経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

経済ビジョンの既視感

2011年11月29日 | 経済
 医療・環境・農業に重点の経済ビジョンというと既視感があるなあ。経産省も似たような戦略を繰り返すだけになったのだろうか。そもそも、目指す成長率が1.5%というのは、低く過ぎはしないか。こんなに低くては、消費増税は無理なので、財務省から「もっと産業政策を」と求められるかもしれんよ。

 日本の成長率は、2003年から2007年までの平均は2%以上あるし、昨年だって2.4%だった。ショックがなければ、この程度にはなる。これで労働力が逼迫することもなかったのだから、目標くらい高めにしてはどうか。2%成長を実現するにはどうするかという逆算的な産業政策が必要に思う。

 福祉分野で有力なのは、乳幼児保育がある。極端な少子化という、社会として異常な状態にあるのだから、どこかに酷い歪みがあるはずで、それを解放すれば、経済は効率化し、成長するだろうと考えなくてはならない。社会問題の解決にこそ、成長のタネはある。企業を優遇すれば、成長するなどと安易に考えてはいけない。

 具体策は、基本内容の「雪白の翼」に書いたとおりだが、要すれば、若い世代は、お金さえあれば、子供を産み、乳幼児保育を利用するはずなのに、老後のための重い年金保険料を課し、それを妨げているという矛盾があるわけだ。これを解けば、需要が生まれ、雇用と成長が得られ、その上、少子化が緩和されて、年金財政まで助かることになる。

 他方、高齢者介護は、曲がり角に来ているようだ。11/24のダイヤモンドO.L.で野口悠紀雄先生が指摘するには、介護保険導入以降、急速に増加した有料老人ホームは、供給過剰感が出始めているというのだ。これに対して、特別養護老人ホームは、未だ2~3年待ちの状況だから、価格にミスマッチが生じているのであろう。

 つまり、需給関係からすれば、有料ホームは高すぎ、特養ホームは安すぎる状況にある。産業政策としては、有料ホームにはコストダウンの方策、特養ホームは利用料は高く設定する代わり、参入規制を緩める方策が必要かもしれない。前者のコストダウンについては、高齢者専用賃貸住宅がそれに近い存在だろう。

 介護コストは、労働力のカタマリだから、介護先から介護先への移動時間を減らし、介護そのものの時間を増やすことがコストダウンのカギになる。使われなくなった社員寮を転用して高齢者を集め、給食は宅配を利用するといった方法でコストダウンを図る試みは、既に始まっている。

 環境分野では、太陽光パネルは、最新ではグリッド・パリティまで来ているのだから、すべての家庭が備えられるよう、公的融資を活用したリース制度などを設けるべきであろう。ところが、電力会社の抵抗で、未だにマンションに付けるのは難しいままである。経産省も、他省庁の分野には口は出すが、自分のところはサッパリというのでは情けない。

 今日の日経は、東電のリストラ加速として、KDDI株の売却とを報じているが、リストラの本命は、新鋭火力発電所を東京ガスや商社などに売却することだろう。東京都すら、発電所の建設を考えているのに、経産省の産業政策は完全に立ち遅れている。火力で働く東電の社員にとっても、原発賠償につき合わされて給料を抑えられるより幸せではなかろうか。

 OECDは、2012年の経済見通しを発表したが、標準シナリオ、悲観シナリオとも、日米欧では、日本が最も成長するというものだ。その要因として、復興支出が成長を牽引するとしている。実は、補正後の歳出レベルを比較すれば、2010年度、2011年度、2012年度は、だいたい同じくらいである。結局、財政当局が変な緊縮財政さえしなければ、2%成長にはなるということだ。

 低い目標の経済ビジョンとタブーのある産業政策、そして、低い成長とは関係なく緊縮をしようとする財政当局。日本経済にとって何が問題なのかが見えてくるような今日の紙面であった。こういう水平思考の見方をする人は、少ないのだろうがね。 

(今日の日経)
 伊・仏の国債入札堅調。東電がリストラ加速、KDDI株売却。医療・環境・農業に重点、経産省提言。社説・ODA予算、地位協定の運用改善。OECDが12年の悲観シナリオ。車の国内生産9月比2.7%増。雇用保険料下げへ、3000億円の負担減。中国景気・輸出と建設投資が低迷。経済教室・試算運用の拠点化・藤田康範。

※ODAもピークは1997年か。やはり、この年が日本がダメになった転換点なんだね。※運用改善を高く評価するとは玄人好み。環境調査の運用改善を指摘しているのも良い着眼。

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