経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

消費増税対策が2兆円ではデフレを防げない

2018年11月25日 | 経済
 アベノミクスでは、2014~16年度にかけて、3兆円超の補正予算を組んできた。直前の2017年度は1.7兆円と小ぶりで、その咎めが足下の景気の弱さに来ている。そうして見れば、今度の消費増税対策を2兆円超にすると言っても、災害対策の既存の補正+0.9兆円と合わせて、例年並みになるに過ぎないということだ。これでは、強力な景気冷却力を持つ消費増税に対抗できないだろう。しかも、2019年度は、公的年金でも1兆円規模のデフレ圧力を与える予定である。この有様では、2019年度の成長率は、外需が今年並みならゼロ%台前半、不調だとマイナスへの転落もあると思われる。

………
 10%消費増税については、1%分が幼児教育の無償化などで還元され、1.1兆円が食品等への軽減税率で免除されるので、純増税は1.7兆円程度とされる。したがって、2兆円超の対策があれば、十分に相殺されると考えがちだが、それは少し甘い。まず、無償化による負担減1.6兆円の1/4程度が勤労者世帯並みに貯蓄に回ったりすると、+0.4兆円程のデフレ圧力になり、すぐに対策は飽和してしまう。また、軽減税率についても、別途、財源探しが行われる予定であり、その分もデフレ圧力となる。

 そして、最も問題なのは、例年並みの補正予算と、増税対策の二つをしなければならないのに、一つになっていると思われることだ。例えば、補正を3兆円組み、更に2兆円超の増税対策を上乗せして、計5兆円にしないと、完全にはデフレ圧力を防げない。特に、2018年度は、税収の自然増が2.4兆円、2019年度も2.1兆円が見込まれ、かなりのデフレ圧力があるため、これらへの対抗も必要になる。むろん、税収の自然増によるデフレ圧力は、国の7掛けの規模の地方税にもある。 

 加えて、2019年度は、折悪しく、公的年金の緊縮も予定されている。年金の支給開始年齢が62歳から63歳に引き上げられることで、大体0.5兆円の緊縮になるだろう。また、2018年の物価上昇に伴い、マクロ経済スライドが発動され、1%程度の実質的な引き下げも予想され、これも0.5兆円程度のデフレ圧力になる。その後も、消費増税の実施によって物価が上昇することから、マクロ経済スライドの発動による引き下げは、2020年度も続き、苦しみは尾を引くはずだ。

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 2018年の実質成長率は、10-12月期が年率3%近いV字回復だったとしても、1%を割ると考えられる。今年は、輸出の押上げがほとんどなかったためで、国内的な実力は、この程度にとどまる。そうした中で、GDPの1%規模に及ぶ消費増税を打ちたがる熱情は、常軌を逸している。通常の冷静な判断力があれば、IMFが言うように増税幅を刻み、全部を社会保障の拡大に充ててデフレ圧力を消し、自然増収で緩やかに財政収支の改善を図るという、ごく平凡な戦略が取られたであろう。

 消費増税が消費を落ち込ませ、伸びを抑圧する多大な悪影響をもたらすことは、2014年の増税で証明済だ。その上、駆け込みと反動減は、消費だけでなく、非製造業の設備投資にまで及んでいる。雇用も悪影響の例外ではなく、フルタイムの新規求人増加数は、増税後、急速に低下してマイナスまで行き、その回復には時間を要した。人手不足の解消策としては、「移民」より遥かに強力だ。また、増税対策は、あくまで一時的であり、その剥落の過程で景気の足を引っ張り、低迷を長引かせる。前回は、公共投資の減衰が後で邪魔をした。

 日本は、消費増税ありきで、しかも、一気に上げようとするから、無理を重ねたような経済運営になる。需要管理の視野が極めて狭く、補正を含む予算規模も、自然増収も、地方財政も、公的年金も、すべて埒外に置くので、的外れで自己欺瞞的な対応になる。それゆえ、需要管理の失敗によって、政策どおりデフレになっただけなのに、理由が分からず、人口減を持ち出して運命論を唱えて諦観に陥ったり、ミクロの構造改革に凝って、痛みばかりの虚しさに自己憐憫する始末だ。

(図)



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 それでは、ここに来て、いきなり消費増税を止めたらどうなるか。国債増発を連想する人が多いけれども、まったく違う。なぜなら、2兆円超の増税対策は、取りやめなかったとしても、しょせん、例年並みの補正予算の程度でしかなく、2018年度の税収の上ブレ分で賄えるからだ。さらに、幼児教育の無償化などの財源は、2018、19年度の自然増収で、おつりが来るほどで、消費増税で得るつもりの純増税と同程度の1.7兆円を財政再建に回せる。消費増税のショックで景気を失速させたりしなければ、こういう展開になる。

 日本の本当の課題は、全体を眺めて需要を安定的に管理することである。税制での最優先課題は、将来の金利上昇に備えた利子配当課税の強化であり、消費増税をするなら、「負の所得税」を設定し、社会保険料の定額軽減を図るべきだ。これで、低所得層の厚生年金の加入率も高められる。少子化対策の焦点は、非正規にも育児休業給付を出すことであり、年金の育児時の前倒し給付を実現すれば、財源なしでもできる(2017/10/22参照)。この国は、消費増税に狂奔し、それ以外の選択肢は何も見えなくなっているようだ。


(今日までの日経)
 年金伸び抑制なお課題・来年度、2度目のマクロ経済スライド。東南ア、成長に減速感。消費増税対策2兆円超。ゆるみとゆがみ 33年ぶりドル高の波紋。

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1 コメント

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Unknown (a)
2018-11-26 01:22:39
やはり厳しいですか・・・。2兆円規模と言われる携帯料金の強制値下げは援軍になりませんか。いずれにせよ海外経済が悪化したら耐え切れそうもありませんね。

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