「けずりあう」
「なに?」
「存在をけずりあう関係のモードがある」
「どんなふうに」
「望むかたちにアウトラインを刻む」
「存在のかたちを」
「そう。お互いがお互いをね」
「いけない?」
「それでずっとやってきた」
「でしょ」
「つまらない。いい加減にしろと思う」
「先が読めるということかな」
「読み飽きた、見飽きた、聴き飽きた、知り飽きた」
「アルチュール・ランボーさん」
「出発だ。新しい情と響きへ」
「でも、どこにも行けない」
「うん。抜きがたい話法が席巻している」
「抜けるに抜けられない」
「ゲームは惰性化している」
「でも別のゲームは見当たらないな」
「大事なものが枯れていく気がする」
「甘いんじゃない」
「甘い。もっと甘くなりたい」
「すごいね」
「ああ。破格の甘さで溶かしてみようか、世界を」
「げっ」
「けずりあうよりマシ」
「夢ね」
「夢と現実。われわれはその両方を生きる両生類だ」
「だれが言ったの?」
「ヘーゲルという人。哲学者と呼ばれている」
「両生類か。肺呼吸もエラ呼吸もできる生き物」
「でもふたつの呼吸法が身についていない」
「進化の途上にあるわけですか」
「中途半端なので、絶滅するかもしれない」
「そうかな」
「絶滅してもいいけど、その途上でたえがたい惨劇が待ってる」
「それが話法の問題とつながる?」
「そのとおり」
「結局、ゲームは終わる」
「きれいには終われない。たくさんの血が流れる」
「どうすればいいのかな」
「話法、つまりプレーモードを変える必要がある」
「身についたプレーモードは簡単には変わらない」
「ゲームからどんなエロスを引き出せるか」
「新しいプレーのエロス」
「うん。それが見出されたら話法は必然的に変化する」
「まだ見出されていないって?」
「けずりあうエロスだけしか知らない」
「わからないこともない、かな」
「そうじゃない可能性が閉ざされている」
「どうしてだろう」
「比喩としていえば、ゲーマーとして未熟だから」
「ゲーマー!」
「がぶり寄りしか知らない相撲取りみたいな」
「四十八手、それ以上あるのに?」
「押し出してごっつぁんです、だけがゲームのエロスじゃない」
「もっとプレーモードを広げろって?」
「両生類として進化を遂げるにはね」