おーろら号が乗船場に戻ったのは12時少し前だった。
昼食は博物館網走監獄の「監獄食」と決めていたので、急いでレンタカーに乗った。
時間はあまりなかった。
というのも、今宵の宿は登別で、14時40分発の飛行機に乗らなければならなかったからである。
途中、網走神社、網走駅、網走刑務所だけは立ち寄ることにしたが、時間はわずかである。
網走神社は、おーろら号の乗船場からほど近い、小さな丘の上にある。
車は、網走小学校の前の脇道から入ると、神社の目の前に出た。
雪に埋もれた社殿は昭和4年の造営だが、とても風格がある。
旧社格は県社で、市杵島姫命・田心姫命・湍津姫命の宗像三神と天照大神が祀られている。
この日、本殿の中では御祈祷が行われていた。
神社ではよくある光景で、それに構わず、お参りをするのが通例である。
しかし、東京の神社と違い、ここは極寒の網走である。
扉は閉められ、閉められた扉の内側に賽銭箱があった。
少しだけ扉を開けて賽銭を投げ入れるのだが、建付けが悪く、大きな音を立ててしまった。
網走神社から網走駅までは5分ぐらいである。
ここは石北本線と釧網本線の終着駅で、複数の鉄道線が乗り入れる乗換駅としては日本最北の駅である。
駅正面には縦に駅名を記した木製の看板が掲げられている。
この縦書きには網走刑務所から出所してくる受刑者が、もう二度と「横道に反れないように」という願いが込められているという。
網走市内にはニポポがあちらこちらにあると聞いていたが、まったく気づかなかった。
網走駅の前にもニポポをかたどった電話ボックスがあったそうだが、今は普通の電話ボックスになっていた。
網走駅からさらに5分ほど走ると、網走川の対岸に網走刑務所がある。
街路樹と沿道の建物の陰に隠れるほどの背の低い施設で、うっかり通り過ぎてしまった。
網走川にかかる橋が鏡橋で、観光客の車の乗り入れは禁止されていた。
観光と言っても、門の前で記念写真を撮るぐらいのことである。
ただ、正門の前に形務作業製品を展示販売している施設がある。
おそらく受刑者が製作しているニポポ人形も販売されているのだろうが、残念ながら、覗いてみるだけの時間がなかった。
網走刑務所から10分ほど走った、天都山の中腹に「博物館網走監獄」がある。
入口の前に監獄食堂があり、ここで遅い昼食を取った。
厳めしいのは名前だけで、モダンな造りのセルフサービスの定食屋である。
「監獄食」はABの2種類あり、Aはサンマで720円、Bはホッケで820円。
食べている人は意外に少なかった。
出てくるまでに随分と時間がかかり、そのせいで博物館の見学時間が大幅に短縮されてしまった。
料金を払って博物館の中に入るとその先に昔の門があった。
門が再現されているだけで、塀にはなっていない。
門のところには看守と伝説的な脱獄犯・五寸釘寅吉の人形が置かれている。
時間がないので、見学できたのは重要文化財の庁舎と放射状の舎房の2か所だけだった。
こういう文化財の観賞には知性と感性が必要だが、どうやらどちらも欠けていたらしい。
「こんなものか」というのが感想で、あまり感じるものがなかった。
出口のところに、お土産売り場があった。
「監獄せんべい」、「差し入れ羊羹」、「脱獄犯文字入りTシャツ」、「出所祝いクリアファイル」、・・・・・
刑務所を観光資源にするとこうなるという見本のような品揃えだ。
網走駅の縦看板がとても空しく感じられた。
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