台湾の民主運動を見つめ続けた「私たちの青春、台湾」が上映されている。東京ではポレポレ東中野で12月上旬までは確実で、その後全国での上映も予定されている。台湾を代表する映画賞、金馬奨で2018年の最優秀ドキュメンタリー映画賞を受賞した。その授賞式で監督の傅楡(フー・ユー)が「いつか台湾が“真の独立した存在”として認められることが、台湾人として最大の願いだ」とスピーチをした。そのことは記憶にあるが、この映画のことだったのか。

これは2011年から2017年にかけて、台湾の民主運動に関わった二人の人物を追ったドキュメンタリー映画である。ものすごく面白い映画だったが、それは「人間」と「社会運動」と「青春」が絡み合う面白さだ。撮影期間に2014年の「ひまわり運動」が起こり、学生運動による立法院占拠という破天荒な事態になった。そこで終われば、運動高揚期の証言になったものが、その後も撮り続けたことで、全然違った人生が見えてくる。それが興味深いのである。
(立法院占拠)
監督の傅楡(フー・ユー、1978~)は台北でマレーシア華僑の父とインドネシア華僑の母の間に生まれた。ドキュメンタリー映画製作者となり、2011年から台湾の学生運動の中で出会った二人の人物を撮り続けた。一人は学生運動の中心陳為廷(チェン・ウェイティン)。いつも歌を歌いながら突進の先頭に立つ一方で、沢山のぬいぐるみに囲まれている。
もう一人は中国本土から留学して台湾の社会運動に参加、その様子をネットで発信した人気ブロガーの蔡博芸(ツァイ・ボーイー)。彼女は帰郷すると公安が訪ねてきて、両親からは運動には関わるなと言われている。しかし台湾にやってきて初めて「社会運動」に目覚めたのである。
(左=蔡博芸、右=陳為廷)
2014年3月に当時の馬英九政権が「サービス貿易協定」を強行採決したことに反対した学生たちが立法院に突入した。そのまま23日間の占拠に発展する。この運動は「ひまわり運動」と呼ばれた。中国の影響力増大を危惧する世論の支持を受けて、結局は与党側に審議のやり直しを受け入れさせた。表面的には「成功」に見えた運動だったが、映画を見ると内部には複雑なものもあった。「国民への説明なしで進めるな」と訴えながら、運動方針は幹部たちが密室で決めていた。撤退方針も幹部が押し切る形で決定したが、時間的にギリギリだったのも確かだろう。
彼らは中国や香港を訪れ、香港でも民主運動家と交流している。そして、ボーイーは留学先の大学で学費値上げ反対運動に参加し大学の体質に疑問を持ち、学生自治会の会長に立候補する。観客は彼女を「民主運動家」のブロガーと見ているが、大学当局は「中国籍」を問題にする。「中国の統一工作ではないか」などという批判も浴びせられる。そして選挙自体がなくなってしまった。改めて行われた会長選では、対立候補があえて立たずボーイーの信任投票となって関心を呼ばずに惨敗する。台湾の「民主主義」も絶対ではなかった。
民主のスターとなったウェイティンは立法院の補欠選挙に立候補する。ところが途中でスキャンダルが暴露され、運動は中途で終わってしまう。「力」を過信するタイプのウェイティンは、大きな過ちを過去に起こしていた。検索すれば簡単に調べられるが、ここでは映画を見たときの先入観にならないように書かないでおきたい。彼はその後兵役に行き、運動から離れる。映画の編集が終わったとき、再び集まって映像を見る。最初に撮り始めた2011年6月の天安門事件追悼集会から数年。青春の日々は過ぎ去っていく。
作品のホームページを見ると、オードリー・タン(台湾のIT担当相)や多和田葉子らの推薦文に並んで、一青窈のこの種の文章としては今までにないぐらい長い文章が掲載されている。この映画は台湾に関心がある人はもちろん、自らのアインデンティティを探求する人にも見て欲しい作品だ。また「社会運動」に若い世代の関心が薄い日本と比べて、いろいろと考えさせられる。魂の奥底を揺さぶるドキュメンタリーだ。

これは2011年から2017年にかけて、台湾の民主運動に関わった二人の人物を追ったドキュメンタリー映画である。ものすごく面白い映画だったが、それは「人間」と「社会運動」と「青春」が絡み合う面白さだ。撮影期間に2014年の「ひまわり運動」が起こり、学生運動による立法院占拠という破天荒な事態になった。そこで終われば、運動高揚期の証言になったものが、その後も撮り続けたことで、全然違った人生が見えてくる。それが興味深いのである。

監督の傅楡(フー・ユー、1978~)は台北でマレーシア華僑の父とインドネシア華僑の母の間に生まれた。ドキュメンタリー映画製作者となり、2011年から台湾の学生運動の中で出会った二人の人物を撮り続けた。一人は学生運動の中心陳為廷(チェン・ウェイティン)。いつも歌を歌いながら突進の先頭に立つ一方で、沢山のぬいぐるみに囲まれている。
もう一人は中国本土から留学して台湾の社会運動に参加、その様子をネットで発信した人気ブロガーの蔡博芸(ツァイ・ボーイー)。彼女は帰郷すると公安が訪ねてきて、両親からは運動には関わるなと言われている。しかし台湾にやってきて初めて「社会運動」に目覚めたのである。

2014年3月に当時の馬英九政権が「サービス貿易協定」を強行採決したことに反対した学生たちが立法院に突入した。そのまま23日間の占拠に発展する。この運動は「ひまわり運動」と呼ばれた。中国の影響力増大を危惧する世論の支持を受けて、結局は与党側に審議のやり直しを受け入れさせた。表面的には「成功」に見えた運動だったが、映画を見ると内部には複雑なものもあった。「国民への説明なしで進めるな」と訴えながら、運動方針は幹部たちが密室で決めていた。撤退方針も幹部が押し切る形で決定したが、時間的にギリギリだったのも確かだろう。
彼らは中国や香港を訪れ、香港でも民主運動家と交流している。そして、ボーイーは留学先の大学で学費値上げ反対運動に参加し大学の体質に疑問を持ち、学生自治会の会長に立候補する。観客は彼女を「民主運動家」のブロガーと見ているが、大学当局は「中国籍」を問題にする。「中国の統一工作ではないか」などという批判も浴びせられる。そして選挙自体がなくなってしまった。改めて行われた会長選では、対立候補があえて立たずボーイーの信任投票となって関心を呼ばずに惨敗する。台湾の「民主主義」も絶対ではなかった。
民主のスターとなったウェイティンは立法院の補欠選挙に立候補する。ところが途中でスキャンダルが暴露され、運動は中途で終わってしまう。「力」を過信するタイプのウェイティンは、大きな過ちを過去に起こしていた。検索すれば簡単に調べられるが、ここでは映画を見たときの先入観にならないように書かないでおきたい。彼はその後兵役に行き、運動から離れる。映画の編集が終わったとき、再び集まって映像を見る。最初に撮り始めた2011年6月の天安門事件追悼集会から数年。青春の日々は過ぎ去っていく。
作品のホームページを見ると、オードリー・タン(台湾のIT担当相)や多和田葉子らの推薦文に並んで、一青窈のこの種の文章としては今までにないぐらい長い文章が掲載されている。この映画は台湾に関心がある人はもちろん、自らのアインデンティティを探求する人にも見て欲しい作品だ。また「社会運動」に若い世代の関心が薄い日本と比べて、いろいろと考えさせられる。魂の奥底を揺さぶるドキュメンタリーだ。