ベートーヴェンの「ピアノ三重奏曲第7番」は普通「大公トリオ」と呼ばれている。これは村上春樹「海辺のカフカ」に印象的に出てくる。カザルス・トリオの大昔の演奏を聞いてみたら、ビックリするほど素晴らしかった。なんで「大公トリオ」と呼ばれるかというと、神聖ローマ帝国皇帝の末子ルドルフ大公(後に枢機卿)に献呈されているからだ。1811年にウィーンで初演されたときはベートーヴェンが自らピアノを弾いたが、これが公の場での最後の演奏になった。ルドルフ大公はベートーヴェンの弟子兼パトロンで、ピアノも得意だった。
ヨーロッパが生み出した素晴らしい音楽や絵画は、王侯貴族や教会などの支えがあって成立した。「パトロン」が文化を生んだのである。それはヨーロッパに限らず、世界中で事情は同じだ。世界遺産になっているような建築物は大体が王家や教会が作らせたものだ。日本の「源氏物語」「枕草子」なども平安朝の宮廷文化から生まれた。江戸時代になると貨幣経済が発展して「町人文化」が生まれる。近代になっても「大ブルジョワジー」が文化に大きな貢献をした。
世界遺産に登録された東京の「国立西洋美術館」は「松方コレクション」が基になっている。これは明治の元勲松方正義の三男、松方幸次郎が第一次大戦後のヨーロッパで収集したものだ。川崎造船所の社長として財界で活躍したが、今は近代絵画コレクターとして記憶されている。ブリヂストンの創業者石橋正二郎も大コレクターだった。コレクションは「ブリヂストン美術館」(現アーティゾン美術館)で公開されている。彼らの存在によって、モネやセザンヌ、ゴッホなど多くの近代絵画のホンモノを日本にいながら鑑賞できる。
僕は石橋正二郎の日本文化に対する功績は大きいと認めるが、じゃあ「文化功労者」と言われると「?」と思う。大成功者なんだから、「終身年金」なんか要らないだろうと思う。1976年に亡くなった石橋は、もちろん選定されていない。その当時は年に10人しか選ばれず、とても「パトロン」が選定される時代じゃなかった。その1976年には井上靖(作家)、貝塚茂樹(中国史)、芹沢銈介(染織)、森嶋通夫(経済学)などが選任され、この年初めて映画から黒澤明、ジャーナリズムから松本重治から選ばれたのである。
文化功労者の人数は、1988年に13人、1990年には15人、2018年には20人と増え続けた。「文化」の概念が広がっているので、それ自体は当然だろう。1988年には初めてスポーツ界から織田幹雄(陸上競技)や日本料理として湯木貞一が選ばれた。また1989年にはソニーの井深大(電子技術)や森英恵(服飾デザイン)が選ばれた。確かにスポーツや料理や服飾デザインも重要な文化だ。しかし、大企業の経営者だった井深大の「文化功労者」には疑問を感じないか?
そして2018年以来は企業経営者が毎年選ばれるようになった。2018年には資生堂の福原義春(企業メセナ)とキッコーマンの茂木友三郎(文化振興(食文化))が選ばれた。カッコ内は選定カテゴリーである。2019年は任天堂の宮本茂(ゲーム)、ナベプロの渡辺美佐(文化振興)、さらに日本財団の笹川陽平(社会貢献・国際交流・文化振興)も選ばれている。
(滝久雄)
そして2020年になると、「ぐるなび」創業者の滝久雄(パブリックアート、上の写真)が選ばれている。この人が菅首相と親しいと言われている人だが、一体パブリックアートって何だろう。1パーセントフォーアート提唱やペア碁考案などが評価されたという。さらに鈴木幸一(文化振興、下の写真)は日本の商用インターネットサービスの先駆者で、「東京・春・音楽祭実行委員会」実行委員長を長年務めているという。
(鈴木幸一)
他にも酒井政利(音楽プロデューサー)やすぎやまこういち(作曲家)も選ばれた。すぎやまはドラゴンクエストなど多くのゲーム、アニメの音楽を作曲したと紹介されている。(他にも「亜麻色の髪の乙女」や「花の首飾り」(ザ・タイガース)、「学生街の喫茶店」(ガロ)などの作曲家でもあるが。)大衆文化は大切だ。さらに「大衆文化の裏方」に着目するのも大事だと思う。だけど、大衆文化の方が普通はヒットする。直木賞作家(例えば東野圭吾や池井戸潤)は、芥川賞作家より平均で大分売れ方が違うだろう。
もともと戦後にこの制度が出来たときはものすごいインフレ時代で、学者や芸術家には貧窮していた人もいるだろう。だから「終身年金」が与えられだのだと思う。それを考えれば、あまり売れていないけれど専門家筋には高い評価を受けている人を選んだほうがいいと思う。資生堂の福原義春、キッコーマンの茂木友三郎など業績的には十分だと思うが、「文化功労者」というと違和感を覚える。それだったら、本多劇場を私財を投じて作って下北沢を「演劇の街」にした本多一夫がなぜ選ばれないのか。86歳で存命である。
スポーツ界でもプロスポーツで大成功した王貞治、長嶋茂雄、大鵬なども選ばれているが、アマスポーツ界でもっと苦労している人がいると思う。プロ野球でも金田正一や張本勲、野村克也なんかは避けられる。漫画では今まで横山隆一、水木しげる、ちばてつや、萩尾望都の4人が選ばれている。手塚治虫が1989年に60歳で亡くならなかったら、漫画界初の文化勲章だったのか。僕は白土三平やつげ義春こそ「文化功労者」ではないかと思うが無理なんだろうか。言い出せば切りがないし、所詮「お上がくれるもの」だから、どうでもいいといえばそうなんだけど、最近はちょっとやり過ぎではないか。文化功労者の選定にも杉田官房副長官の意向が働くというから、外された人もいるのだろう。
ヨーロッパが生み出した素晴らしい音楽や絵画は、王侯貴族や教会などの支えがあって成立した。「パトロン」が文化を生んだのである。それはヨーロッパに限らず、世界中で事情は同じだ。世界遺産になっているような建築物は大体が王家や教会が作らせたものだ。日本の「源氏物語」「枕草子」なども平安朝の宮廷文化から生まれた。江戸時代になると貨幣経済が発展して「町人文化」が生まれる。近代になっても「大ブルジョワジー」が文化に大きな貢献をした。
世界遺産に登録された東京の「国立西洋美術館」は「松方コレクション」が基になっている。これは明治の元勲松方正義の三男、松方幸次郎が第一次大戦後のヨーロッパで収集したものだ。川崎造船所の社長として財界で活躍したが、今は近代絵画コレクターとして記憶されている。ブリヂストンの創業者石橋正二郎も大コレクターだった。コレクションは「ブリヂストン美術館」(現アーティゾン美術館)で公開されている。彼らの存在によって、モネやセザンヌ、ゴッホなど多くの近代絵画のホンモノを日本にいながら鑑賞できる。
僕は石橋正二郎の日本文化に対する功績は大きいと認めるが、じゃあ「文化功労者」と言われると「?」と思う。大成功者なんだから、「終身年金」なんか要らないだろうと思う。1976年に亡くなった石橋は、もちろん選定されていない。その当時は年に10人しか選ばれず、とても「パトロン」が選定される時代じゃなかった。その1976年には井上靖(作家)、貝塚茂樹(中国史)、芹沢銈介(染織)、森嶋通夫(経済学)などが選任され、この年初めて映画から黒澤明、ジャーナリズムから松本重治から選ばれたのである。
文化功労者の人数は、1988年に13人、1990年には15人、2018年には20人と増え続けた。「文化」の概念が広がっているので、それ自体は当然だろう。1988年には初めてスポーツ界から織田幹雄(陸上競技)や日本料理として湯木貞一が選ばれた。また1989年にはソニーの井深大(電子技術)や森英恵(服飾デザイン)が選ばれた。確かにスポーツや料理や服飾デザインも重要な文化だ。しかし、大企業の経営者だった井深大の「文化功労者」には疑問を感じないか?
そして2018年以来は企業経営者が毎年選ばれるようになった。2018年には資生堂の福原義春(企業メセナ)とキッコーマンの茂木友三郎(文化振興(食文化))が選ばれた。カッコ内は選定カテゴリーである。2019年は任天堂の宮本茂(ゲーム)、ナベプロの渡辺美佐(文化振興)、さらに日本財団の笹川陽平(社会貢献・国際交流・文化振興)も選ばれている。

そして2020年になると、「ぐるなび」創業者の滝久雄(パブリックアート、上の写真)が選ばれている。この人が菅首相と親しいと言われている人だが、一体パブリックアートって何だろう。1パーセントフォーアート提唱やペア碁考案などが評価されたという。さらに鈴木幸一(文化振興、下の写真)は日本の商用インターネットサービスの先駆者で、「東京・春・音楽祭実行委員会」実行委員長を長年務めているという。

他にも酒井政利(音楽プロデューサー)やすぎやまこういち(作曲家)も選ばれた。すぎやまはドラゴンクエストなど多くのゲーム、アニメの音楽を作曲したと紹介されている。(他にも「亜麻色の髪の乙女」や「花の首飾り」(ザ・タイガース)、「学生街の喫茶店」(ガロ)などの作曲家でもあるが。)大衆文化は大切だ。さらに「大衆文化の裏方」に着目するのも大事だと思う。だけど、大衆文化の方が普通はヒットする。直木賞作家(例えば東野圭吾や池井戸潤)は、芥川賞作家より平均で大分売れ方が違うだろう。
もともと戦後にこの制度が出来たときはものすごいインフレ時代で、学者や芸術家には貧窮していた人もいるだろう。だから「終身年金」が与えられだのだと思う。それを考えれば、あまり売れていないけれど専門家筋には高い評価を受けている人を選んだほうがいいと思う。資生堂の福原義春、キッコーマンの茂木友三郎など業績的には十分だと思うが、「文化功労者」というと違和感を覚える。それだったら、本多劇場を私財を投じて作って下北沢を「演劇の街」にした本多一夫がなぜ選ばれないのか。86歳で存命である。
スポーツ界でもプロスポーツで大成功した王貞治、長嶋茂雄、大鵬なども選ばれているが、アマスポーツ界でもっと苦労している人がいると思う。プロ野球でも金田正一や張本勲、野村克也なんかは避けられる。漫画では今まで横山隆一、水木しげる、ちばてつや、萩尾望都の4人が選ばれている。手塚治虫が1989年に60歳で亡くならなかったら、漫画界初の文化勲章だったのか。僕は白土三平やつげ義春こそ「文化功労者」ではないかと思うが無理なんだろうか。言い出せば切りがないし、所詮「お上がくれるもの」だから、どうでもいいといえばそうなんだけど、最近はちょっとやり過ぎではないか。文化功労者の選定にも杉田官房副長官の意向が働くというから、外された人もいるのだろう。