尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「政治家世襲」は現代の「蔭位制」ー世襲政治家問題①

2023年06月07日 22時35分40秒 | 政治
 自民党の有力政治家が「世襲」ばかりになってしまったとよく問題視される。確かに小選挙区である一族がずっと当選している場合など、まるで領地のように見えてしまう。群馬4区の福田家、群馬5区の小渕家、茨城4区の梶山家、神奈川11区の小泉家など、案外関東地方に多い。西日本の有力議員、麻生太郎石破茂、そして岸田文雄現首相などは、96年の第1回小選挙区制からずっと本人が当選していて、未だ「世襲」以前である。

 日本全体では、2009年だけは民主党(当時)が当選したところが多い。それに「世襲」じゃなければ良いという問題でもないだろう。菅義偉萩生田光一下村博文稲田朋美高市早苗など、自民党内の非世襲政治家が世襲政治家に比べて特に優れているようには思えない。まあ、それらはともかくとして、岸田首相の長男、岸田翔太郎氏をめぐって問題視されている「政治家の世襲」問題をここで考えてみたい。
(岸田翔太郎氏)
 この問題の本質は、「岸田翔太郎氏が公設秘書として失格だった」ということではない。岸田翔太郎秘書が有能高潔な人物だったら、もっと大問題である。税金を使って子どもの選挙運動をしているようなものだからだ。ある意味、岸田翔太郎氏の「正体」が暴露されたことで、秘書に登用した意味が(国民的には)あったと言えるだろう。問題は「岸田翔太郎」氏が有能だろうと無能だろうと、家族を首相公設秘書にするという露骨な「縁故主義」の方である。首相が専権的に決めて良いポストだろうが、基本的には家族は避けるべきだと思う。

 問題点をクリアーにしておくと、「世襲」そのものは良いとも悪いとも言えないということである。時々自民党に対する怒りからか、「世襲を禁止せよ」などという「護憲派」がいる。しかし、現行憲法上、立候補の自由は基本的人権であり、誰にも奪えない。日本の国籍を有していれば、全国どこの選挙区からでも立候補可能である。「国民の代表」を選ぶ国政選挙では、当然「居住要件」もない。(居住を言い出せば、岸田首相は広島に居住実態はない。東京に常駐するべき役職なんだから当然である。)
 
 だけど、政治家が引退した後で、家族が立候補して、高い知名度を生かして悠々と当選するという事態に、多くの人は釈然としないだろう。立候補して当選したんだから、有権者の判断だと当の本人は言うだろう。しかし、横須賀市の有権者は「小泉進次郎」という青年がどういう人か、よく理解して投票したんだろうか。自民党が公認して、自民党のただ一人の候補者だから、保守系有権者は入れるしかないだろう。いわば「党の公認」に全権を委ねていることになる。
(昨年末の「忘年会」後の写真)
 これでは現代の「蔭位(おんい)制」だと思う。「蔭位」というのは、日本の律令政治で有力政治家の子弟を優遇する制度である。中国でも古代にあったというが、宋代以降は有力者一族でも科挙に合格するのを誇るようになっていったという。日本では大宝律令に正式に決めてあり、よく「藤原氏が政治を独占した」などというが、別に横車を押したというより正規の決まりがあったのである。いろいろ決まっているが、例えば親が「正一位」なら、嫡子は21歳になったときに「従五位下」に叙位されるのである。

 親の御蔭で叙位されるから、「蔭位」の制という。現代日本ではこのような正式制度は存在しない。しかし、事実上、巨大与党の公認が約束されているから、有力者の子どもは有利なスタートを切れる。小泉進次郎氏が環境相に起用されたり、福田達夫氏が党総務会長に起用されたりしたのは、他の同期当選議員では考えられない。これじゃ、不公平である。そう思う方が自然であり、何とかしないとマズいだろう。では、どんな方法が考えられるだろうか。

 例えば、小選挙区当選者は次回選挙に同じ小選挙区から連続して立候補することを禁止する。つまり、時々「コスタリカ方式」と呼ばれる方法である。自民党内に有力候補が多く、交代で出るようなことがかつてあった。もちろん、家族以外でも同じで、今の野党当選者にも適用される。政治家は次は比例区に回るか、別の小選挙区を探さなければいけない。だが、これは選挙違反などの場合を除けば、立候補の自由を奪う憲法違反の恐れが否定出来ないと思う。

 では、何も出来ないのだろうか。僕は「家族を公設秘書にすることを禁止する」のは可能だと思う。「家族が助け合うの自然」などと自民党は言うかもしれない。もちろん、私費で雇われた私設秘書までは職業の自由の観点から禁止できない。しかし、税金で雇われる「公設秘書」は、別だと思う。家族がやっていれば、どうしてもなれ合い的になり、古くからの支持者とのつながり、後ろ暗い資金管理などを切れなくなってしまう。世襲した後も昔からの関係を引きずることになる。

 家族をどうしても後継にしたいと思うなら、「かわいい子には旅をさせよ」だろう。同僚議員のもとで秘書をさせるのである。そこまでは禁止するのは難しい。自分も他議員の子どもを預かることもあるだろう。今まで有力政治家のほとんどは、自分の家族を秘書にしてきた歴史がある。やはり家族以外には出来ない、政治の機微にふれる話があるからじゃないか。少なくとも、4親等以内の家族、親族は秘書には出来ないという法律を作る必要があると思う。
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