松島憲一著「とうがらしの世界」(講談社選書メチエ)を読んだ。これは「日本最高峰」の信州大学農学部でトウガラシ(唐辛子)を研究する著者が、「とうがらしの世界」あるいは「世界のとうがらし」を語り尽くした本である。基本的には「なぜトウガラシは辛いのか」とか、「世界のトウガラシはどのように広がったか」などを遺伝子解析で追求する理系の本である。でも著者は歴史や地理、世界の料理など様々な視点からトウガラシと人間の文化を追求していく。

「甘党」「辛党」という言葉がある。甘党はスイーツ好きという意味だが、辛党とは「甘いお菓子よりお酒が好きな人」という意味だ。(でもお酒にも甘口と辛口があるけどな。)僕はお酒も好きだけど「宅飲み」はしない。お菓子は自分で買うこともあるから「甘党」か。でも本当は「激辛党」という方が正確だと思う。若い頃は黒胡椒を持ち歩いていて、外食すると何にでも掛けていた。今は家で「七味唐辛子」を愛好していて、納豆もカラシじゃなくて七味を入れるぐらい。休日にスパゲッティソースを作ると、輪切り唐辛子をたっぷり入れるので家族は敬遠して食べない。
ちなみに、その「七味唐辛子」は浅草新仲見世の「やげん堀」(中島商店)にこだわっている。浅草松屋地下一階の「北野エース」にも置いてあるが、コロナ禍でデパートも閉まっていた時期には、「必需品」が切れないように時短営業中の本店まで買いに行った。わざわざそれだけのために。本店に行くと、辛さなどを注文して調合してくれる。
(やげん堀の七味)
「日本三大七味」というのがあるそうで、浅草浅草寺門前のやげん堀、長野善光寺門前の八幡屋礒五郎、京都清水寺門前の産寧坂七味屋本舗だという。それぞれ微妙に調合が違うと出ている。寒い信州では生姜が入るという。僕は八幡屋は知ってるけど、京都の七味屋は未体験なので一度経験してみたい。他にも日本各地に独自のとうがらし食品がたくさんあることが紹介されている。でも、やっぱり長年慣れ親しんだ「やげん堀」に限ると思っている。
そうは言っても、トウガラシにはどれほどの価値があるのか。そう思う人もいるかもしれない。でもカレーもキムチも、辛いことで知られる麻婆豆腐などの四川料理も、ペペロンチーノ・スパゲティも唐辛子がなければこの世になかった。(「ペペロンチーノ」の本当の呼び名は「アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ」.。なお、タバスコを掛けるのは日本独自で日本人観光客の要望で「日本風」として出す店もあるという話が出ている。)
元は中南米原産で、コロンブス以後にジャガイモ、サツマイモ、トウモロコシ、カボチャ、トマト、落花生、タバコなどとともに、世界一周の壮大な旅をして日本列島にたどり着いたのである。そして至る所で、その辛みが人々を魅了して世界の食文化を変えてしまった。そういう歴史に思いを馳せる時、トウガラシを通して見えてくる世界の歴史と人々の暮らしに驚くのである。
(新宿で栽培された「内藤とうがらし」)
第一部が基礎知識編で、トウガラシの種類や特徴が説明される。(今、トウガラシは植物の名前、唐辛子はスパイスの名前として書いている。)トウガラシは何故辛いのか。それは何と鳥には食べられるけど、ネズミには食べられないという仕組みだった。赤くなるのも、求愛行動用に赤色色素を必要とする鳥に向けた進化だという説があるという。またピーマン、パプリカのように辛くないものもある。シシトウなど、普通はそんなに辛くないが、時々激辛に当たることもある。それはどのような仕組みになっているのか。
トウガラシの辛み成分をカプサイシンということは、今では多くの人が知っているだろう。そしてよくカプサイシンにはダイエット効果があると言われたりするが、それは本当だろうか。実際に体を温める効果があると出ている。しかし、著者は講演でその事を語ると微妙な空気が流れると自分で書いている。松島氏自身の体型がダイエット効果に疑問を呼ぶということらしい。じゃあ、松島氏の写真はというと本には載っていないので、検索してみると下記のような写真が出てきた。

まあ松島氏は美味しい唐辛子調味料を口にすると、「これでご飯3杯はいける」などとあちこちで書いてるから、ダイエット効果を打ち消す食べっぷりなのかもしれない。またトウガラシには意外にもビタミンCが豊富に含まれているという。ハンガリーのセント=ジェルジ・アルベルト博士がパプリカから抽出に成功して、戦前にノーベル賞を取った。博士の波瀾万丈な人生も興味深い。
日本には江戸時代初期に入ってきて、各地で独自に進化した。しかし、全部で5種ある品種の中で、日本で広がったのはアニューム種という種類だという。超激辛種のハバネロなどのキネンセ種は日本には広がらなかった。一方南米を出なかった種類もあるという。江戸時代にすでに各地で80種類もの在来品種があったという。平賀源内に「蕃椒譜」という本があって、絵で唐辛子の種類を描いている。
(平賀源内「蕃椒譜」)
といった具合に、日本の古い史料にも当たる一方で、世界各地に出かけてトウガラシの種を求めて遺伝子解析を進める。本人も言っているが、まさに「文理融合」の見本。今後、高校の地理歴史科に「地理総合」という科目が出来るが、悩んでいる教員も多いだろう。理科や家庭科の教員と協力しながら、トウガラシの分析や世界各地の料理を作るなど、トウガラシだけでも面白い授業が出来るかもと思った。(ちなみに「日本最高峰」というのは、信州大農学部の農場が日本の大学で一番高所にあるという意味である。)

「甘党」「辛党」という言葉がある。甘党はスイーツ好きという意味だが、辛党とは「甘いお菓子よりお酒が好きな人」という意味だ。(でもお酒にも甘口と辛口があるけどな。)僕はお酒も好きだけど「宅飲み」はしない。お菓子は自分で買うこともあるから「甘党」か。でも本当は「激辛党」という方が正確だと思う。若い頃は黒胡椒を持ち歩いていて、外食すると何にでも掛けていた。今は家で「七味唐辛子」を愛好していて、納豆もカラシじゃなくて七味を入れるぐらい。休日にスパゲッティソースを作ると、輪切り唐辛子をたっぷり入れるので家族は敬遠して食べない。
ちなみに、その「七味唐辛子」は浅草新仲見世の「やげん堀」(中島商店)にこだわっている。浅草松屋地下一階の「北野エース」にも置いてあるが、コロナ禍でデパートも閉まっていた時期には、「必需品」が切れないように時短営業中の本店まで買いに行った。わざわざそれだけのために。本店に行くと、辛さなどを注文して調合してくれる。

「日本三大七味」というのがあるそうで、浅草浅草寺門前のやげん堀、長野善光寺門前の八幡屋礒五郎、京都清水寺門前の産寧坂七味屋本舗だという。それぞれ微妙に調合が違うと出ている。寒い信州では生姜が入るという。僕は八幡屋は知ってるけど、京都の七味屋は未体験なので一度経験してみたい。他にも日本各地に独自のとうがらし食品がたくさんあることが紹介されている。でも、やっぱり長年慣れ親しんだ「やげん堀」に限ると思っている。
そうは言っても、トウガラシにはどれほどの価値があるのか。そう思う人もいるかもしれない。でもカレーもキムチも、辛いことで知られる麻婆豆腐などの四川料理も、ペペロンチーノ・スパゲティも唐辛子がなければこの世になかった。(「ペペロンチーノ」の本当の呼び名は「アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ」.。なお、タバスコを掛けるのは日本独自で日本人観光客の要望で「日本風」として出す店もあるという話が出ている。)
元は中南米原産で、コロンブス以後にジャガイモ、サツマイモ、トウモロコシ、カボチャ、トマト、落花生、タバコなどとともに、世界一周の壮大な旅をして日本列島にたどり着いたのである。そして至る所で、その辛みが人々を魅了して世界の食文化を変えてしまった。そういう歴史に思いを馳せる時、トウガラシを通して見えてくる世界の歴史と人々の暮らしに驚くのである。

第一部が基礎知識編で、トウガラシの種類や特徴が説明される。(今、トウガラシは植物の名前、唐辛子はスパイスの名前として書いている。)トウガラシは何故辛いのか。それは何と鳥には食べられるけど、ネズミには食べられないという仕組みだった。赤くなるのも、求愛行動用に赤色色素を必要とする鳥に向けた進化だという説があるという。またピーマン、パプリカのように辛くないものもある。シシトウなど、普通はそんなに辛くないが、時々激辛に当たることもある。それはどのような仕組みになっているのか。
トウガラシの辛み成分をカプサイシンということは、今では多くの人が知っているだろう。そしてよくカプサイシンにはダイエット効果があると言われたりするが、それは本当だろうか。実際に体を温める効果があると出ている。しかし、著者は講演でその事を語ると微妙な空気が流れると自分で書いている。松島氏自身の体型がダイエット効果に疑問を呼ぶということらしい。じゃあ、松島氏の写真はというと本には載っていないので、検索してみると下記のような写真が出てきた。

まあ松島氏は美味しい唐辛子調味料を口にすると、「これでご飯3杯はいける」などとあちこちで書いてるから、ダイエット効果を打ち消す食べっぷりなのかもしれない。またトウガラシには意外にもビタミンCが豊富に含まれているという。ハンガリーのセント=ジェルジ・アルベルト博士がパプリカから抽出に成功して、戦前にノーベル賞を取った。博士の波瀾万丈な人生も興味深い。
日本には江戸時代初期に入ってきて、各地で独自に進化した。しかし、全部で5種ある品種の中で、日本で広がったのはアニューム種という種類だという。超激辛種のハバネロなどのキネンセ種は日本には広がらなかった。一方南米を出なかった種類もあるという。江戸時代にすでに各地で80種類もの在来品種があったという。平賀源内に「蕃椒譜」という本があって、絵で唐辛子の種類を描いている。

といった具合に、日本の古い史料にも当たる一方で、世界各地に出かけてトウガラシの種を求めて遺伝子解析を進める。本人も言っているが、まさに「文理融合」の見本。今後、高校の地理歴史科に「地理総合」という科目が出来るが、悩んでいる教員も多いだろう。理科や家庭科の教員と協力しながら、トウガラシの分析や世界各地の料理を作るなど、トウガラシだけでも面白い授業が出来るかもと思った。(ちなみに「日本最高峰」というのは、信州大農学部の農場が日本の大学で一番高所にあるという意味である。)