読書日記 嘉壽家堂 アネックス

読んだ本の感想を中心に、ひごろ思っていることをあれこれと綴っています。

不貞の季節 団鬼六 文春文庫

2013-07-29 21:52:00 | 読んだ
団鬼六の文庫がなかなか手に入らない状態である。
近頃になって(大崎善生の『赦しの鬼』を読んで以来であるが・・・)団鬼六の本をもっと読んでみたいと思うようになった。

団鬼六といえば「SM小説」であるが、晩年、小説新潮やオール読物に掲載された小説は、とても魅力的であった。

なんというか、土台が不安定、グラグラしている感じで、いったいこの物語はどこに行ってしまうのだろうか?なんて思っているうちに、なんとなくまっすぐになっているように思う。ところが、全体としてはユラユラの状態なのである。

でも。そのグラグラやユラユラが何となく心地よいのだ。

年寄りが、どこに結末があるのやらわからない話をはじめて、不安ながらも話に付き合っているうちに面白くなってきて、最後には辻褄が合うようにまとまって、なにやら不思議な感じなるような、団鬼六の晩年の小説はそんな感じである。

この「不貞の季節」には、表題である「不貞の季節」のほかに「美少年」「鹿の園」そして「妖花-あるポルノ女優伝」の4本が収められている。

この4本ともに、エーっ、またまた、ほんとに?嘘でしょう?といった思いが読んでいるうちにでてくる。
それは、この4本とも語り手が「私」となっていて、さらに「私」は真に団鬼六なのであることが語られる。
だから、読み始めていくと実際にあった話のように思える。
更に進んでいくと「エーっ」となり「またまた」と疑い、ある時はページを前に戻して確認をしたりする。
そのうちに、さらに「ほんとに?」「まさか?」「嘘でしょ」となってくる。

多分これが著者の狙いであり技術でもあるんだと思う。

近頃、芸人たちの話の中で「盛る」という言葉が出てくるが、「盛る」ことによって大きな効果を得るためには、「盛る」までの間は真実が必要である。

団鬼六はこのあたりの「出し入れ」がうまいのである。

「不貞の季節」は、団鬼六の妻が団鬼六の最も信頼している弟子のような男と不倫をした話である。
団鬼六(以下「私」とする。)は、中学校の教師をしていた時代に、同僚の妻と知り合い結婚する。ところが、私はおとなしく教師をしているだけに飽き、東京に出て妻からみていわゆるヤクザな仕事をはじめ、とうとう「鬼プロ」などというSMに関する仕事をするようになる。
妻はそんな私に「昔のようにエログロナンセンス稼業にはいるのね」などと軽蔑した言葉を浴びせる。

つまり、妻はとうてい不倫などするわけがない、と私は思っていたのである。
それが、不倫をして、さらにその相手が最も信頼していた弟子だった。

とまあ、このあたりまではなんとなくお話としていい流れなのであるが、私は不倫相手の弟子に、不倫の時の妻の様子を微に入り細に入り聞き、あまつさえその様子を録音させるのである。
このあたりになると「いやはや」という思いになるのであるが、なんだか、面白い。

この時の「私」はどうみても「M」である。

「美少年」は、「私」が旧友と再会し、そのことで大学時代の友人、つまり「美少年」を思い出すのである。
で、この美少年と私は「そういう関係」になる。この「そういう関係」になるまで、相当のページを要している。そういう関係にならないのではないか、なんて時に思ったりする。つまり、この時点で我々読者は「M」となり、著者の「S」性に操られているのである。
そして、私と美少年は、つらい別れを経験する。
この「つらい別れ」が、本当に何と言ったらいいのか・・・つまり、つらい別れの部分は全くのSM小説になってしまうのである。
おいおいそこまでするのか?
と思ったら、つまりは著者にいいようにもてあそばれているのである。

この小説の「私」はどうみても「S」なのである。

「鹿の園」も、谷ナオミをモデルにした「妖花」も、どこまでが本当のことでどこからが嘘なのかということに興味が行ってしまう。
そういう仕掛けになっているので、そう思ったとしても恥ずかしいことではないと思うのだが・・・
そういう思いをしてしまうのは、著者の思うところではなかったか。

ネットで調べてみれば、あの小説のモデルは誰か?というようなことがのっている。
でも、モデルなんて誰でもいいのである。

著者は、誰でも持っていると思われる嗜虐性と被嗜虐性について、我々に問いかけているのではないだろうか。

そんな真面目な顔をして生きていたって、つまるところは性の問題については避けて通れないことなのだ。

だから、どうなんだってことはないけれど、だけどそうなんだ。

と言っているように思えるのだ。


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