波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

コンドルは飛んだ  第24回

2012-11-02 14:58:51 | Weblog
現場の人たちに事業所閉鎖を告げたときから雰囲気が変わってきたことを、このアパートへも連絡を受けていたが、自分がそこで陣頭で指揮を取れないことをもどかしく、悔しく思っていた。しかし体調の回復が大事だと我慢して休んでいたのだがカミラの情報で状況は一変した。責任者である自分を襲うことで言い分を通すという強硬手段に変わったのだ。この場所もすでに分かっているらしい。カミラは冷静に「今晩、ここから逃げましょう。私の両親の田舎があります。少し遠く辺鄙なところですが安全です」という。
日本へ逃げることの出来ない辰夫には今はどうすることも出来なかった。とにかくカミラ
の言うことを聞いて荷物をまとめると車でラパスの市内から脱出した。
それから数日は周囲で何が起こり何がおきているのか、まったく分からず、小さな部屋で一人過ごしていた。一週間が過ぎた頃、ラパスの町へ出かけたカミラが帰り知らせた。
それによると会社の日本人は大使館の保護の下に安全な場所へ移動することが出来たこと狙いは責任者である辰夫一人が目的で襲ったが、そこに居なかったことで諦めて、少しづつ落ち着いてきたとのことであった。
地元のボスの仲介もあって話し合いも進み条件も解決への道筋が見えてきた。
健康をとり戻し、辰夫も最終の決断をする時が迫った。そしていったん帰国して本社の方針の確認と現地の詳細な報告そして今後の事後処理について相談することである。
いつの間にか着任してから二年が過ぎていた。本当にあっという間の思いもある。
帰国への準備を始め、忘れていた家族や日本への思いが一度によみがえり気分が高揚するのを禁じえなかった。仕事をしているときは夢中で忘れていたが一旦帰るということが決まると新たな不安や心配が沸いてくる。
帰りの機中でカンパリを飲みながら少し落ち着いてくるとあれこれと頭に問題が浮かんできた。その中でこの仕事が終わった後のことがあった。
事後処理が終われば撤退ということになる。自分は帰国しまた新たな仕事が待っているのだろう。だけどこのボリビアで過ごした間にいろいろな人と交わり、知り合った人も大勢居る。その中でも忘れられないのは「カミラ」だ。一人の女性というだけではなく、病気がきっかけで、心身ともに世話になり、まして暴動の時には命を助けてもらうことにもなった。これは単に知り合った一人の女性として終わらせるわけにはいかない。