一昨日の雨で、やや一服した暑さ。でも、気象庁の発表によると、今年の残暑は厳しくなりそうです。というのも、南米ペルー沖の海で、またしても「ラニーニャ現象」が発生しているからだそうな。
南米の海と言えば、フンボルト海流だろう。南極で冷やされた海の水が、南米大陸の西海岸に沿って、赤道方面へと力強く北上する寒流だ。南極の氷で仕込まれただけあって、フンボルト海流の水は、とても冷たい。
かつて、「南太平洋のイースター島にある謎の巨像・モアイを作ったのは、南米ペルーからイカダで海を渡ったインディオの子孫なのだ」という説を唱えたのは、かの高名なる人類学者・ハイエルダール。「そんなこと言ったって、イカダで太平洋を渡れるはずがないじゃないの」と皆から言われて怒ったハイエルダールが、本当にイカダの「コンチキ号」に乗り、釣った魚を食べ、雨の水を飲みながら、何ヶ月もかけて大海を渡ってみせたエピソードは有名だ。でも、現実には、イカダで南米の西海岸を漕ぎ出そうものなら、たちまちフンボルト海流につかまり、赤道方面に押し流されてしまう。ハイエルダールも、実は沖まで軍艦に引っ張ってもらって、フンボルト海流を越えてからイカダ航海を始めたのだ。そのくらいパワフルな海流が、この海域を流れている。
そんな南極仕込みの冷たい水が勢いよく流れているのだから、沿岸への影響が大きいのも、うなずけるというもの。赤道に近いガラパゴス諸島でさえ、熱帯のほかの国々と比べたら、「涼しくてしのぎやすい」という。おかげで、南洋の孤島の住人たち、リクガメやイグアナたちもホッと一息だ。ここは珍しい動物が多いので、ダーウィンが進化論のネタを調査したことでも有名。でも、いいことばかりではない。問題は、水が冷たくて、蒸発しないこと。やっぱり、海から水が蒸発してくれないことには、雲ができなくて、陸地に雨も降らないのである。実際、沿岸にあるチリのアタカマ砂漠では、「何十年もの間、一滴も雨が降ったことがない地域もある」と言われるほどの乾燥地帯が広がっている。
話が脱線してしまったが、要するに、海水の温度は、それほど気候に対する影響が大きいということ。地球で一番広い太平洋の、赤道付近の海が、常に世界の気象関係者の注目のマトになっているのは、そのためだ。もちろん、日本の気象庁も注目している。このあたりの海水の温度を、いつも測って発表している。
南米ペルー沖のような赤道直下の海では、強烈な太陽の光がさんさんと降り注いでいる。陽射しで暖められた空気は、軽くなって上空へと向かう。これが、空気の循環の始まりだ。ここで起きた上昇気流は、そのまま上空に留まっているわけにもいかず、他のどこか(赤道エリアほどには陽射しが強くないところ)に流れて下降気流となり、また落ちてくる。ヤカンを熱したときの、中の水と同じように、空気はグルっと対流して、元に戻ろうとする。
でも、残念ながら、空気がまっすぐ戻ろうとしても、元の場所には戻れない。それは、地球が自転しているから。空気が上がったり下がったり、モタモタしている間に、地球は自転してドンドン先に進んでしまう。置いてきぼり(?)を食った空気は、ズルズルと横に流されていく。このため、赤道付近では、風がいつも東から西に向かって吹いている。これが「貿易風」と呼ばれる、地球規模の気流。大昔のアラビア人が、はるばるインドや中国まで船で貿易できたのも、この貿易風に乗って帆をふくらませてきたおかげだという。ありがたや・・・合掌。
でも、赤道エリアといっても広い。海洋もあれば、陸地もあり、条件は一定でない。問題がよく起きるのは、南米ペルー沖の海 (太平洋の東側)。なんと、このあたりの海は、なぜか、いつもより水が温かいときもあれば、水が冷たいときもあるというのだ。原因は定かでないのだが、ペルー沖の海水の温度が高いときは「エルニーニョ現象」、逆に、温度が低いときは「ラニーニャ現象」と呼ばれる。ここで狂った空気の流れが、貿易風に乗って地球を巡り、毎年のように世界中の気候に大きな影響を及ぼしているから厄介だ。
↑エルニーニョ現象のときの太平洋 (赤いところは、いつもより水温が高い)
それにしても、エルニーニョ現象が起きると、どういうことになるのでしょうか。
太平洋の東側で、温かい海水に暖められた空気が、赤道の太陽でますます暖まり、上昇気流になってドンドン出ていってしまう。その分、このあたりの空気が薄くなる(低気圧)。このため、太平洋の西側から、東に向かって空気が流れ込もうとする圧力が生じる。それが、地球の自転のおかげで東から西に向かって吹いている貿易風とぶつかって打ち消し合うことになり、結果として貿易風が弱まってしまう。ラニーニャ現象の場合は、それとは逆のことが起きる。
ややこしい話は専門家にオマカセするとして、要点だけをまとめると、エルニーニョ現象が起きれば、貿易風が弱くなり、ひいては地球規模で空気の流れが弱くなる。ラニーニャ現象が起きれば、貿易風が強くなり、ひいては地球規模で空気の流れが強くなる。もっとも、空気だけでなく、海水の対流にも複雑な影響を及ぼすので、さまざまな地域でいろいろな現象が表れる。これについては、専門家でも一概には言えないようだ。
↑ラニーニャ現象のときの太平洋 (青いところは、いつもより水温が低い)
どうやら、この夏は「ラニーニャ現象」が起きているようだと、気象庁は発表した。つまり、今は、ペルー沖の海水がいつもより冷たい。これが巡り巡って日本の残暑を厳しくするというのだから、「風が吹いて桶屋が儲かる」みたいな話だ。結果的に、熱帯から気団がせり出してきて、遠く離れた日本にまで熱い空気がドンドン流れてくるという寸法。
ちなみに、気象庁によれば、「ラニーニャ現象が発生すると、冬は寒くなる傾向がある」という。おそらく、大気の流れが良くなった分、冬はシベリアから冷たい空気が流れてくるからだろう。
異常気象の影響もあって、野菜の価格がますます上がっている昨今。猛暑と干ばつに悩むロシアはさらに小麦の生産予想を下方修正し、「穀物価格の上昇が、デフレを止めるんじゃないか」なんて声まで出始めた。
世界各国で非常事態宣言が乱れ飛んでいることを思えば、まだマシな方とは言うものの、世界的な異常気象の影響は日本にもビリビリ来ている。どうやら、これから先もますます大変なようですな・・・。
(図表は気象庁の資料より)
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