読書日記 嘉壽家堂 アネックス

読んだ本の感想を中心に、ひごろ思っていることをあれこれと綴っています。

名人戦の真実 吉村達也 将棋世界1月号

2006-12-04 21:48:56 | 読んだ
将棋を指すことの能力のなさにはもう数十年も前に自覚したが、棋士(将棋指し)の生き方への興味は失せていない。

というわけで、今回の名人戦騒動については興味津々であった。

名人戦騒動とは、将棋名人戦の主催新聞社が現在毎日新聞社であるがこれを朝日新聞社に移管するというもので、その要因は「金」。「金か信義か」として、世間を騒がせたというか世間が騒いだ、ことをいう。

この世間が騒いだ、ということと、名人戦の主催新聞社の移管が「金か信義か」として集約されたことについて、将棋連盟の理事会の8名を中心とした証言をもとにした考察と、棋士総会のドキュメント、そして数名の棋士から寄せられた原稿を、作家吉村達也がまとめたのが、この「名人戦の真実」である。

結論から申し上げれば、非常に不謹慎な発言であるが「すごーくおもしろかった」のである。

将棋界の現実と今後のことを考えれば、何らかの改革が必要なことは、おおかたの人たちが思っていることである。
その思っていることを現実のものにしようと、現実を良く知っている理事会が動き出す。
動き出すと、賛否両論が続出する。

この賛否両論が続出したときに、責められるのは主に執行部側である。
そのことについてはある程度仕方がない、とは思う。

思うが、今の日本ではこれが「個人攻撃」となって、あることないことで大騒ぎになる。そして、問題は本末転倒、将棋界のために主催新聞社をかえるべきかどうか、ということではなく、将棋連盟理事会はこれでいいのか?ということになってしまう。

これって、将棋界のことだけでなく、今の日本の全てのことに当てはまらないだろうか。

つまり、この「名人戦の真実」には、今の日本の病巣みたいなものが凝縮されて描かれているような気がするのである。

この中で、連盟専務理事の西村一義が言っている言葉が今の私には大きく響いた。

「(前略)『私はお金のことなんかどうでもいいんです』と言って、ほかのことに文句をつける人ほど、じつはお金に汚い。(中略)お金の話をためらわずしてくる人は、逆にお金にきれいだ(後略)」

それから、マスコミの低次元さ。話をわかりやすく時間とかスペースに収めることだけに集中して、無責任な報道をする。
わかりやすく、ということで、あまりにもこちら側を馬鹿にしていないだろうか。

この「名人戦の真実」を読むと、今の日本とこれからの日本について考えさせられ、そして暗澹とした気持ちになったりするのである。
深く、暗いお話だが、棋士総会ドキュメントは大きなことを決めようとしているのにわりとおかしい。このあたりが「救い」なのである、この話とこれからの日本の・・・。
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