の方が、主人公フィリップ・マーロウのイメージが近かった気がします。ダイジェスト版のように、余計なものを一切排除して、一気に結論へと進んでいきます。そういう意味でも、ロバート・アルトマン的なトリッキーな設定が多かった「ロング・グッドバイ」とは対照的です。若いシルヴェスター・スタローンがチョイ役で出ています。

68 破天荒な親と(その恋人)に振り回される、思春期の子どもというよくある設定の映画ですが、麻生久美子さん、 大泉洋さんの巧みな演技で安定感のある作品となっています。 大泉洋さんは好きな役者さんですが、このキャラクターはあまりにも自由過ぎて、さほど共感できませんでした。麻生久美子さん演じる母親が、主人公の少女を諭す言葉も、一見愛情がこもっているようで、実は自分の価値観の押し付けで(自由に生きろと言いつつ、結局親たちの価値観を押し付けている気がします)、クライマックスシーンもさほど心が動かされませんでした。そんな中、主人公の友人を演じた能年玲奈さんが、これぞ能年玲奈という個性全開の演技で好演されていて印象的でした。

69 佐藤泰志さん原作作品を映画化した「函館3部作」の最終章ということで楽しみに観に行きました。「海炭市叙景」、「そこのみにて光輝く」も素晴らしい作品でしたが、この作品も「地方都市の疲弊」という言葉だけでは片付けられない、「生きる」こと自体の辛さ、難しさが、痛いほどに伝わってきます。ただ、 オダギリジョーさんの抑制の効いた演技もあって、その「生きにくさ」が前面に出るというよりも、ふとした感情のゆらぎにより垣間見えるところがより効果的です。中年男性として、このような立ち振る舞いができればとあこがれてしまいました。ヒロインの蒼井優さんは、オダギリジョーさんとは対照的に、情緒不安定な役を大熱演されていて、その演技力を余すことなく見せつけてくれます。これまでの2作と異なり、ハッピーエンディングなこともあってか、「生きにくさ」を抱えて何とかやっていこうという希望を与えてくれる作品です。
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パイレーツ・ロック

2016-09-17 09:52:32 | Weblog
■本
73 洗えば使える泥名言/西原 理恵子
74 400のプロジェクトを同時に進める 佐藤オオキのスピード仕事術/佐藤 オオキ

73 「人のことを憎み始めたらヒマな証拠」や「いつも心に野村沙知代」など、西原理恵子さんのエッセイ漫画や他の本でも引用されている言葉が多いですが、いつもの西原節でどぎつい下ネタと、人生について考えさせられる抒情的な内容のバランスが絶妙です。タイトル通り、単なるきれいごとでは片づけられない言葉が並んでいます。個として自立して、自由にしたたかに生きることの大切さに気づかされます。

74 新進気鋭のデザインオフィス、nendo代表の佐藤オオキさんによる仕事術が書かれた本です。タイトルだけ見ると、自慢話のオンパレードなような嫌な予感がしましたが、内容は実に謙虚に真摯に仕事に取り組む上での姿勢が語られています。「仕事の質はスピードで決まる」など、一風これまでの常識と異なる主張が並びますが、筆者独特の本質を捉える視点でロジカルな考え方に基づき説明してくれているので、腹落ち度も高いです。確かに佐藤さんだからできる内容も多いのですが、集中して考える環境づくりと、初動の準備の周到さ、に特に重点を置かれている点などは、デザイン以外の仕事にも参考になります。


■CD
56 Schmilco/Wilco

 前作「Star Wars」がエレクトリックな激しいサウンドが中心だったのと対象的に、今作は、アコースティックでしみじみとささやくようなヴォーカルで聴かせる楽曲が多いです。3分前後の短い曲が大半で、あっという間に聴き終わりますが、ひっかかりの多い楽曲が多く、繰り返し楽しめそうです。似たようなバンドがいない、唯一無二のWilcoというバンドの個性を楽しむにはよい作品です。どちらかと言えば、コアなファン向けの作品だとも言えます。前作と合わせて聴くとこのバンドの引き出しの多さをより感じられると思います。


■映画
65 パイレーツ・ロック/監督 リチャード・カーティス
66 スーサイド・スクワッド/監督 デヴィッド・エアー

65 ちょっと下品な下ネタが多すぎる気がしますが、1960年代当時のイギリスの、ロック・ミュージックがいかがわしさとそれが故の大きな魅力を持っていた時代の空気感がよく再現されていて素敵な映画です。音楽をテーマにした映画だけに、作品中で使われている楽曲の選曲も適度にマニアックで絶妙です。どのDJのキャラクターも非常に個性的で、その奇妙な大人に囲まれて次第に変わっていく主人公の青年を描いた、成長譚としてもよくできています。必ずしもハッピーエンディングではないところもイギリス映画的で好ましいです。フィリップ・シーモア・ホフマンが、破天荒な人気DJを、かわい気たっぷりに魅力的に演じていて魅力的です。

66 特殊能力を持つ犯罪者集団が世界を救うという話なのですが、予告編の印象ほどエキセントリックではなく、極めてオーソドックスなアクション映画です。ウィル・スミスが主人公の一人ということから、なんとなく予想はしていましたが、敵に対しても汚い手段で対抗するというよりも、真正面から力勝負で渡り合い迫力はあるのですが、あまりにも捻りがなく少し拍子抜けしました。むしろ、この犯罪者集団を組織する権力者側が、実にずるく、その割には今回の敵となる魔女を自作自演的に呼び起してしまうという体たらくぶりでなかなか残念です。そんな中、サイコな女性キャラ、ハーレイ・クインがとてもキュートでかつ外道な魅力を振りまいていて、この映画を無個性な駄作となることを防いでくれています。ハーレイ・クインのこの映画を救う活躍ぶりを、観るための映画と言えます。
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働く君に伝えたい「お金」の教養

2016-09-10 10:55:52 | Weblog
■本
69 USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門/森岡 毅
70 働く君に伝えたい「お金」の教養 人生を変える5つの特別講義/出口 治明
71 壇蜜×西原理恵子の銭ゲバ問答「幸せはカネで買えるか」/西原理恵子、 壇蜜
72 スパルタ婚活塾/水野 敬也

69 USJをV字回復させた元P&G社員の森岡さんによるマーケティングの教科書的な本です。前作がUSJ復活の裏話的な内容で、すでに出ている次作が、数字を用いたマーケティングの上級書ということなので、その間をつなぐ入門書的な本だと思います。世界を代表するマーケティング企業であるP&Gのノウハウも随所に盛り込まれていると推察されます。何より、マーケティングを広告予算をどのように使うかという部分最適の考え方ではなく、徹底的な消費者理解に基づき、自社の製品やサービスをどのように位置付ければ最も成果が得られるか、という全体最適の考え方に立っていることが印象的です。それだけに、各部門の合議制で物事が決まることが多い日本では難しい面があり、逆に伸びしろもたくさんあることに気づかされます。マーケティングだけでなく、キャリアについての考え方についてもご自身の経験から丁寧にかつ具体的に解説して下さっているので、若い人には特に有益だと思います。

70 こちらも若い人にお勧めの本です。ライフネット生命会長の出口さんが、お金の「使い方」、「貯め方」、「殖やし方」、「稼ぎ方」についてわかりやすく解説してくれます。類似書と異なり楽しく有意義なお金の「使い方」について多くの紙面を割いているところと、「殖やし方」で「自分への投資」を最重視されているところ、そしてバブル時の名残のイケイケの精神論を批判されている点が、出口さんらしい優しさに満ちています。「稼ぎ方」についてはキャリアや政治との関わり方についても触れられており、一種の人生論的な展開を見せてきて、とても味わい深い内容になっています。とても本質的なことが書かれているのですが、語り口はユーモアで非常にわかりやすいです。

71 グラビアタレント壇蜜さんと漫画家西原理恵子さんの対談をまとめた本です。自分の力で波乱に満ちた人生を切り開いてきた方々なので、若干露悪気味に地に足のついた人生論が展開されています。結局、自分でお金を稼いで、それをささやかながらも自分や家族のために楽しく使っていくことが人生で一番素晴らしいことだということに気づかされます。

72 「夢をかなえるゾウ」などで有名な水野敬也さんによる、女性向けの婚活指南です。全編下ネタとベタなギャグが満載で、水野さんの独特の世界観になじめない人はちょっとキツイかもしれませんが、ファンの方は無条件に楽しめる内容だと思います。ただ、この世界観になじめない人でも、巻末のエピローグだけは必読です。水野さん自身の経験を踏まえつつ、自分のコンプレックスや悩みとどのように付き合って、いつか得られるかもしれない喜びに向けて一歩を踏み出すか、について優しく励ましてくれます。この部分だけでも、
「夢をかなえるゾウ」を全部読む以上の勇気を与えてくれると思います。


■映画
63 崖っぷちの男/監督 アスガー・レス
64 グランド・イリュージョン 見破られたトリック/監督 ジョン・M・チュウ

63 突然高層ホテルの淵に立ち自殺をほのめかした男の真意が次第に明らかになる、というストーリー展開に意外性があり楽しめました。悪役は実に憎々しく、協力者はひたすら献身的といったように、キャラクター分けもわかりやすいので感情移入しやすいです。恋人の兄を救うために、様々な危険をおかして、セキュリティが厳重なビルに潜入する女性キャラが現実離れしてますが魅力的です。警察の腐敗を描いたありがちなテーマですが、ストーリーやキャラクターにちょっとした工夫を施して独自性を示すことに成功しています。

64 マジックを武器に大金を華麗に奪う窃盗団を描いた作品の続編です。今回も壮大なトリックとその種明かしが楽しめますが、それよりもストーリー展開のトリッキーさで観客を驚かすことに重点を置いている気がします。ですので、前作でストーリーと絶妙にマッチしたマジックの見せ方に感心した私のような人には若干物足りなさが残るかもしれません。カードマジックの巧みな技の披露は見事ですが、ストーリーとの絡みではかなり強引ですし、何より催眠術がネタのトリックが多すぎます。とは言え、後半にかけて前作も含めたさまざまな謎が次々と明らかにされる展開は、スピーディーでかなり引き込まれました。逆に前作を観ていない人にはハードルが高いかもしれませんが、似たような作品が多い最近のハリウッド映画の中では、独自の試みにいろいろと挑んでいる好ましい作品だと思います。
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Music of My Mind

2016-09-03 10:22:41 | Weblog
■本
68 鋼のメンタル/百田 尚樹

 「他人の悪口は大いに言うべし」や「成功を得るためにはタイムリミットがある」など、例によって語り口はかなり過激ですが、「幸せの基準を他人に求めるな」や「喜怒哀楽があってこその人生」など、妥当な内容も多いです。自分に取って腹落ちする内容だけを参考にすればよいと思います。百田さんのある意味極論を通じて、自分の考え方の傾向を相対的に把握するにも役立つかもしれません。メンタルを鍛えるための一般論よりも、やはり波乱万丈な百田さんご自身のエピソードの方が読んでいて面白いです。


■CD
50 君の名は。/RADWIMPS
51 Bobby Gillespie Presents Sunday Mornin' Comin' Down/Bobby Gillespie
52 Easter/Patti Smith Group
53 Hi Infidelity/Reo Speedwagon
54 Rough Harvest/John Mellencamp
55 Music of My Mind/Stevie Wonder

50 後述する映画「君の名は。」のサントラです。RADWIMPSが担当ということで、映画を観る前に購入して聴きました。「前前前世」、「なんでもないや」といったヴォーカル入りの主題歌は、どれもシングルカットできそうなキャッチーな曲でさすがのクオリティーです。特に「スパークル」は9分近い長さのドラマティックな大作で、映画の世界観ともとてもマッチしていて、RADWIMPSの新境地とも言える傑作です。劇伴の方は、逆に個性は抑え目に映画の黒子と徹しています。サカナクションが担当した映画「バクマン。」のサントラは、彼らの個性全開の主張の強いものだったので(むしろ、音楽が映像世界をドライブしていた印象で大好きでした)、そういう意味では対照的で興味深いです。

51 プライマル・スクリームのフロントマン、ボビー・ギレスピーが選曲したコンピレーションアルバム。序盤にビーチ・ボーイズの地味な曲が3つ続くなど、その独特の選曲に前から興味があったので聴いてみました。邦題の「うつろな日曜の朝みたいになっちまった」の通り、日曜日の気だるい朝に聴くにふさわしい(というかウィークデイの朝に聴くと会社に行く気がなくなります)、ダウナーな美しいメロディが満載の作品です。作品ごとにいろんな趣の作品を作り続けてきたボビー・ギレスピーですが、この選曲は個人的には結構意外で、彼の新しい一面を見た気がします。また、プライマル・スクリームのどの作品も、作風は変わってもメロディの美しさだけは一貫していることに、この作品を聴いて納得しました。

52 名作「HORSES」と並び称されるパティ・スミスの代表作です。バンド名義の作品だけあって、疾走感あるシンプルなロックサウンドがとても格好良いです。とにかく自由にやりたいことをやっているという開放感が音にも伝わってきます。ブルース・スプリングスティーンと共作した「Because The Night」というキラーチューンもあり、硬派なイメージが先行しがちなパティ・スミスの作品の中でも、ポップさと前衛さが絶妙にマッチしたバランスの取れた作品だと思います。

53 キャッチーでセンチメンタルなサウンドが、たまに聴きたくなるREOスピードワゴン。この作品は全米ナンバーヒット「Keep On Loving You」を含む彼らの出世作です。この曲だけでなく、まさに80'sという親しみやすい楽曲が満載です。歴史に残る重要バンドとして扱われることは今後もないと思いますが、ラジオや街角から流れてくると不意に懐かしい気持ちになる、いつまでも寄り添ってくれる存在だと思います。

54 こちらも80年代から90年代に大活躍した、ザ・アメリカン・ロックというべきジョン・メレンキャンプのセルフ・カバー集です。土臭いアメリカン・ロックを日本人にも取っ付きやすい、甘いサウンドでコーティングした楽曲は当時から大好きでした。この作品は、彼の代表曲というよりも地味な佳曲を集めたという印象ですが、ストリングスが絶妙に効いたアレンジがより洗練されていて、聴きごたえがあります。こちらもいつまでも寄り添ってくれる優しさに満ちています。

55 大ヒットシングルがないこともあり、これまで聴いてなかったのですが、この作品はスティービー・ワンダーの最高傑作かもしれません。大傑作と評判の高い、「Talking Book」、「Innervisions」、「Fulfillingness' First Finale」、「Songs in the Key of Life」といった4作の直前の作品ですが、天才少年から大人のミュージシャンへと成長する過程の、野心タップリの荒々しい力強さと、後の名作にも通じる洗練さのバランスが絶妙です。確固たる地位を築いてからの後の作品には、多少なりともヒットへのプレッシャーがあったと思いますが、この作品はそのような制約から自由な開放感タップリの楽しさが伝わってきて、とても瑞々しい気分になります。天才が真の才能を発揮し始める際の爆発的なパワーを感じる傑作です。


■映画
60 ゲッタウェイ/監督 サム・ペキンパー
61 君の名は。/監督 新海 誠
62 シン・ゴジラ/監督 庵野秀明、樋口真嗣

60 バイオレンスな描写で有名なサム・ペキンパー監督ですが、この作品は主演のスティーブ・マックイーンの洗練された演技と、ヒロインのアリ・マッグローの可憐さで、その癖が薄まり、極めてオーソドックスで完成度の高い逃走劇になっています。と言っても、他のサム・ペキンバー作品と比べて癖が少ないだけで、随所にこの監督の個性が滲み出ていて興味深いです。ごみ収集車のレバーの執拗なアップの繰り返しなど、一見無関係なカットが唐突にくどいように挿入されるのですが、それが妙な緊張感を醸し出すアクセントになっています。また、エキセントリックな敵役など、後のコーエン兄弟の作品にも通じる、コミカルな不気味さが全編に漂っています。作家性と娯楽性を見事に両立させた素晴らしい作品ですが。

61 ご都合主義的な展開が多いラブストーリーという、個人的には好きなタイプの映画ではないのですが、その私のネガな気持ちを圧倒するほどのパワーを持つ作品です。男女が入れ替わるという定番な内容を絶妙にずらす独創的なストーリー、細部が練り込まれた風景画、日本の伝統的な文化と東京のポップカルチャーとの絶妙の融合と、大ヒットも納得の練り込まれた作品です。そこに、RADWIMPSの音楽がメリハリを効かせて絶妙に絡み合い、トータルとして非常にクオリティの高い作品となっています。キャラが弱いとか、ストーリー展開上の矛盾とか突っ込みどころは多いですが、それらの瑕疵が気にならないほどの、新海誠監督の才能に圧倒されます。でも、あくまで個人的な好みとしては、細田守監督作品の方が好きです。

62 最初はギャグかと思えるゴジラの奇妙な外見や、総理官邸のやり取りから、コメディタッチの映画かとも思いましたが、ゴジラが凶暴な外見に進化するにつれて、それに対抗する人間側のドラマも一気に緊迫感が増し、その独特の緩急のつけ方が絶妙です。政治家、自衛隊、研究者といった職業倫理についての描き方も非常に巧みで、それぞれが打算や弱さを抱えながらも、日本を救うために一丸となって取り組む姿は、変に美化も卑下もされておらず、人間味に溢れとてもリアルです。日本を取り巻く課題提起も、重すぎず、軽すぎずそのさじ加減が絶妙で、庵野監督のセンスを感じます。特撮映画としても当然一級品ですが、「仕事」を描いた作品としてもかなりのクオリティです。日々の仕事に黙々と取り組む職業人にこそ観てもらいたい作品です。
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