尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

蔵原惟繕の映画②「俺は待ってるぜ」~「ある脅迫」

2013年12月20日 00時06分45秒 |  〃  (日本の映画監督)
 蔵原惟繕監督の作品を順番に見ていくことにする。
俺は待ってるぜ(1957)
 デビュー作。美しいモノクロ映像美で描かれたフィルム・ノワール。後に「ムード・アクション」と呼ばれるようになる作品群の先駆と言える。石原裕次郎北原三枝、二人がともに傷を負っていて、傷つけ合いながらも惹かれあい、港ヨコハマの陰謀と戦う。三枝が自殺しそうだと裕次郎が助ける冒頭からムードたっぷり。裕次郎は元ボクサーで、ブラジルに行った兄を追って日本を捨てることだけ夢見ている。その兄は、一年前に立ったはずなのに、以後何の連絡もない。日本(内)と外国(外)を媒介する「」は、日活アクションの主舞台だが、特に横浜ロケが多い。この作品でも、横浜という舞台設定が生きている。また「キャバレー」という日活おなじみの設定もうまい。
(「俺は待ってるぜ」)
 二人は惹かれあいながらも、自らの傷と向き合うために、あえて結ばれないでいる。こういう「観念的な設定」が日活アクションの特徴だ。自分が自分ではない間は、好きな女と結ばれるわけには行かない。彼は組織のためではなく、「自己のアイデンティティ」のために戦うのである。新人ながら安定した演出力だが、後の蔵原組ではなく、撮影=高村倉太郎、音楽=佐藤勝という名手が担当している。裕次郎は驚くほど早口で、自分の思い、考えをストレートに三枝に伝える。このスピード感が新世代のアクション。構図にも凝り、素晴らしい映画だが、人物処理や物語の単調さなど、多少後半がアクション映画としてもたつく印象がある。日活アクション初期の佳作。
◎「霧の中の男」(1958)◎「風速40米」(1958)、未見(後者は昔見た気がするけど。)

嵐の中を突っ走れ(1958)
 「俺は待ってるぜ」「風速40米」に続く裕次郎主演映画。会社としては、このような裕次郎ものの監督として大成して欲しかっただろうが、これは裕次郎ファンにしか面白くない映画。体育大学の助手の裕次郎はケンカに巻き込まれ新聞に載ってクビ。千葉県館山の女子高教師の仕事を見つけてもらって、そこで女子高生に騒がれながら、運命の女性北原三枝と再会。ともに水産研究所が絡む陰謀を追求する。って、授業はいつしてるの? そもそも冒頭に鉄棒の大車輪を披露していると、岡田真澄が登場して突然だけど馬術大会に出てくれないかと頼みに来る。裕次郎は引き受けて馬術に行ってしまう。いくら50年代でも学生だけで鉄棒させて、勤務時間中に勝手に抜け出すのは許されないだろう。その大会で北原三枝が優勝し、裕次郎は後をつけていく。そこでケンカに巻き込まれる。

 北原三枝とはその後会えなくなるのだが、実は館山の出身で親が倒れて実家に戻っていた。アルバイトしている地方紙で再会するのは、娯楽映画で許される偶然だが、あまりに露骨だとシラケる。また陰謀もよく判らない性格のもので、どうも盛り上がりにかける。でも、裕次郎が体育教師として中原早苗や清水まゆみに囲まれ、さらに中原の姉役の白木マリにも惚れられ、という明朗青春映画で満足できる人にはOKかも。渡辺武信は、裕次郎役を加山雄三がやっても違和感がないと批判しているが、裕次郎は後には何の傷も負っていない「明朗青春もの」をたくさんやることになる。石原兄弟は、価値紊乱者のような顔をして登場したが、結局は体制に従順な生き方をしていくことになる。
第三の死角(1959)未見 今回土日の朝に上映があったが見なかった。

爆薬(ダイナマイト)に火をつけろ(1959)
 初の小林旭作品。建設会社の若手が談合体質に愛想を尽かして、自分たちの会社を立ち上げ、東京湾埋め立て工事を安く落札。「風太郎」(と呼んでる)しか労働者として集められないが、悪徳会社の妨害にめけず体を張って彼らの信頼を得て工事を進める。しかし、そこに巨大台風が襲来し…。後に土建業界を揺るがす談合問題を描いていて、今から見ると興味深い。映画としては、筋があっちこっちに行って、しかも自然災害ですべてが決まってしまい、不思議な映画。銀行関係者の妹役の写真家という設定で、白木マリが出ている。写真を撮りまくり個展も開いている。この写真がなかなかよく、もちろん映画のスチル写真として撮ったものだろうが、50年代の建設工事を撮った写真(という設定の映画のスチル)として、展覧会をして欲しいような出来だと思った。

海底から来た女(1959)
 今回は見てないが、数年前の東京フィルメックスで見た。石原慎太郎原作だそうだが、伝説、ファンタジーというべき青春怪奇映画(かな)。奇作というか、怪作というか、珍作というか。
地獄の曲がり角(1959)
 白黒の映像でスタイリッシュにつづられたチンピラの栄光と破滅。ホテルボーイの葉山良二が、客の殺人事件から汚職事件の証拠を入手する。元々彼は仲間と組んで、不倫カップルが来たら地元の組に知らせ、ゆすりの片棒を担いで小金を得ていた。やがてテープレコーダーを部屋に仕掛けて、スキャンダルを知ったら自分たちで儲けるようになっていく。汚職事件をめぐり、謎の女南田洋子と出会い、悪党たちが複雑に絡み合う。最後に迫力あるカーチェイスになり、「地下室のメロディ」を先取りするような結末。これは「俺は待ってるぜ」以来の佳作で、会社からは添え物扱いされるこういう映画の方が蔵原は得意だ。ホテルボーイが一時とは言え、地元の組をつぶして町を牛耳るというのは無理があるが、それを見せてしまうのが映画。そのためには撮影や演出も大事だが、まず脚本が大切という見本。テープレコーダーの使い方など、当時の時代を感じさせる。

われらの時代(1959)
 大江健三郎の最初の長編の映画化。天皇暗殺計画がチンケな社長暗殺(失敗)に矮小化され、迫力が小さくなったけど、まあ悪くはない。白坂依志夫の脚色。ジャズっぽい音楽(佐藤勝)、キャバレーの地下に住む部屋の美術(松山崇)などが、60年直前の青年の焦燥を描き出す。フランス留学を目前とする長門裕之と吉行和子のカップル。長門の弟たちのジャズバンドは、朝鮮人の高(小高雄二)をリーダーとし、爆弾を作って世界を破壊したい。アルジェリア独立運動の青年闘士、猫好きの少女、長門に学資を出していた年上の愛人渡辺美佐子など様々な人物が交錯し、時代の熱狂と混乱を描き出す。原作を語ることで精いっぱいで、登場人物のヒリヒリするような絶望感があまり伝わってこない。その意味では完全な成功作ではないが、以後の川地民夫主演映画につながるものがある。大江の原作も失敗と言われたが、僕は結構好きで、この映画も吉行和子が出てるから結構好き。
(「われらの時代」)
ある脅迫(1960)
 65分の小品ながら、ミステリーの傑作金子信雄と西村晃の演技合戦で、脚本も撮影も素晴らしい。同級生ながら出世した金子と、落ちぶれた西村の対決がすごい。今は上越市になってる新潟の直江津。蒸気機関車がトンネルを抜け、直江津駅に着き、街へ出ていく冒頭のロケが素晴らしい。当時の街並みを手際よくロケで紹介していく。「新潟銀行直江津支店」という架空の銀行では、頭取の婿である金子信雄の次長が、今や新潟市の本店に出世していく直前。そこに彼を脅迫する男が現われる。この男の目的は何か。金子はどう対処するのか。追いつめられた金子と、その下にいる西村はどうするのか。ミステリーだから全部は書かないが、実に面白い。どこかで見られる機会があれば是非。アメリカで出たDVDを売ってるらしい。ハリウッドでリメイクされるという話も。原作は多岐川恭。
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