波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

波紋     第37回

2008-11-03 11:57:11 | Weblog
井坂所長は大阪担当が長い。(東京営業所が出来る前)出身は岡山だがすっかり大阪人になっている。松山も大阪勤務があったが、なじむほどではなかった。言葉の使い方、(関西弁)は独特なものがあり、なかなかなじめないが井坂のしゃべりは板に付いた関西弁である。台湾のお客は東京担当なので、世話をしろということらしい。「何や、しょうも無い希望があるみたいで、あっちでも噂になっている関西ストリップを見たいらしんや」確かにその頃、日本でも規制が緩和されていて、かなりきわどい舞台ショーがあちこちで盛んであった。中でも発祥とされる大阪のものがとりわけ人気になっていたらしい。
ホテルへ迎えに行き、三人での会食となる。お酒も強く、いくら飲んでも酔っている気配は感じられない。「いつも大変お世話になっています。これからもよろしくお願いします。」松山も毎月注文を貰っているお客様とあって、丁重に挨拶をして杯を交わしていた。日本語も上手で会話に不便が無いので助かる。
「そろそろ行きまひょか。」と少し酔いの回った井坂が立ち上がった。
歩いて、そんなに遠くない場所にその劇場はあった。松山も経験が無かったわけではなかったが、一段とどぎつくけばけばしく見えた。少し興奮しているのか、お客は目をぎらぎらさせて、舞台を見つめていた。何しろ満員の盛況で座ってゆっくり鑑賞するということにはならない。時にはかかとを吊り上げて、背を伸ばしての状態である。舞台では踊り子の刺激的な姿態が見えているが、松山にはあまり興味が何故かわいてこなかった。接待をしていると言う義務観念がそうさせているのか、
この雰囲気の異常さが合わないのか、逆に少し気分が悪くなる思いがしていた。
早くここを出て終わりにしてホテルまで送って帰りたいと願っていたのである。
しばらくして、やや満足したのだろう、「出ましょう。」と言うことでそこを出てきたのだが、それで終わりではなかった。中で既に話が出来ていたと見えて
「松山君、ちょっと、タクシーを捕まえてや。」と言われて、三人はタクシーに乗った。車はそのままホテルのほうへは向かわず、暗闇の中を走り始めた。
しばらく行くと、事務所街が無くなり、住宅街でもない、そしてあまり人通りの無い場所で「この辺でいいよ。」と車を降りた。
そこは何か広い通りで道の両側には昔の建物の作りに似た、門口の間口の広い家がずらっと並んでいる。そしてその間口の所が妙に明るく照らされている。
しかし、そんなに人通りが多く、賑やかなわけではない。

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