尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

ネポティズム化する世界-森友・加計問題もまた

2018年05月14日 23時31分21秒 |  〃  (安倍政権論)
 「ネポティズム」(népotisme)という言葉がある。普通「縁故主義」と訳している。権力者が自分の身内ばかりを優遇するような社会のことである。「身内」というのは族が代表だけど、地縁(出身地が同じ)、学縁(大学など出身校が同じ)なんかもある。権力者が所属している「共同体」に属している者が優遇されるということだ。そういうケースが世界で目立つようになってきた。

 アメリカのトランプ政権は政界のアウトサイダーをウリにしてきたこともあって、今まで共和党政権に関わっていた重要人物もほとんど入っていない。トランプと肌が合わない人はどんどん罷免し、家族と側近ばかりが残っている。ロシアのプーチン政権でも、大統領の家族は出てこないけど、「友人」の実業家などがよくスキャンダルに出てくる。中国の習近平政権も、「太子党」と言われて党幹部の子どもであることで出世してきた。このように世界中でネポティズム化している。
 
 「法治主義」の社会では、法に基づいたルールで世の中が動いていくはずだ。もちろん「コネ」のようなものがまったくない社会はないだろう。でも、多くの社会では、「中小企業」なら許されても「国家公務員」だったら許されないといった「許容範囲」がある。日本でもアメリカでも私立大学では出身者の子どもが優先的に入学できるルールがあることが多い。しかし、それは私立では許されても国立大学では認められない。

 日本の安倍政権で起こっている「森友学園」「加計学園」問題も、世界的に広がるネポティズム社会化の一つだと考えられる。「森友」の場合は、首相に近い(と自分たちで考える)特殊なイデオロギーを掲げていた。それを売り物にして首相夫人を名誉校長に担いだ。首相夫人が関わっていたからというだけでなく、首相に近いイデオロギー集団を恐れるという心理が国有地払下げに影響したと考えられる。「加計」の場合は、もっと直接的に首相に近い友人だけが情報にアクセスできるという構造が出来ていた。「選定プロセスには一点の曇りもない」というけど、試験で言えば確かに「採点は公正に行われた」かもしれない。でも事前に問題作成者が特定の受験生に問題を見せていた。そんな風に考えると判りやすい。採点者にいくら聞いても不正とは判らない。

 安倍政権は何回か強引な国会運営などで支持率が下がった。今回も各調査で不支持が大きく上回っている。しかし、どの調査でも3割程度の支持率がある。そこを割り込まない。このように森友文書改ざん問題、加計をめぐる柳瀬秘書の国会招致、財務次官のセクハラ問題と麻生大臣の対応(の不真面目さ)などが相次いでも、それでもかなりの人が安倍政権を支持している(らしい)。安倍政権ではなく、支持しているのは「自公政権」であって、他の人でもいいんだけど、他の有力候補がいないじゃないかということか。それとも経済や外交はそこそこうまくやってるんじゃないか(少なくとも民主党政権時代より)ということか。

 そういうこともあるんだろうけど、それ以上に「ネポティズム化」を問題にしない風潮が背景にある気がする。親の経済力によって教育格差が生じることを不公平と思わない人が増加しているらしいことが気になる。(朝日新聞4月5日付によれば、教育格差を「当然」「やむをえない」と超える保護者が6割を超えたという。「教育格差「当然」「やむをえない」6割超 保護者に調査」) これは一体何なんだろうか。「公平さ」の概念がこれほど変わってしまった時、だからこそ安倍政権やトランプ政権が出現したのではないか。

 歴史をたどってみると、「法治」の意識が人々に定着しない社会では、信用できるのは「ミウチ」だけだから、当然権力は世襲される。近代社会ではそれはまずいので、今ではいくつかの国を除いて選挙でリーダーを選んでいる。だけど、その人だけが勝つような仕組みで選挙が行われる。世界の半分ぐらいの国の選挙はそうである。日本はそうじゃないはずで、実際に立候補と選挙運動は自由にできるんだけど、安倍首相や麻生副首相の選挙区では圧倒的に強くて他の人が当選する余地はない。(小選挙区での得票率を見ると、安倍氏は2017年選挙で72.6%、2009年選挙で64.3%、麻生氏は2017年選挙で72.2%、2009年選挙で62.2%とほぼ同じ得票率を示している。)

 そういう社会に人々の不満が高まると、発展途上の国では比較的実力で出世できる「軍隊」に期待が集まる。多くの国で「軍政」の時代があって、独裁的な手段で経済が発展することも多い。軍隊にもネポティズムはあるが(日本では陸軍は長州閥、海軍は薩摩閥だった)、軍隊そのものの存在目的からして「権力者の友人だけど無能なボス」はいらない。(日本でもある時期以後は、藩閥に属していても陸海軍の大学校の成績が優先された。)現代の世界を見ても、タイエジプトなど選挙がうまくいかないと軍事クーデタが起こる。

 そうしたことを考えると、最近の日本でも自衛官が野党国会議員に暴言を吐くなどの事件が起こっているのが気になる。昨年には、制服組トップの河野統合幕僚長が安倍首相が主張した憲法改正案に「非常にありがたいこと」と語る問題があった。現行憲法を守る必要がある国家公務員、それも「自衛官のトップ」である人が憲法改正を語る。それが何のお咎めもない。ネポティズム化と軍隊美化は根っこにおいては同じ土壌から出てきているような気がする。
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