本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

未来の年表

2017-09-30 10:01:37 | Weblog
■本
76 未来の年表/河合 雅司
77 高い窓/レイモンド・チャンドラー

76 これまで漠然と感じていた、人口減少が進むことによって今後日本で生じるさまざまな問題について、「2020年 女性の2人に1人が50歳以上に」など、具体的に未来のある時点でどのような状況になっているかを説明してくれているので参考になります。少子化の原因を子どもを産まない若者世代に押し付けるわけでもなく、団塊ジュニア世代が就業年齢になったときに、日本が不況だった事実を示し、一定の理解を示されている点も好ましいです。読み進むにつれて、未来の日本に対しての不安が募りますが、将来の年金、生活保護負担を減らすために、今からでも団塊ジュニア世代に就業支援をすることや、「非居住エリアの明確化」による効率的な国土の活用などの、「戦略的に縮む」という視点から楽観的にも悲観的にもなり過ぎない、地に足のついた処方箋を提示されている点も素晴らしいです。このまま自分のこども世代に過度の負担を押し付けないためにも、できることから始めたいと考えさせられる本です。

77 引き続き村上春樹さん翻訳によるレイモンド・チャンドラー作品。文体とキャラクターに慣れたので、スイスイと一気に読めました。これまで読んだレイモンド・チャンドラー作品と異なって、ストーリーの論理的整合性が比較的取れていることも、読みやすさの要因の一つだと思います。その一方で、謎解きのスケール感という意味では地味目です。フィリップ・マーローに立ちはだかる、悪人や警察組織のキャラクターが妙に物分かりがよく小粒で、スリルという点ではいささか物足りないかもしれません。比喩表現などの文章の美しさはシリーズでも最高峰のクオリティで、訳者あとがきで村上春樹さんも書かれていますが、ヒロインと別れを告げるシーン後の、「詩をひとつ書き上げ、とても出来の良い詩だったのだが、それをなくしてしまい、思い出そうとしてもまるで思い出せないときのような気持ちだった」という文章はとても素敵だと思います。


■映画
58 蘇える金狼/監督 村川 透
59 ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション/監督 クリストファー・マッカリー

58 松田優作さんの代表作ですが、まだ観ていませんでした。小説の映画化ですが、当て書きと思うほど松田優作さんにぴったりの作品です。原作に自分を合わせるのではなく、原作を自分色に染める、役者魂を強く感じさせる作品です。冒頭の現金強奪シーンから一気にストーリーが展開し、これだけの犯罪をやっていて何故捕まらないのか、などの突っ込みを強引に押し切るパワーに満ち溢れています。主人公だけでなく、仕込み杖を操る探偵といった漫画的なキャラクターや、前衛劇を思わせる最終盤の松田優作さんの演技など、その独特の作品世界が、今となってはかなり新鮮に映ります。傑作と失敗作のどちらにも転びかねない、マーケティングとポリティカル・コレクトネス(女性の描き方がかなり平板です)を重視した現在ではなかなか作れないのでは、と思われる危うい危険性に満ちた作品です。

59 トム・クルーズ主演のスパイアクションの5作目です。トム・クルーズは相変わらず格好いいですし、最後の敵が意外とあっけなく捕まったところは少し拍子抜けでしたが、ストーリー展開も飽きさせず安定のクオリティです。同じくトム・クルーズ主演のアクションものである「ジャック・リーチャー」シリーズと比べると、タフ・ガイになり過ぎていないところが、より彼のイメージに近くはまり役だと思います。年齢のためか、トム・クルーズのアクションシーンは少し控えめですが、ミステリアスなヒロインを演じるレベッカ・ファーガソンが、対人格闘シーンを迫力満点に演じてアクション面での貢献も大きいです。こちらは、ハリウッド大作らしく、マーケティングとポリティカル・コレクトネスへの配慮が行き届いています。
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知ってはいけない

2017-09-23 10:30:07 | Weblog
■本
73 リトル・シスター/レイモンド・チャンドラー 
74 アジア辺境論 これが日本の生きる道/内田 樹、 姜 尚中
75 知ってはいけない/矢部 宏治

73 引き続き村上春樹さん翻訳によるレイモンド・チャンドラー作品を読んでいます。あとがきで村上春樹さんも書かれている通り、プロットが複雑過ぎて誰によって誰が殺されたか、の把握にかなり苦労しました。それでも、相変わらず、最後のどんでん返しは見事ですし、これまた村上春樹さんが書かれている通り、題名になった女性依頼人を筆頭に登場人物の描写が魅力的なので楽しく読むことができました。フィリップ・マーローという登場人物に慣れてきて、その口は悪いながらも、権力に決して屈っせず、自分の才覚一つで弱者のために行動する、彼の美学に共感できるようになったことも大きいと思います。このまま勢いに乗って、レイモンド・チャンドラー作品を読んでいきたいと思います。

74 日本、韓国、台湾(そして香港)が連携して、単なるアメリカ従属を超えた新しい東アジアの秩序を作っていく、というヴィジョンを日本としても打ち出していくべきと、内田樹さんと姜尚中さんが対談を通じて主張されている本です。実際にそのような連携を実現するには、多くの障害があるとは思いますが、今のアメリカと北朝鮮の挑発合戦を見ているとアメリカ一辺倒ではない、したたかな外交構想を準備しておく必要があるような気がします。単なる理想論と切り捨てることは簡単ですが、現実が複雑で行き詰っているときこそ、こういう青臭い主張を時には顧みる必要があるのではという気もしています。次の75の本と同じタイミングで読んだので、一層いろいろと考えさせられました。

75 最近話題の本なので読みました。74の本のような構想を実現するのは今の日本ではかなり難しいことがよく理解できる本です。今の日米関係は、平和条約締結後に一見主権が回復されているように見えるが、占領時と同様の条件を密約で定められているので、結局はアメリカの軍部(アメリカ政府ではなくて)に支配され続けている、という主張が展開されています。いくぶん陰謀論的なテイストが感じられますが、アメリカで公開された公文書というファクトに基づき、わかりやすく論理が積み重ねられているので、説得力は十分にあると感じました。あまりにシンプルなロジックなので、もう少し他の主張や事実についても勉強したいと思いますが、少なくとも鳩山首相がなぜああも簡単に失脚し、安倍主張が安保や憲法改正にこだわっているのか(裏の密約と整合性を取るために表の法律も改定する)についての説明について破綻はしていないと思いました。


■映画
57 ピクセル/監督 クリス・コロンバス

 地球人に喧嘩を売られたと勘違いした宇宙人の刺客として、「パックマン」や「ギャラガ」といった昔のゲームのキャラクターが、地球に攻め込むコメディ作品です。あらすじだけで明らかなように、「ハリー・ポッター」シリーズを監督したクリス・コロンバス監督が、なぜこんな作品の監督にと驚くほどの、いい意味でのB級感たっぷりのゆるーい作品です。「ドンキーコング」も含めて、なじみの深いキャラクターが多数登場するので基本は日本人にも親しみやすい作品なのですが、アダム・サンドラ―主演作に典型的なブラックで下品なアメリカンジョークが随所に盛り込まれているので、人によっては違和感を感じるかもしれません。日本発のアーケードゲームに対する敬意が感じられ好感が持てる作品ですが、なにぶんパックマンが人を襲うというビッグアイデアに頼りすぎで、脚本の詰めが粗いところが気になります。同じく古いアーケードゲームをテーマにした作品である「シュガー・ラッシュ」の方がはるかに完成度が高いと思います。
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ダンケルク

2017-09-16 11:05:30 | Weblog
■本
72 ちいさな城下町/安西 水丸

 安西水丸さんによる、あまり有名でない小さな城の探訪記です。私自身コアな城マニアではないのですが、ローカル鉄道に乗るのが好きで、乗り継ぎ時間を潰すのに城跡を巡る機会がたまにあるので、いつか読みたいと思っていました。この夏にこの本にも取り上げられている新宮城に行ってきたので、ようやく読みました。この本に登場する城では、他には岸和田城くらいしか行ったことがないのですが、安西水丸さんの豊富な知識と親しみやすい語り口やイラストで、知らない城にも行ってみたくなりました。当たり前のことですが、それぞれの城にはそれを治めた大名がいて、それぞれの地域に応じた政策が取られた結果が、今の各地方の個性となっていることを知ることができるので、地方創生のヒントのようなものも得られるかもしれません。城を治める大名は結構頻繁にかつ、かなり長距離の異動をさせられていたことを初めて知ったので、自分の歴史知識の薄っぺらさを反省しております。


■映画
54 パターソン/監督 ジム・ジャームッシュ
55 ダンケルク/監督 クリストファー・ノーラン
56 ニッポン無責任時代/監督 古澤憲吾

54 私が10代後半くらいから大好きなジム・ジャームッシュ監督の新作。これまでとは異なる穏やかな視線が印象的な作品と評判がよかったので観ました。ニュージャージー州のパターソンという街に住む、街と同じ名前のバス運転手の1週間を描いた作品です。特に大きな事件は起こらず、愛妻と過ごす家庭、乗客の会話に耳を澄ませながら運転するバス、夜の犬の散歩途中で立ち寄るバーといった、日々のルーティーンを、詩を作りながら淡々とかつ噛みしめるように過ごしている姿勢が、じわっとした感動を呼びます。印象的なストーリーや映像ではなく、さりげないセンスのみで勝負する、いかにもミニシアター系っぽい作品を久しぶりに観た気がします。スター・ウォーズでカイロ・レンを演じたアダム・ドライバーが、そこでの情念タップリの演技とは真逆の穏やかな心優しい主人公を好演しています。個人的には永瀬正敏さん演じる詩を愛する日本人観光客が、東京ではなく大阪から来たとわざわざ言わせるところに、ジム・ジャームッシュ監督らしいこだわりを感じて、大阪出身者としてうれしい気持ちになりました。

55 こちらも大好きなクリストファー・ノーラン監督の話題作。ハリウッド大作っぽい印象を纏いながら、これまで誰もやったことのないチャレンジングな試みをし、商業的成功と作家性を両立させる、いつもながらの志の高さに感嘆します。俯瞰的な神の視点だけでなく、登場人物と同じ戦場に巻き込まれたものとしての視点で戦争を描くことにより、CGやVR技術を用いなくても作品への没入感を観客にもたらすことができるということを見事に示しています。音圧の高い不協和音で、これでもかと緊迫感を煽る手法もうまく機能していて、冒頭から常に緊張したまま、あっという間の作品体験でした。心理描写はほとんどないですが、かといって傍観者的な視点でもなく、不利な戦況に翻弄される登場人物と同じように観客をその混乱に巻き込んでいく展開が斬新です。観る側にもそれなりの負担を強いる、ある意味観客を選ぶ作品かもしれませんが、画面から迸りまくる監督の才気に多くの人は魅了されると思います。

56 植木等さん演じる無責任な主人公が巻き起こす騒動を描いて高度経済成長期に大ヒットした、クレージーキャッツによるシリーズ作品の第1作目です。終身雇用が当たり前だった今よりはるかに会社への帰属意識が高かった時代に、会社をクビになっても、全く気にしない主人公の軽やかな姿に、当時の多くの人々がカタルシスを感じたものと容易に想像できますし、今の閉塞感漂う我々が観てもある種の癒し効果があると思います。それにしても、職場で自由にたばこを吸う姿、飲み屋や接待でのセクハラ発言、組合を軽視する経営者など、かなりデフォルメはされていたとは思いますが、現在のコンプライアンス基準からは完全にアウトなシーンの連続に、逆におおらかな気持ちになりました。自虐的な歌詞のヒット曲を植木等さんが楽しそうに歌う姿や即物的で野心的な女性登場人物を観ていると、世界的な競争が激化して会社員に要求されるものが厳しくなっている状況下でも、もう少し力を抜いて、したたかに生きてもいいのでは、と不思議な勇気が湧いてきました。
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伝えることから始めよう

2017-09-09 06:57:48 | Weblog
■本
70 伝えることから始めよう/高田 明
71 「司馬遼太郎」で学ぶ日本史/磯田 道史

70 誰もが知っている、ジャパネットたかた創業者、高田明さんによるビジネス本です。高田さんが一地方のカメラ店から年商1000億を軽く超える通販会社にまで育てたビジネス成功ストーリーとしても、また、その成功を支えた「伝える」ことに徹底的にこだわったコミュニケーション論としても読めるお得な本です。学問として学ばなくても、地頭の良さと情熱があれば、実経験から有益な知見を見いだせるということを示すお手本のような本です。基本的には、ラジオやテレビといった大人数にリーチするメディアを通じて、高齢者など比較的製品に対する知識の少ない生活者に、その製品がいかに自身の生活を豊かにするかについてのイメージを徹底的にわかりやすく情熱的に伝え、購買意欲を喚起する、というのがこの会社の成功ストーリーだと理解したのですが、言葉にするとシンプルなこのストーリーを実現するために、自前の撮影スタジオや現場で鍛えられたMCなど他社が簡単に真似できないスキルやスタイルを蓄積されている点が素晴らしいと思います。創業者が書かれた本にありがちな教祖的な要素は多少感じるものの、それを中和するやわらかで誠実な文体がいかにも高田さんっぽいです。

71 司馬遼太郎さんの作品を通じて細かい日本史の歴史的事実を学ぶというよりも、その作品が日本人の歴史観にどのような影響を与えたかという観点で書かれた作品です。ですので、司馬遼太郎作品の入門書というよりも、戦国時代や幕末を舞台にした司馬作品が、その作品が連載されていた、高度経済成長期の人々にいかに共感され、その考え方に影響を与えたかということが解説されています。同時に、幕末の変革期後、その当初の高い志を失い、勝ち目のない戦争へと暴走した日本に対する反省を続けた司馬遼太郎さんの姿勢を通じて、右肩上がりの成長が終わった日本人が重視すべきもの(司馬さんのエッセイを引用し「共感性」と「自己の確立」を重要な要素として強調されています)についても考察されている点に、いろいろと考えさせられました。


■映画
53 シンプル・プラン/監督 サム・ライミ

 登場人物が少しバカ過ぎますが、ひょんなことから大金を入手した人々が破滅していく姿をシニカルに描いた作品です。「スパイダーン」シリーズのサム・ライミ監督の出世作だったと記憶しています。雪に埋もれた殺風景な描写が印象的で、現代日本にも通じる地方都市の疲弊や閉塞感が巧みに描かれています。当初良心的な存在と思われた主人公やその妻が、その閉塞感から逃れるために小賢しい知恵を出しては、悪い方に展開してくストーリーは、どこかコミカルでありながら救いがないです。冒頭に結末が予想されるモノローグを挿入しながらも、最後まで緊迫感が続く演出は見事です。主人公のダメ兄を演じたビリー・ボブ・ソーントンは、単なるバカ兄貴で終わらない、愚かさと不気味さと繊細さを合わせ持つ役を印象的に演じています。監督の強い作家性が感じられる好ましい作品です。
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地頭力を鍛える

2017-09-02 06:09:36 | Weblog
■本
68 地頭力を鍛える/細谷 功
69 大いなる眠り/レイモンド・チャンドラー

68 「フェルミ推定」(「日本全国に電柱は何本あるか?」など、すぐに把握することが難しい数値について、手持ちの知識を元に何らかの推定ロジックによって短時間で概数を求める方法)を例にして、「地頭力とは何か?」、「どのように地頭力を鍛えるか?」について解説してくれる本です。とかく、概念的にや技法的になりがちな「地頭力」について、「フェルミ推定」を実際に体験しながら、具体的にイメージすることができる点が、この本を類似書と異なるユニークなものにしていると思います。その一方で、「地頭力」の定義を冒頭に明確にし、その構成要素や支えるベースの力についても丁寧に解説してくれていてロジカルにも理解できます。「地頭力」について、理論的にも肌感覚としても実感でき、自分に何が欠けていてそれをどのように鍛えていけばよいか、がイメージができるとても良い本だと思います。

69 引き続き、村上春樹さん翻訳によるレイモンド・チャンドラー作品を読んでいます。村上春樹さんが翻訳された順番に読んでいこうと思いましたが(順番通りなら「リトル・シスター」です)、村上さんによるチャンドラー作品の評価としては、これまでに私が読んだ、「ロング・グッドバイ」、「さよなら、愛しい人」の次にこの作品が位置しているように思いましたので、先に読みました。「ロング・グッドバイ」と「さよなら、愛しい人」は先に映画版を観てある程度ストーリーが記憶にあったのに対し、この作品は初めて触れるものだったので、予想がつかないストーリー展開自体に引き込まれました。この作品がフィリップ・マーロウを主人公とする長編シリーズの第1作目ということもあってか、フィリップ・マーロウというキャラクターを理解する上で必要な要素(権力に媚びない、仕事に美学がある、金や女に汚くない、など)が分かりやすく散りばめられている点も楽しめました。村上春樹さんら多くの作家が、レイモンド・チャンドラーを賞賛する意味が、この作品を読んでやっと理解できた気がします。魅力的なキャラクターやストーリー展開を超えた、「思想」のようなものが評価されているのだと思いました。


■映画
50 ペット/監督 クリス・ルノー、ヤーロー・チーニー
51 ワンダーウーマン/監督 パティ・ジェンキンス
52 スローターハウス5/監督 ジョージ・ロイ・ヒル

50 「怪盗グルー」シリーズのイルミネーション・エンターテインメントによるペットを題材にしたCGアニメ作品です。ミニオンが大好きなのと、今年観た「シング」もよかったので観ました。一見、動物を擬人化したよくあるヒューマンドラマですが、さすがイルミネーション・エンターテインメントだけ合って、一筋縄ではいかない毒の効き方が絶妙のアクセントになっています。完全に目がイッテいる、悪役ウサギの人格破綻ぶりは少し引くほどですし、隙あらば肉食の欲望が表れる鷹や車いすに乗った老犬など、仲間のキャラクターも単なる可愛いペットに留まりません。王道の友情冒険ストーリーに、少し壊れたキャラクター設定がうまく噛み合って、子どもだけでなく大人も楽しめるユニークな作品に仕上がっていると思います。

51 こちらもよくあるアメコミヒーローものと思っていましたが、多様性をテーマにした硬派な要素も込められていて、なかなか見応えのある作品でした。女神だけが住む島で育てられたヒロインという設定をうまく活用しながら、神と人間、女性と男性、隔離された島と開かれた世界、白人と有色人種、などなど、いろんな差異に翻弄されつつも、自分とは異なる他者を受け入れるようになる、主人公の成長物語としてもよくできています。監督が女性ということもありますが、露出の多いコスチュームに包まれた魅力的なヒロインにも関わらず、性的側面に過度に注目が集まらないのは、このようなバックボーンがあるからだと思います。このような志の高い作品にも関わらず、コメディやアクション要素のバランスもよく、ストーリー展開もハリウッドのフォーマットに則ったどんでん返しもあり、エンターテイメントとしても楽しめる作品です。いい意味で期待が裏切られました。

52 カート・ヴォネガットの原作を、「明日に向って撃て!」、「スティング」の巨匠ジョージ・ロイ・ヒルが監督した作品ということでずっと気になっていました。自分の人生の過去や未来にランダムに行き来する主人公の体験を通じて、第二次世界大戦のドイツや戦後のアメリカの生活を描いた作品です。細かいエピソードが重なりあう展開と一見陽気なアメリカ社会に潜む澱のようなものが描かれている点で、同じジョージ・ロイ・ヒル監督作品の「ガープの世界」と似ている印象を持ちました。ドレスデン爆撃が広島の原爆と並んで語られるほど、多くの民間人が被害にあったことを、私は恥ずかしながらこの作品を観て初めて詳しく知りました。日本以外の人の原爆についの認識が、私のドレスデン爆撃のそれと同じ程度である可能性を実感として理解できたことが、この映画を観た一番の収穫でした。もっと、歴史について学ばないといけないと猛省しました。
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