波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

波紋   第91回

2009-05-11 09:06:38 | Weblog
ある日、小林は中山を訪ねた。中山は今は息子さんと自営業を営み、独立独歩で暮らしている。少しこわもてでもあるが、それが自分の意志を貫く良さにつながって成功している。「やあ、暫く、元気で頑張ってるようで何よりだね。景気はどうかね。」「悪いよ。」独特の歯に衣を着せぬ言いっぷりはいつもと変わらない。
「何といっても荷動きが悪いから、商売にならんよ。」彼の仕事は道路関係とか、
公共施設関係が多いと聞いていた。「やっぱり、君の業種も同じか」「全体に
金の回りが悪いから、影響を受けることになるね。」
「それはしょうがないと思うけど、何時まで続くんだろうね。」「そりゃあ、俺にもわからないよ。何時か、よくなるんだろうから、それまで待つしかないね。」
あっけらかんとしたその物言いに小林も取り付くしまも無かった。
「ところで、松山の奥さん、その後どうしてる。」小林は何気なく本題に触れた。
「暫く、会ってもいないし、連絡も無いから変わりは無いと思うよ。」
「そうか、いや、前に君から奥さんのことで相談があって、自分なりに少し動いてみたんだ。」「そうだったね。で何か分った。」
「いや、特別なことはなかったんだけど、何人かの人に話が聞けたし、周辺の様子も分ったんで、報告方々来たんだよ。」「いやあ、それはありがとう。」
小林は今までの話を簡単に話した。中山は黙って聞いていたが、「結局は人の善意を信用するしかないんだね。それにしても彼は不幸だったよ」と深くため息をついた。「これで終わりにしよう。」小林はそう言うと立ち上がった。
ここ暫く、松山のことでずっと、気が晴れなかったがこれで一段落を付けた思いでもあった。人は様々な生き様をして死んでいく。自分もまたその一人である。
どんな様子で死ぬことが良いという定義は無い。人それぞれに備わったものであることを知った。そして、その人に関わる人が又それぞれの思いでそれを迎え、味わうのである。そして何時の日か思い出となって、残るのである。
自分の心の旅が一段落したような気持ちでもあった。これからは自分の残された
日々を大切に生きることが自分に課せられた務めであることも実感として感じるようになった。
そのために、大事なことは何か。それは自分に無かったものを見つけ、自分のものにしていくことだ。そのためにできるだけいろんなものを読むことも大切だ。
心を落ち着けて、其処にあるものを見つけて、自分の中で咀嚼していこう。
そうすることで自分自身を豊かなものにしよう。小林は勇気がわいてきた。