尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

新人に不利な選挙制度ー世襲政治家問題②

2023年06月08日 22時38分42秒 | 政治
 政治家の「世襲」には問題が多いと言うと、でも選挙で有権者が選んでいるという反論が出る。その通りだけど、ではその選挙はフェアなものだろうか。もちろん、一人一票、秘密投票などの点で、表面的な平等性は確保されている。しかし、実際には何代も政治家をしている一族だと、少なくとも名字は選挙に行く全員に浸透してる。投票所に候補者名が貼ってあるから、何となく知ってる名前に入れやすい。そこに新人がチャレンジするのは、最初からハードルが高い。

 だから有力者に対抗する人は初めからいない。神奈川11区(小泉進次郎)、鳥取1区(石破茂)の選挙区など、対立候補は共産党だけだった。従来の得票状況を見る限り、共産党には当選可能性がない選挙区だ。実質的な信任投票であり、共産党の立候補は無投票当選を防いだ意義がある。次回は「維新」が全国に立てるとか言ってるが、果たしてこういう選挙区でも立てられるのだろうか。与党有力者の選挙区にも候補がいなければ、政権交代など夢のまた夢だろう。

 先日、山口2区で岸信夫議員の辞職に伴う補欠選挙が行われ、長男の岸信千代氏が当選した。前回(2021年)、岸信夫氏は11万票近くを獲得したが、今回岸信千代氏は6万1千票ほどに止まり、対立候補の平岡秀夫氏が5万5千票近くを獲得した。これは「世襲批判」もあったかと思うけど、平岡氏は民主党政権で法務大臣を務めた有力者である。山口2区では平岡氏が当選4回、岸信夫氏が当選3回とむしろ平岡氏の方が多い。もともと知名度が高かったわけである。前回岸信夫氏は現職防衛相として選挙に臨み、対立候補は共産党だけだった。今回は突然の病気辞職で、信千代氏の浸透が十分じゃなかったのである。
(岸信千代氏)
 政治家の世襲は怪しからん、では自分が立候補しようと思っても、なかなかそういうわけにもいかない。最近「解散風」が吹いていると言われるが、ホントに衆院選があるかどうかは判らない。任期満了は2年先だから、今何か仕事をしている人なら、早めに会社を退職しちゃうと生活が出来ない。無所属でも出られるが、政見放送がないなど圧倒的に不利。供託金も必要で、衆院選の場合は300万円も必要だから、それなりの金持ちじゃないと無理。もちろんどこか政党に所属していれば党が出してくれるだろう。自分の信条に合う政党があるなら、そこから出られれば良いのだが、今度は「党の事情」も出てくる。突然他党との「選挙協力」で、別の選挙区に回ってくれなどとなるかもしれない。

 そういう条件をすべてクリアー出来ても、選挙運動期間は衆院選の場合、たった12日間しかない。2週間もないのである。先頃行われた市区町村長選、議員選は、わずか7日間である。小さな村ならそれでいいかもしれないが、東京には人口で政令指定都市になれるぐらい大きな区もある。人口数十万の都会で、たった一週間ではまったく知名度を上げられない。ビラを作って配るのも違法文書と言われてしまう。どうでも良い「選挙ハガキ」というのもあるが、衆院選で3万5千枚しかない。(なお、選挙ハガキが何で来たのか判らないという人もいるだろうが、候補者は有権者名簿を見られるのである。)
(岸信千代氏の系図)
 こうなると、有力者一族か、それともタレント、スポーツ選手など、もともと知名度が高い人が有利になる仕組みになっているとしか思えない。じゃあ、選挙運動を長くすれば良いのか。今は「公営選挙」の割合が高く、税負担が増えることになる。また「選挙カーがうるさい」など苦情が殺到する。タテマエでは選挙は大切といいながら、いまや選挙は迷惑だというのが現代人のホンネだろう。「政治家は恵まれている」などと言いながら、じゃあ政治家になろうという人が少ない、特に地方議会ではなり手がいないというのが日本社会である。果たしてそれを変えられるか。

 供託金の引き下げビラ配布の自由化(今では誰でも自宅のプリンターですぐに作れる)、戸別訪問の解禁(戸別訪問は禁止されているが、選挙期間に支持者の訪問はけっこう多いだろう。昔は買収の温床になるなどと言われたが、今は誰かが秘かに録音してネット上に上げる可能性があるから、公然たる買収は考えにくいと思う)などがあれば、全く無名の人でもかなり知名度を上げられるだろう。そして何より「選挙期間の延長」が必要だ。3週間ぐらいないと、大都市部では候補者を見ないままになる。

 しかし、それより「ネット選挙」を完全自由化するべきではないか。つまり、事前運動という概念をネット上ではなしにする。「今度の衆院選に出ます。入れて下さい。」「一緒に公約を作りましょう」「供託金を集めるためのクラウドファンディングを始めます」など、あっておかしくないと思う。見たくない人は見ないだけのことで、誰の迷惑にもならない。若い人ならば、国政選挙は無理かもしれないが、地方議会の選挙に必要な知名度を獲得出来るかもしれない。「現職有利」の選挙制度が世襲をはびこらせている元凶だろう。
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