尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

寄席紙切り百年「正楽三代展」

2015年04月28日 23時17分44秒 | 落語(講談・浪曲)
 寄席の芸の中に「紙切り」がある。客の注文に応じて、即座に白い紙を切っていき、見事に仕上げていく。機知に富んだ話芸をはさみながら、よくある「馬」や「藤娘」何かを仕上げていく芸である。これを寄席の芸として磨き上げ「ハサミの魔術師」と言われたのが、初代林家正楽という人。その初代以来100年ということで、2代目、3代目と合わせた「正楽三代展」が上野松坂屋で行われた(4.22~27)。これはもう終わっているが、そこに置いてあった割引券で、上野・鈴本演芸場の記念公演に行ってきた。

 落語協会には紙切り芸人が3人いるというが、今回は3人とも出ている。最初に林家楽一(29は出演せず、30は出演)、仲入り後の7時半過ぎからは、3代目の正楽と2代目の息子、林家二楽の共演、二人が並んで出て一緒に切るという、二度とないかもしれないパフォーマンスを見せてくれる。同じお題で切り比べもあるけれど、両者のコラボ、片方が娘を切り、もう一方が頭上の藤を切るというような珍しい芸も見られた。残り二日(29.30)とも、この共演が見られるので、是非お勧め。

 ということで、どうせポール・マッカートニーには行かないんだけど、今日にした理由の交代制トリの柳亭市馬師匠の印象も薄れてしまった感がある。市馬師匠は何度も聞いてるが、会長就任後は初めてかも。春風亭一朝桃月庵白酒など何回か聞いてる名人も、今日ばかりは紙切りの方が印象深い。何しろ、正楽、二楽の持ち時間は、いつも倍の30分~40分はあるのである。今日は、楽一のときに「闇夜のカラス」、正楽・二楽の時には「アリが千匹」という難題が出た。これは僕はあまり感心しない注文だなあと思うけど。「アリが千匹」は、トンチを効かせて両者が違ったテイストで仕上げて感心した。と書くだけだと忘れてしまうので、無粋ながら細かく書くと、正楽は「カウンターを持った人間が、アリを三匹数えてる(それが998,999,1000ということで)というやり方。二楽は「アリが線引き」とシャレで。

 寄席では「色物」というジャンルで一まとめされてしまうが、落語の合間にやる、曲芸(大神楽)や奇術(マジック)、音曲や音楽漫談(ギター漫談とか、○○ボーイズなどの芸人)などが結構ある。それらも面白いんだけど、中で一番「自分では絶対できなさそう度」が断然高いのが「紙切り」である。絵にかけと言われてもできないのに、それを瞬時にハサミで切りぬいてしまえるというのは、どういう才能なんだろう。努力すれば、ある程度はできるものなんだろうか。動物やアニメの登場人物を切れるので、学校での落語教室なんかにもよく呼ばれるらしい。「三代展」を見て判ったのは、寄席では「一瞬芸」を披露するが、もっと本格的な紙切りを自宅でやっていて、それは「作品」というべきものなのである。そして、注文で何でも切るとはいえ、「横綱土俵入り」とか「勧進帳の弁慶」など、日本の伝統的なお題の方がしっくりくるということである。「お月見」とか「花火」など「季節の行事」的なものの方が見ていても面白い。やはり、「伝統の力」のようなものが寄席にはふさわしいのかな。
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