世界に発情している
呪われているでもいい
四六時中、発情した心が世界を描き出す
妄想、たわ言、バカ話、絵空事、物語、神話
ファンタジー、ロマネスク、白鳥の歌
すべては発情に由来する
ニーチェは「力への意志」というコトバ
だれかは「欲望」という概念をそれに充てた
中軸に「性」があることは疑えない
「リビドー」(フロイト)
動物と共有する生の本質から抜け出ることはできない
どんな動物も出産の欲情に駆られるとき
みなすさまじい状態になる(ディオティマ)
例外はない、生命が生命であるかぎり
命がけの基底が日々を動かしている
としても、その拡張された人間的生のバリアント
形而上、形而下、全域にわたるコトバの浸透
変幻する発情対象、色づく世界の無限性
すべてに織り込まれたコトバが示し動かす
固有の価値配列、意味連関として姿を現わす世界
ひとりひとり、それぞれに描き出された世界の姿に
欲情はエロスの中心を見つけてフォーカスを結ぶ
恋愛、革命、芸術、真理、理想、正義、信仰
自己、他者、モノ、カネ、友愛、享楽、物語
この集合的展開において最大の主題が浮上する
あらゆる闘争の理由、解けないアポリア
関係の地平が差し出す「共生のかたち」という主題
*
ミネルヴァの梟は、夕暮れの訪れとともに、
ようやく飛びはじめるのである。
──ヘーゲル『法の哲学』上妻他訳
世界に欲情しながら、少しだけ欲情がゆるみ
少しだけ世界への着生から浮き上がる時刻
「ふくろうは日没から飛びはじめる」
起きたこと起こるかもしれないこと
取り戻せるもの取り戻せないもの
可能であること可能ではないこと
あるべきことあってはならないこと
欲情がみずからを振り返る時刻
出来事を仕分けして総点検する
この作業はつねに事後に動きだす
なんのためか
人間的発情がその本質をよりよく展開するために
おそらく、その条件と根拠を探索するために
世界と直列した真昼の闘争にスキマを開き
なにかをつけ加えることが許された時刻
ふくろうが羽ばたく時間は限られている
しかし夜明けまでにできることはある
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