尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

安倍首相靖国参拝の意味

2013年12月31日 01時19分33秒 |  〃  (安倍政権論)
 第二次安倍内閣発足から、12月26日で1年を迎えた。まとめのようなものを書いておきたいと思っていたけど、書く時間がないまま過ぎていった。そうしたら安倍首相の靖国神社参拝という出来事が起こった。そのニュースを聞いた時の率直な感想は「あーあ」という感じ、アメリカのいう「失望」に近いかもしれない。もともと「期待」をしていないので、言葉は適切でないが。何というか、自分の予測間違いへの「失望」というべきか。もっと前に書いてたら、「当面靖国神社参拝はないと思われる」と書いていたかもしれない。「あーあ」というのは、「日本の最高指導者はあまり賢くないという日本最高の国家機密」を世界中に漏えいしてしまったからである。

 12月上旬に特定秘密保護法が成立した。その時点では、年内にも仲井間沖縄県知事による「辺野古埋め立て」の承認可否の知事判断が出ると言われていた。マスコミ報道では、次第に容認説が強くなっていた。現に27日に知事の容認判断が示された。特定秘密保護法はアメリカが歓迎の意向を示している。辺野古埋め立てが「進展」することもアメリカは歓迎するだろう。よりによって、その前日にアメリカが歓迎しないことが判っている「靖国参拝」をするのだろうか。今、特定秘密保護法や辺野古移設や靖国参拝などの問題点や賛否には触れない。それはちょっと置いといて考える。政権発足直後には、村山談話や河野談話の見直しがしばらく示唆されていた。それがアメリカ国内からの批判が強くなり、次第に「先送り」されていった。一方、アメリカが容認する特定秘密保護法は、成立に向け強引に進めて行った。この流れを見て思ったのは、「アメリカの管理可能な範囲内で軍事大国化を進める」という政策を取っているのだろうという判断である。そう考えると、近々の靖国参拝はないだろうという見通しを持っても不思議はないだろう。

 アメリカが「失望」という談話を出したのは「予想外」だという意見もあるようだが、それは信じられない。またそこまで首相官邸や外交当局が見通しを誤るとも信じたくない。今秋に来日したケリー国務長官、ヘーゲル国防長官がそろって千鳥ヶ淵戦没者霊園を訪問したことを見れば、アメリカの意向ははっきりしている。中国とも、また特にアメリカの同盟国である韓国とも、これ以上のいらぬ摩擦を引き起こし、世界に疑問を広げるような政策を取らないでほしいというのが、当然アメリカの意向だというのが判らないはずがない。もうすぐTPPでアメリカとの厳しい通商交渉が予想されている現段階で、わざわざ日本外交に疑問を投げかける行動を取るのは何故だろう。

 また中国、韓国に対しては、26日に発表した首相談話では、「中国、韓国の人々の気持ちを傷つけるつもりは、全くありません。靖国神社に参拝した歴代の首相がそうであった様に、人格を尊重し、自由と民主主義を守り、中国、韓国に対して敬意を持って友好関係を築いていきたいと願っています。」と述べている。これも「ウソ」だろう。文科省が「いじめ」において定義している精神に照らせば、「相手側の苦痛感」を無視して、一方的に「気持ちを傷つけるつもりは、全くありません」と言って通るなら、世の中にいじめはなくなってしまう。それでも「少なくとも首相の主観では、傷つける意図はない」と思っている人もいるかもしれない。しかし、それもあり得ない。中国、韓国から批判されることを知っていてやっているのだから、「そうなると知っていて、そうなってもいいと思ってやっている」。これは刑事裁判でいう「未必の故意」に当たるのは間違いない。それを知らないはずがない。判っていてわざわざ中国、韓国と摩擦を起こしているのである

 その目的ときっかけは何なのだろうか。僕は「北朝鮮情勢」ではないかと思う。北朝鮮のキム・ジョンウン体制はチャン・ソンテク粛清後、どこへ向かうか。韓国は2014年前半にも軍事的挑発がありうると分析している。そうすると、結局韓国、アメリカも日本との密接な協力を進めざるを得ない。いつまでも靖国参拝だけを問題視してはいられないだろう。一方、これを逆に「北側」から眺めるとどうなるか。安倍政権のもとで日本が軍事大国化することは、中断している6か国協議参加国内で、むしろ日本を孤立化させる可能性を秘めている。チャン・ソンテクは中国との関係の中で何かが問題化したと思われるが、中国はそれでも北朝鮮を完全には切れない。日本との関係悪化を考えると、北朝鮮の近未来の崩壊は中国には受け入れられない。だからこそ、キム・ジョンウンは安心して粛清に乗り出したと言える。

 つまり、安倍政権とキム・ジョンウン政権はお互いに「利益を共有する関係」にある。「同盟」とまで言ったら言い過ぎだが、「共依存」状態にある。安倍政権は北朝鮮の核・ミサイル問題がある限り、集団的自衛権容認、国防軍創設と言った念願の政策を進めやすくなる。一方、北朝鮮側も国内引き締めと対中関係維持のため「日本の軍事大国化」を利用できる。こうした関係があるわけである。安倍晋三氏はかつて小泉政権下で、「北朝鮮に厳しい」ことで名を挙げ次期首相候補となっていった。この過程を安倍氏はよく覚えていて、今回も「北朝鮮の軍事挑発」を自己の目的のために利用したい。「近隣諸国との摩擦政策」はそのような政治目的のために取られているのだろう。

 僕が今回の靖国参拝を「賢くない」と思った理由がもう一つある。それはかねてから、「第一次政権で参拝できなかったことは痛恨の極み」と発言してきたことである。これはただ読むと「第二次政権ではすぐに参拝する」とも読めるが、時点を指定していない以上「第二次内閣のいつか参拝できるとよい」という読み方ができる。退陣するその日でもよいはずである。従って「長期政権を目指すには、参拝を先送りする方が良い」ということになるはずである。なぜならば、「まだ参拝していない以上、安倍首相は長期の政権担当をねらっているぞ」と周囲に示せるからである。対外関係ばかりではなく、自民内で後継総裁を目指す政治家に対しても「参拝あいまい化戦略」の方が有効のはずである。

 それなのに、参拝に踏み切った。それはどんな目論見があるのか。僕は「憲法改正」を政治過程に載せる意向があるのではないかと思っている。安倍首相は政権担当後には、経済、復興を優先させるということで、現実的に大変な憲法改正を先送りしたのではないかと思っていた。しかし、次の衆参選挙では自民も議席を減らしかねない。その可能性の方が大きいと、特定秘密保護法審議で思ったのではないか。参院選までは頭を低くして政権運営をしてきた。しかし、衆参で大きな議席を得ることに成功した。中曽根、小泉を抜く長期政権も視野に入ってきた。次期選挙で自民と争うかと思われた「維新」も急激に失速した。では「維新」が衆院で大量の議席を持っている間の方が、憲法改正がやりやすいかもしれない。そう考えてきたのではないか。衆院では、自民293、維新53、みんな8(「結い」に参加した議員を除き)で、公明を除いても3分の2(320)を有している。参議院は比例区の比率が高く厳しいのだが、次の参院選(2016年)で憲法改正を争点化するために、衆議院では「維新」「みんな」の「抱き込み工作」が進んで行くと思われる。「靖国参拝」を問題化しなかったのは、自民、維新、みんなの3党である。そういう意味が今回の靖国参拝には潜んでいるのではないか。

 
 なお、追記すると、今回の事態を受け、安倍政権における「北方領土問題の解決」がなくなったものと考えている。シリア情勢進展によるプーチン大統領の評価アップ、ソチ五輪などの間に、北方領土解決の道筋をつけることを僕はかつてこのブログで書いたのだが、それはもう不可能。ロシアもテロが相次ぎ、それで手いっぱいだろう。中国、アメリカとの対テロ協力のためにも「戦勝国連合」意識を強めると思われる。日本との関係改善を今すぐ進める意義が薄らいだと判断している。
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