波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

           オヨナさんと私    第52回

2009-12-25 09:58:24 | Weblog
翌日は箱根登山電車にて強羅まで上る。ここには「彫刻の森美術館」や友人の関係している箱根寮がある。美術館は40年ぐらい前に開館され、年々充実さを増している。以前にも来たことがあったのだが年々新しいものが加えられ広大な敷地の中を四季折々に木々や草花を楽しみながらオブジェや彫刻、絵画を楽しめるところは他にはないような気がする。オヨナさんはスケッチの意欲に掻き立てられながらひとりで時間の経つのを忘れていた。絵画館、ピカソ館は特設になっていてその他は様々なジャンルに分かれていて心を和ませてくれる。館内を全部歩くと大分歩くことになるのだが、それをあまり感じさせないほどに工夫されているのが分る。
中でもロッソコレクションに見る数々の人物像の一つ一つは身近に感じるものでその人物から伝わってくるものを感じさせます。
充分楽しんだ後、其処から程遠くない友人の寮へ案内されたのです。その昔山県有朋の屋敷跡を使用していると聞かされていたが、当に古びた造作であったが、しっかりとメンテナンスが出来ており、何といってもその屋敷の中庭の構成は手の込んだもので印象的だった。何組かのお客が逗留していて食事は食堂での合同で和やかなものだった。
食後談話室に夫々が思い思いに集まり、テレビを見たりしながら過ごしている。
オヨナさんもその雰囲気に誘われて隅の椅子に腰掛けた。温泉のぬくもりが身体を包み、何もなくても充分な満足感を覚え静かに瞑想状態になっていた。少し睡魔にも襲われていた。どうやら昼間の見物の疲れが出ているらしい。
窓際に坐っていた一人の男性が不図立ち上がり、「お茶をどうぞ」と持ってきた。
そばにお茶菓子も付いている。「ありがとうございます」と言葉を交わしながらそのまま二人は黙ってお茶を飲んだ。「ここは静かですね。」何時の間にか二人を残して他の客は部屋へ帰り、誰も居なくなっていた。
オヨナさんもそろそろ部屋へ帰ろうかと思いながら所在無げにしていると、「少しお話をしても宜しいでしょうか。」と言われてしまった。何か話しやすい様子に心がほぐれたらしい。いやそれよりも自分の中にある思いを誰かに聞いてもらいたい事が我慢できなくなったのかもしれない。自分ではどうすることもできない気持ちを分ってもらいたかったのかもしれなかった。

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