試験は学齢期の青少年にたいして、小銭が出来高払いの労働者に植えつけるのと
おなじ強迫観念を植えつける。自分は小学校教師になれる頭がなかったから
農民でいるという思いを胸に農民が大地をたがやすとき、
社会の組織は深いところで病んでいる。
(『根をもつこと』1943年/冨原訳)
この痛ましい事態の原因はあきらかだ。
われわれはなにもかもが人間の尺度にあわない世界に生きている。
人間の肉体、人間の精神、現実に人間の生の基本要因を構成する事物、
これら三者のあいだにおぞましい不釣り合いが介在する。いっさいが均衡を欠く。
より原始的な生をいとなむ孤立した小集団ならともかく、
互いを食らいつくすこの不均衡をまぬかれるような、
人間の範疇(カテゴリー)や集団や階級は存在しない。
そして、このような世界で育った若者や育ちつつある若者は、
他の人びと以上に周囲の混沌をおのれの内部に反映する。
(『自由と社会的抑圧』1934年/冨原訳)