尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「特定秘密」はいらない-「秘密保護法」反対①

2013年11月10日 22時28分55秒 | 政治
 国会で審議が始まった「特定秘密保護法案」。これは危険な法律だとして、反対論、反対運動が広がっている。例えば、「STOP!秘密保護法」というサイトがあり、東京中心だが11.13(水)に超党派銀座街宣行動、14(木)に首都圏一斉キャンペーン、21(木)に大集会(日比谷野外音楽堂)などが予定されている。各マスコミを見ても、急速に反対論が広がっているように思う。この法案は様々な点で問題点が多いと思うが、そのことを何回か書いておきたい。

 僕が思うに、「特定秘密保護」の前に、「特定秘密」そのものが要らない。「特定秘密」というのは、「我が国の安全保障に関する情報のうち特に秘匿することが必要であるもの」とされる。具体的には、法案別表において、①防衛②外交③特定有害活動(スパイ)④テロリズムの防止の4つが例示されている。それだけ聞くと、防衛やテロに関する情報が洩れては困るではないかと思うが、もちろんそれは今でも保護されている。

 第3条に「その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるもの(日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法(昭和二十九年法律第百六十六号)第一条第三項に規定する特別防衛秘密に該当するものを除く。)」を「特定秘密」とするとある。日本の秘密保護は国家公務員法しかなく、違反の場合最高刑が懲役1年で軽いと主張する人がいるが、カッコ内にある「日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法」という法律で、日本の安全保障の基礎とされている日米安保に関する情報漏えいは、最高刑5年となっている。今の日本にとって一番重要と考えられる日米安保の情報に関しては、すでに保護されているではないか。

 日米安保体制そのものの問題もあるが、それはちょっと置く。今度の秘密保護法案に関する議論では、「北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の軍備増強など、日本を取り巻く情勢は厳しさを増している」(読売新聞、11.8付社説)という観点から賛成する人がいる。しかし、日本の「安全保障」の基本が日米安保だというのは変わらないはずだから、日米同盟強化のために秘密保護強化も必要だと言うなら、「日米相互防衛…」という方の秘密保護法を変えようという主張になるはずだ。だから、今回の法案は、「中国や北朝鮮情勢があるから、日米同盟を強化しようという主張ではない」のである。

 日本には情報が入らないという政権側の主張もある。例えば、アルジェリアのテロ事件に関して、日本側に情報が入って来なかったという話である。これが「特定秘密保護法」ができると情報が入ってくると言えるのか。日本版NSCが出来て、特定秘密保護法案が成立すれば、北アフリカのイスラム過激組織のテロ情報が入ってくるというわけがない。アルジェリア政府は最初から武力鎮圧方針だったから、外国政府に細かな情勢を事前に流すわけがない。日本と北アフリカのイスラム組織に接点はなく、特に日本が狙われているわけでもないのだから、日本が知ってても何ができるわけでもない。

 「日本に情報が入らない」というのは、僕はそれ自体がおかしな議論だと思っている。たとえで言えば、こうなる。学校で仲良く遊んでいるグループがある。スポーツもできるし、成績もいいから、結構クラスでも人気で、評価もされている。でも、家の都合で「日曜日は遊びには行けない」(まあ、クリスチャンで、家族で教会に行く日だとか)。だから、日曜日に皆がどこかに集まって遊んでいるらしいんだけど、集合時間や場所の連絡はその子には来ない。誘っても来ないんだから、連絡しても仕方ない。それじゃ、寂しいから、今度から連絡して欲しいというのである。その裏にあるのは、「連絡してもらっても行けないんだけど、仲間はずれは嫌だから、面倒だと思うけど連絡して欲しい」ということではないだろう。「全部は無理かもしれないけど、家族がどんなに反対しても、今度は一緒に遊びに行けるようにするから、これからは連絡して欲しい」という意味なんだと思う。

 で、僕はこの「家族」が国民で、「遊び」が戦争だと思うわけである。情報というのは、知っておく方がいいというものではない。知らなくていい情報というのはたくさんある。ネット上に流通する情報の大部分も、別に知らなくてもいいか、もしくは知らない方がいいものではないか。それはともかく、先のたとえで言えば、「遊び」だと思っていたけれど、実は皆で集まって万引きやカツアゲをしてるのかもしれない。誰かを呼び出していじめているのかも知れない。小説や映画の犯罪ものでは、知らない方がいい情報を知ってしまったものは、仲間に入るか、消されてしまうかである。(実は警官や情報機関員だが、潜入捜査をしていて、組織の犯罪計画をつかむが、仲間として一緒に犯罪に加わらなければならないハメになり、どうやって犯罪実行や殺人を防ぐか…というストーリイは山のようにある。)

 「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄」しているはずの日本が、戦争やテロの裏情報を知る必要があるのか。憲法解釈で、自衛隊は合憲とされてきたが、自衛隊は「専守防衛」のはず。中国や北朝鮮情勢はあるが、日米安保で対応するし、その秘密はもうすでに保護法がある。それなのに、全世界の様々な情報をもっと欲しい、情報がないなどと言ってるのは、つまりは「今度はアメリカと一緒になって、専守防衛ではない戦争にも加われるようにするから、全世界の戦争の情報ももっと集めたい」ということではないか。明文改憲の前に、解釈改憲で集団的自衛権を認めるという流れの中で、この秘密保護法を置いてみると、僕にはそういう解釈が出てくるんだが。

 警視庁のテロ捜査情報が流出した事件は、2010年に起きたが時効となってしまった。(殺人等の重大事件の時効は撤廃されたが、最高刑懲役5年までの事件は時効が3年である。)結局、これは真相が解明されていない。今は情報はコンピュータ上に集積されるから、この時効期間などは、今後もっと長くしてもいいだろうと思う。このような人権侵害を伴う情報流出でも、政府は特定秘密に当たるとは言っていない。ましてや、個人の住所などは特定秘密になど当たるわけがない。しかし、逗子市で起きたストーカー殺人事件では、被害者の住所は市役所から漏れたと言われている。このような「国民一人ひとりにとって、生死にかかわる個人的安全保障情報」をどのような保護すべきか。いま議論すべきは、そっちの方ではないか。このような「一般犯罪」に関する情報は、国家からすれば「特定」の重要な情報にはならないのである。
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