尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

いじめ防止対策法はできたけど…

2013年12月28日 00時21分41秒 | 教育 (いじめ・体罰問題)
 いじめ問題に関する本として、尾木直樹「いじめ問題をどう克服するか」(岩波新書)が11月に出た。「いじめ」に関しては、2012年に「大津事件」が問題化し、2013年6月に「いじめ防止対策推進法」が成立した。過去30年ほどの間に「いじめ」をめぐって何度か重大な悲劇が起こり、その度にマスコミ等でも大きく取り上げられた。今回は初めて対策法が出来たわけで、画期的な出来事と言ってよい。尾木さんは、大津事件の第三者委員会に遺族側推薦で参加した。また当時の民主党政権下での「対策法」作成にも関わった。だから、今この問題を語るべきもっとも適任の人によるタイムリーなまとめの本。教師、教育行政関係者、あるいは子供を持つ親の必読本。

 対策法が成立した時に記事を書こうと思ったけど、まあやめておこうと思った。こういう法律は「ないよりはいい」「あれば役に立つ」という部分が当然ある。でも、それは使いようで、尾木さんは「(問題も課題もあるが)歴史的な意義は大きい」という考え。この法律は、自民党の政権復帰に伴い「復古的色彩」が強くなった。「保護者は子どもの規範意識の指導や学校の取り組みへの協力に務める」「学校は道徳教育や体験学習の充実を図る」「いじめた子には懲戒や出席停止措置をする」など。ここだけ見ると、何じゃ、これという感じだ。現場の意見を無視しているとして、共産党と社民党は反対した。

 法律では、教育行政にいじめ防止の研修や人材確保を義務付けた。また、いじめが発生したときに、学校に事実確認や被害者支援、加害者指導・助言を義務付けた。それらが法的根拠を持ったことが大事という考え方は当然あるだろう。だけど、尾木氏自身が書くように、「学校の多忙化」を解消しない限り、この法律自体が多忙化を促進し、法の形骸化を招く恐れも強い。この法で「いじめ防止組織」を各学校に作ると決められている。「複数の教職員、心理、福祉等の専門家その他の関係者」で組織される。僕はこの組織が形骸化し、多忙を促進し、やがてやっかい者扱いされ、書類上開いたことにするようになるのは間違いないと思う。そして、何か問題が起こった時に、「法で決められているのに形骸化させている学校の責任は大きい」と現場を責める道具に使われる。そうなることは目に見えていると思う。

 いじめ(に限らないが)を防止する学校の組織とは何か、それは学年団所属の教員で構成される「学年会」であり、校内で生活指導を担当する「生活指導部会」ではないのか。複数クラスがあれば必ず学年会がある。生活指導部は名前は学校により違うと思うが、どの学校にも必ずある。「学年会」「生活指導部会」が機能していない学校で、その他に「いじめ防止組織」を作っても、校内で機能するはずがない。この問題はこれ以上書かないが、教師が一番身近に話し合える学年会で、生徒の変容がつかめるか。大津事件では、いじめ深刻化の前に「クラスの授業の荒れ」があったと同書にある。この段階で対処できるのは、学年会と生活指導部会しかないではないか。

 ところで、この法律では「いじめをどう定義しているのだろうか」。定義しなければ、法律を作れない。法律の最初の方に以下のように書いてある。「この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいうこととした。」

 「児童等が心神の苦痛を感じている」「ネットいじめを含む」という点が評価できると尾木氏は書いている。「いじめ定義」は文科省にいじめ発生数を報告するために決められているが、1994年に変更されている。あまりに細かい話になって行くので、ここでは触れない。

 それより同書には、アメリカの事例が紹介されている。マサチューセッツ州のものである。アメリカでは教育は州ごとに法を作る。50州中49州でいじめ対策法があるという。なんと、アメリカは自由放任かと思えば、きちんと対処しているのである。かなり長いが、引用しておきたい。僕はこの定義は非常に優れたものだと思う。特に「所有物にダメージ」「学校内での権利侵害」「教育課程または学校の秩序を妨害」をいじめと理解するのは、なるほどと納得させられる。日本でも、教員の意識をクリアーにするためには役に立つ定義ではないか。

いじめの法的定義
 いじめとは、一人または複数の生徒が他の生徒に対して、文字や口頭、電子的表現、肉体的行動、ジェスチャー、あるいはそれらを組み合わせた行動を過度に、または繰り返して行い、以下のいずれかの影響を生じさせることを指す。

「いじめ」と定義される具体的な行動
①相手生徒に肉体的または精神的苦痛を感じさせるか、その所有物にダメージを与える。
②相手生徒が自身の身や所有物に危害が及ぶ恐れを感じる。
③相手生徒にとって敵対的な学校環境をつくり出す。
④相手生徒の学校内での権利を侵害する。
⑤実質的かつ甚大に教育課程または学校の秩序を妨害する。

特徴
①いじめの存在に気がついた教職員に対し、校長などに報告する義務を課す。
②教職員はいじめの予防と介入的方法に関する研修を毎年受けなければならない。
③いじめ問題を扱う授業を各学年のカリキュラムに盛り込む。
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