経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

真実の原敬・リアリストを理解するとは

2020年09月27日 | 経済
 「バカだから解釈」はやめなさいと、若手には説いている。それは、政治や政策を見たときに、「何でこんな訳の分からないことをするんだ、それは為政者がバカだからだ」という捉え方である。現実には、それなりの事情があるもので、分からなさは、実は自分の理解力が足りないだけのことが多い。切って捨てたところで、得るものはない。むしろ、謙虚に事情を探すことが、新たな知見を開くことになる。

………
 日本の憲政史上でリアリストは人気がなく、内外で評価に大きな差があるのが原敬である。政権担当能力ある民主的政党を育て上げ、軍事革命政権から平和裏に移行し、対米協調路線で軍備管理まで導いたのだから、同じことを現在の中国がしたら、習近平主席はノーベル平和賞ものだろう。日本人には当然の流れのように思えても、混乱と暴力が渦巻く世界では稀有な事例なのである。

 そんな原敬の人気の薄さには、リアリストの理解の難しさがある。成否に関係なく理念や理想を高唱する政治家は、素人でも分かりやすい。しかし、リアリストは、妥協や限界が目につき、その時の状況をよく把握していないと、評価が下がってしまう。いわば、リアリストは、リアリストにしか分からないのである。研究の第一人者の伊藤之雄先生が新書で著した『真実の原敬』は、そんなことを感じさせる一冊だった。

 原敬というと「我田引鉄」の利益誘導の政治が思われがちだが、伊藤先生は、経済合理性に配慮しないものではないとする。むしろ、原敬は、建設費を公債で賄い、鉄道収入を充てるという、経済性に見合う積極的な政策を主張し、制度化して行く。こうしたことの方が政治的側面より遥かに重要だ。当時、日本経済は、第一次大戦中に重工業が発展し、高成長の時代を迎えていた。原敬は勃興の時宜にのっとることができたのである。

 原内閣の当時は、財政支出が拡大され、大戦中に蓄えた剰余金も使って、高等教育やインフラが整備された。軍縮による平和の配当は、後に都市整備の基ともなる。時代の趨勢に合わせ、積極的な経済政策を貫くのは、当たり前のように見えて、決して普通ではない。普通は堅実に構えて、緊縮に陥りがちなのである。そして、積極政策の系譜は、昭和恐慌を収束させた高橋財政、高度成長の基礎となる石橋・池田の積極財政と、断続の道を歩む。

………
 スガノミクスがどうなるかは分からないが、歳出拡大を高齢化に伴う自然増に止め、その他は前年度並みとし、景気対策は補正で対応といった「常識」に従っていると、対策が薄れる頃には自動的に緊縮となり、成長にブレーキをかけることになる。経済と財政の緊緩について、非常識なまでの透徹したリアリストでなければ、潜在力をフルに発揮させ、離陸を果たすまでの舵取りはできない。

 「リアリスト」と称される今の首相にしても、高橋や池田並みの財源への眼力があろうはずもない。積極財政には何に使うかのビジョンも不可欠だ。結局、アベノミクスが継承され、金融緩和、緊縮財政、産業政策の組み合わせが繰り返されよう。「リアリスト」なのは、ミクロの範囲に過ぎない。なぜ、緊縮に陥ってしまうのかについては、無知で片付かない、為政者が嵌り込むだけの事情が在るのである。


(今日までの日経)
 国内消費 マグマ動くか 家計現預金、3カ月で30兆円増。造船・鉄鋼、「脱国内」シフト。欧州景気に「二番底」不安 コロナ拡大、陰る楽観論。


(図)


※東京の感染確認数は小康が続く。9/16の営業制限の解除後も、まだ動きは見られない。


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1 コメント

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Unknown (おほほ)
2020-10-06 08:33:48
自民党の若手反緊縮派で知られる安藤裕議員によると、菅総理は積極財政派寄りの人らしいですよ。骨太の方針でも財務省が計画した歳出キャップ設置に反対していたとか。まあ本人の思想が政策に反映されるかは不明ですが。
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