連結装置、人間の意志だけが開く第三の領域がある
直列ではない、結びあわせて開かれる
はかなくもかけがえのない開口部があって
開かれた窓の先に新たな歌が生まれる連結の地平がある
暗きより暗き道にぞ入りぬべき はるかに照らせ山の端の月
(和泉式部『拾遺』)
平安朝、跡かたなく砕け散って消えた千年はるかかなた
一人のおんなの歌が山の端の月のように「今」を照らす
連結のいとなみは通時的であると同時に共時的でもありうる
「今」において享受をともにする意志と意志が出会うことがある
めぐり逢ひて見しやそれとも分かぬ間に雲隠れにし夜半の月影
(紫式部(『新古今集』)
あの歌があって、この歌があって、未生の歌が励起する
俺たちはこの連結のいとなみに加わることだけができる
外にさがしても何もない
吹きさらしの風が吹いているだけだ
ふるさとは語ることなし (坂口安吾「碑文」)
連結装置、人間の心だけがあつらえる開口部があって
はかなく、かなしくも窓を開いて享受をともにする地平がある
この憧憬は生の喪失の感情であって、失われたものを生として、
かつて生に親しみ深かったものとして認知するからである。
この認知はそれだけですでに生の享受である。
(ヘーゲル『キリスト教の精神とその運命』細谷・岡崎訳)