経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

2015年度の税収は4.4兆円上ブレ

2015年11月03日 | 経済
 補正予算が議論される季節となり、11/2に9月の租税調も公表されたので、2015年度の国の税収の予想を見直した。結果は、予算から4.4兆円の上ブレだった。今後、更なる上ブレもあると見ている。2014年度の決算剰余金が1.6兆円あるから、国債の追加発行なしで5兆円規模の補正予算を組むのは十分可能である。おそらく、11/16公表の7-9月期GDPの不振を受け、そうした方針がアナウンスされるだろう。

………
 本コラムの税収予想は、誰でも理解できるように、極めてシンプルにしてある。前年度税収の決算額を、政府経済見通しの名目成長率で伸ばし、主な税制改正を加減しただけである。2014年度の一般会計の税収は54.0兆円であったから、これを2.7%増にし、昨年の消費増税の平年度化分1.7兆円等の税制要因を加減すると、57.0兆円になる。これだけで、2015年度予算の税収額から2.5兆円もの上ブレになる。

 この堅い見積もりでも、これだけあるから、10/30の日経夕刊が報じた「税収の上ブレは1兆円超」というのは、何を言っているんだというレベルである。憶測だが、この「3兆円規模の補正を打つ」というニュースは、同日に日銀が金融政策決定会合で追加緩和を見送ることを見越したものだったのだろう。おかげで、株や円に大きな悪影響が出なかったわけだから、それなりの意味はあったと言えよう。

 来年夏に参院選があることを踏まえれば、補正予算が前年度並みの3兆円規模で済むはずがない。まして、堅い見積もりの税収であっても、4兆円規模に積み増すのは容易だ。ニュースも、そうした含みを残していた。だが、税収の上ブレは、そんなものにとどまらない。経済はゼロ成長に低迷しても、企業収益は膨らみ、配当に係る所得税も伸びると見込まれるからである。

(表)



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 4~9月の租税調によると、所得税は、前年度の累計額を14%も上回るハイペースである。そのため、9月までの実績値を使うと、10月以降は名目成長並みに「失速」すると保守的に仮定しても、先の堅い見積もりから、更に0.8兆円増大し、所得税は18.0兆円に達して、2015年度予算からの上ブレは1.6兆円に及ぶと予想される。むろん、実際には、これを大きく超える可能性が高い。

 一方、法人税は、租税調では前年度実績を下回る状況だが、11月と3月にまとまって納税されるので、この数字からは、まだ何とも言えない。そこで、証券各社の企業業績見通しの経常利益を確認すると、9月に上方修正され、二桁の伸びとなっている。単純に、法人税も企業業績とパラレルに伸びると仮定するなら、名目成長分を超過する法人税の増収額は、1.1兆円になるだろう。

 以上の二つを勘案すると、2015年度税収の予想は58.9兆円、予算からの上ブレは4.4兆円という結果になる。加えて、消費税の税収も極めて好調である。一般の方には煩雑になるので説明は省くが、9月までの実績で、既に0.9兆円程度の上ブレを確保できていると見られ、先の堅い見積もりの1兆円の上ブレには十分に届く勢いにある。今日の日経でも、野村證券の西川昌宏さんが1兆円上ブレの予想を披露しているところだ。

………
 2015年度税収の大幅な上ブレによって、詳しくは別稿に譲るが、2020年度に基礎的財政収支の赤字をゼロにする目標には、自然体で到達できる見通しが立った。この夏に飛び出した、9.4兆円の歳出削減が必要とする財政当局の主張は、一体、何だったのか。それは2014年度決算の税収が出た段階で6.2兆円に減り、たぶん、2015年度決算が明らかになる頃には、ゼロとなろう。もし、予定どおり10%の消費増税を今秋にしていたら、経済が瓦解し、この成果も水の泡になっていたと思われる。

 その意味で、税収もろくに見積もれない財政当局に代わり、安倍政権は、財政再建という偉大な成果を、解散総選挙という非常手段を使って、実現したことになる。ただし、企業収益と税収は躍進させても、その引き換えに、経済成長は失速し、国民生活を低下させたのだから、選挙で誇るわけにもいかない。財政再建は大成功を収めたが、アベノミクスは大失敗である。

 今度の補正予算は、これをリカバーするチャンスとなる。今の官邸なら、きちんと税収を見抜き、5兆円規模にするのは可能だろう。問題は、その中身だ。財政当局が振り回す屁理屈に惑わされ、そのとき限りのバラマキを膨らますようでは、選挙での勝利はおぼつかない。「新3本の矢」のど真ん中にある非正規労働の不合理を解消するため、全員に社会保険を適用するのに不可欠な「保険料軽減」にお金を使ってほしいものだ。

 日本の財政当局には中期的な財政計画を立てる能力がないので、繰り返し書くが、2015年度に5兆円の補正を打てば、需要を急減させないために、2016年度も2.5兆円の補正は必要になる。2017年度には、消費税を1%上げるデフレ効果を相殺するのに、2.5兆円の補正は続けざるを得ず、2018年度も、増税の悪影響が続いて、やめるわけにいかない。2019年度には、また1%の消費増税が巡って、2.5兆円の補正は欠かせず、2020年度も同様になる。つまり、2.5兆円は恒久的財源であり、毎度、そのとき限りのバラマキに費やすのは、あまりに惜しい。

 一億総活躍なのに、全員に社会保険が適用されないなど在り得まい。適用の障害になっている重い保険料が軽減されれば、若者や女性の低所得層が救われるだけでなく、多くの中小企業も助かる。非正規と正社員の垣根が取り払われて労働条件が均等化し、夫婦二人で1.5人分稼ぐことで子供を持てるようになり、育児や介護の都合に合わせた労働時間の調整も容易になる。オランダのワッセナー合意にも匹敵する大きな社会変革になる。無能な財政当局を退けるだけで、それは簡単に実現する。


(今日の日経)
 慰安婦の財政支援拡大へ。日産が10年ぶりの最高益。軽減税率・消費税収上振れで綱引き。大機・10.6兆円の原油代金減・富民。

 ※さすが富民さんは景気の経験則にお詳しい。

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2 コメント

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Unknown ()
2015-11-03 14:44:44
世間的には安倍政権はバラマキ内閣みたいに誤認識されてるのが気になりますね。実際は溜め込んだ税収を殆ど国民に還元してないドケチ内閣なんですが。

「景気回復、この道しかない」と言っておきながら、民間で勝手に何とかしてくれという鬼っぷり。
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Unknown (Unknown)
2015-11-05 00:02:11
事実上日銀が国債の直接引き受けしてる状態で
物価2パーセント達成して黒田が緩和やめるわっていったら、その瞬間に予算組めなくなる
しかもコアCPIは円安にものすごく連動する、日本がいまも札刷りまくってるときにアメリカが12月に利上げしたら
ネトウヨの大切な日本がオワッテしまうw
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