波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

波紋   第25回

2008-09-22 10:20:24 | Weblog
翌朝、小林は会社へ出るとすぐ電話を取った。顧問弁護士のところである。この先生とはまだお付き合いとしては間がなかったが、マージャンやゴルフでのお相手をする機会があり、個人的にもお話が出来るようになっていた。
特にゴルフには特別なこだわりがあり、週一回のプレーは欠かさず、そのレベルを保ちとても上手であった。その事務所所は市谷にあり、本来なら出向いて相談すべきだが、何しろ急を要することであり、気が焦って、電話でとりあえず相談することにした。
「先生、お早うございます。早くからお電話で申し訳ありません。緊急のご相談をさせていただきたくお電話させていただきました。」
「珍しいね。こんなに早くから。いつものお誘いなら午後からでも大丈夫なのに」マージャンの誘いかと思ったのか、ご機嫌は良かった。お酒を飲まず、お子さんのいない先生にとって、マージャンとゴルフは最大のストレス解消の息抜きの時間であったからである。
「実は会社の取引先で入金した手形が危ないんです。」小林は単刀直入に話した。「実は昨日の情報で不渡りになる可能性があることが分ったのです。」
小林のいつもと違う様子を電話で知って先生も急に緊張したらしく、「金額はいくらだね。」と聞いてきた。「五千万円です。」「そりゃあ、大金だな。」と言って
電話の向こうで暫く沈黙があった。
「小林さん、君のところから一番近い代書屋さんを知っているかね。そこへその手形をもって行き、根抵当の手続きを至急してもらうんだ。」
「分りました。代書屋さんなら何処でも良いのですね。」「知っている所があれば一番良いけど、なければ何処でも良い。とにかく早く処理してもらうことが肝心だよ。」「ありがとうございます。早速行ってきます。終わり次第又ご連絡します。」小林は電話を置くと、手形を確認し、印鑑をかばんに入れ、事務所を飛び出した。近くの法務局を探し、その近辺にある代書屋を探し、その一軒に入った。
その手続きは難しいものではなく、簡単に処理を終わる事が出来た。
無事手続きを終えた小林はほっとして、弁護士の先生に電話をかけた。
「先生、今手続きを無事終わる事が出来ました。」「そりゃあ、ご苦労さん。とりあえず、それでその手形は何処からも手が出ないように権利が確保できたのだ。
しかし、お客さんの事情がわかっていないのだから、至急出向いてどんな状況なのか調べて、聞かせて欲しいね。」言われるまでもなかった。小林はその足で、その会社のある下谷へ向かった。