尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

いじめ「報告件数」が多すぎる

2013年12月25日 00時18分09秒 | 教育 (いじめ・体罰問題)
 ちょっと前の話になるが、文部科学省が12月10日に2012年度の「問題行動調査」のまとめ結果を発表した。文科省サイトの「平成24年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」結果について」で見ることができる。翌日の各紙朝刊は一斉にこれを報道し、「いじめ認知19万8千件」と大きく報じた。2011年度は7万件ほどなので、3倍近くに増えたことになるが、もちろんこれは「報告が増えた」ということである。大津事件を受けて、緊急アンケートなどを行い「軽微ないじめの認知が進んだ」と一応考えられる。

 「一応」と書いたのは、都道府県により報告数の違いが多すぎるからである。それは各紙とも指摘してるし、表を載せている新聞も多い。でも新聞を取っていても見出ししか読んでいない場合も多いし、新聞そのものを読んでいない人も多い。ましてや文科省サイトを見てみる人はほとんどいないだろう。そこで簡単に紹介しておきたいと思ったわけである。僕も文科省の統計そのものをじっくり検討はしていない。一緒に「問題行動」として統計が発表されたのは、暴力行為、いじめ、出席停止、小・中学校の不登校、高等学校の不登校、高等学校中途退学等、自殺(学校から報告のあったもの)、教育相談の全8項目にわたっている。本来はこれを総合的に考察し、また学力テストの結果、さらに県民所得など他の数値も含め総合的に考える必要があるだろう。

 報告数の違いを九州を例にとって見ておきたい。九州各県は多少の経済的、文化的な違いはあるけど、まあ例えば「北海道、秋田、東京、大阪、愛媛」などとアトランダムに取り上げるよりは、社会的に似ていると思う。だから多少の違いはあるのは当然だけど、以下のようにあまりに違い過ぎるのは本来おかしい。小中高特別支援すべて含めた「1000人当たりの件数」を見ることにする。
 福岡(2.5)、佐賀(2.0)、長崎(12.5)、熊本(29.1)、大分(28.9)、宮崎(13.0)、鹿児島(166.1)
 
 いくらなんでも、佐賀県と鹿児島県で80倍もいじめ数が違うとはだれも考えないだろう。鹿児島県の前年は「2.0」で、佐賀県と同じ。鹿児島県は一年で80倍に増えた。これはいじめが増えたのではなく、「報告が増えた」わけである。新聞によれば、鹿児島県は各校ごとのアンケートではなく、「統一アンケート」を実施したという。一方、佐賀県でも前年は「0.6件」で、3倍に増えている。佐賀県は各校で教員の責任で判断しているという。「調査委員会」を校内に設置するなどして芽の段階でいじめをなくそうと努めているらしい。

 和歌山県では「0.9件」が「21.2件」と20倍に増えたが、県教委の指導主事が全高校と全市町村教委に行き、教員が「ささいな冷やかし」と判断したものもいじめに加えたという。(朝日新聞)つまり、簡単に言えば、「19万8千件」には「ささいな冷やかし」も含まれているわけである。もっとも「ささいな冷やかし」ならいいのかと言えば、そうは言えない。言えないけれど、教師側から見て「ささい」と見えるものが、本当に児童・生徒の心には「ささい」なのか「重大」なのかは、本人にだってよく判らない場合もあるだろう。それを「報告すべきか」「報告しなくてもいいか」は判らない。それは報告すべきだろうと思うかもしれないが、小さな事例にも大人が全部対応するのがいいのだろうかという観点もあるからである。人間がたくさんいればトラブルもおこりうるが、それを全部「上から」解決するのがいいのかどうか。この辺の機微は、判断が難しい。

 問題はその「判断の難しさ」を教員が共有していることであって、何かあったらすべていじめ、何でも報告というなら、それは「学びの場」というより、「行政官庁」になってしまうのではないか。2013年度以後の統計も見て行かなければならないが、「多い方に合わせる」、他県はあんなに多い、いじめが多いのは本来よくないはずだが、報告数が多いということは、教員の「いじめ認知」が多い、つまり「教員が熱心に取り組んでいる」、よって「いじめ件数が多い方が熱心に見えて評価される」などという本末転倒が起こらないことを望む。しかし多分、そうなって行くのではないかと思うが。校内に報告すべきいじめ事件が起こらないと、教員が困ってしまうなどという「カフカ的世界」は日本の学校では起こりそうな話である。

 なお、本当は校種別に考えるべきだけど、校種別の報告数はあるけど、「1000人ごと件数」が統一のものしか発表されていない。学校基本調査を参照して自分で計算すればいいわけだが、それは面倒すぎる。ここでは小中校特別支援すべて合わせて計算した数字で見ておくしかない。最後の報告件数が多い県、少ない県を少し挙げておきたい。(なお、いじめの問題は続けて書くことにする。)
多い県
 鹿児島(166.1)、奈良(47.8)、宮城(42.0)、山梨(35.9)、京都(33.9)、千葉(32.2)、熊本(29.1)
少ない県
 佐賀(2.0)、福岡(2.5)、香川(3.3)、福島(3.4)、山形・埼玉(4.5)、広島(4.6)
コメント
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