読書日記 嘉壽家堂 アネックス

読んだ本の感想を中心に、ひごろ思っていることをあれこれと綴っています。

往きて還らず 団鬼六 新潮文庫

2013-03-13 23:00:33 | 読んだ
団鬼六の評伝「赦しの鬼」(大崎善生)を読んで、作品を読んでみようと思っているのだが、なんだか見つからないのである。
それで、やっと見つけたのが、この「往きて還らず」であった。

「往きて還らず-すみれ館奇譚」は、小説新潮に掲載されたときに読んでいたので、概ねあらすじは知っていた。
その時の感想は、哀しい物語、というものであった。

物語は、団鬼六が語り手ではあるが、団鬼六の父から聞いた話、という体(てい)になっている。

団鬼六の「真正SM小説」以外のものは、虚実がよくわからい感じである。
というか、小説であるのでフィクションなはずなのだが、読んでいる途中から「実話?」というように思えてくるのである。

この物語は、戦争末期の知覧基地が舞台である。、
団鬼六の父:K主計兵長は、主計のうち賄い方の会計部所属で、極秘命令を受けた。
それは、特攻隊員の個人宿舎に食料や物資を届けることであった。

そして、その宿舎に行くと、特攻隊の滝川大尉が女性を囲っていたのだった。
そのあたりからなんだかあやしい雰囲気になる。
その辺は、読んで感じてもらいたいのであるが・・・

その女性は、鬼六のSM小説に出てくるようなひとである。

滝川大尉が特攻に出陣すると、滝川大尉の後輩の中村中尉に彼女は引き継がれ、中村注意が出陣すると、また次の後輩横沢少尉へ引き継がれる。
そして、横沢少尉が出陣すると・・・

哀しい女がKを通じて語られていく。その中にはSMの要素も・・・

この本にはもうひとつ「夢のまた夢-道頓堀情歌」という短編が収められている。
これも団鬼六の父が登場し、今度は主人公となる。

団鬼六の父は「破滅者」であるが、自分では破滅者と思ってはいない。
そのあたりが、話として面白いのである。

戦後、知覧基地から帰還した父が、家族に大きな迷惑をかけながら暮らしているうちに、女ができて家を出てしまう。
その女は父の友人が鬼六の初体験の相手として紹介した人物だったことから、話はやややこしくなる。

兎も角登場する人物たちが個性的で、自己の快楽を追い続けて暮らしに困る。暮らしに困ってアヤシイ仕事に手を出すとなぜか儲ける。儲けて欲を出すと失敗する。という繰り返しを続ける「懲りないヤツ」ばっかりである。

そんな人たちを、馬鹿だなあ、駄目だなあ、と思いつつ、どこか愛しているのが団鬼六である。

この小品は、団鬼六の優しさがにじみ出ているもので、映像化してほしいような物語である。


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