経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

反ウォール街デモに思う

2011年10月16日 | 経済
 各国でデモに参加している人たちは、自分たちが何に反対しているのか、分かっていないように思う。直接的には、仕事をくれということであり、仕事をもたらさない何者かに対して抗議の声を上げている。でも、それは何者なのだろう。

 どうすれば経済学では、設備投資は、リスクに強く左右されるため、需要に従うと考えている。これは、バブルの原因にもなっている。投資による需要が更なる投資を呼んで、バブルが発生するのだ。こうした行動は、長期的には不合理だが、短期的には儲かる。人生は短いので、勝ち逃げの誘惑から逃れることはできない。

 米国の苦境は、バブルの反動であり、それに至るまで、金融機関は大いに儲けることができた。本当は、バブルが弾けた時点で、その不合理な行動の清算をさせられるはずだったのだが、公的資金の注入、極端な金融緩和などで助けられてしまう。むろん、バブルの時期には、一般の労働者も潤いはしたが、バブル後の失業者は奈落の底である。こういう構図に不公平を感じるのは自然だろう。

 ここから脱するには、どうすれば良いのか。財政でもって辛抱強く需要を確保し、少しずつ設備投資を呼び覚まし、バブルの傷を癒していくしかない。その際、財政リスクを高めないよう、景気回復後に増税や緊縮をするプログラムを用意する配慮もいる。これを3~4年は続けなければならない。忍耐がいるのだが、回復を待ち切れないというのが、米国の政治情勢ということだろう。

 労働者にとって、長期の失業は、文字通り死活問題である。教育ローンを抱えて、就職できなければ、破産が待っている。なぜ、自分には、公的資金が注入されないのかと思うのは当然だろう。他方、富裕層にとっては、財政赤字の拡大は、増税か、インフレに結びつくから、資産を守ろうとして、小さな政府を求めることになる。本当は、バブルで生まれた、設備投資にも消費にも使われないマネーを、いかに回収するかが経済的課題ではあるのだが。

 デモをする若者たちの立場なら、インフレ覚悟で、財政赤字を拡大せよという主張になる。労働力しか持たない若者にとって、インフレは恐れに足らない。今の局面で、ある程度のインフレ政策が必要とするのは、筆者独自の見解ではなく、ケネス・ロゴフも、4~6%を目標とすべきといったことを主張している。

 翻って、日本の若者に、反緊縮・反増税の主張はほとんど見られない。むしろ、社会保障を圧縮して、世代間格差を減らすべきと主張したりする。まあ、昨日の報道特集の金平キャスターの弁によれば、デモ参加者50人に、報道関係者50人と公安警察100人といった具合だったようで、日本の若者は、主張すること自体をあまりしないようである。

 日本の場合、財政破綻の宣伝が余りにきつくて、若者のために財政を使おうという発想自体が湧かないのだろう。実際には、昨日の日経夕刊が報じたように、米国の財政赤字は、1.3兆ドル(2011年度)に及び、GDPの9%近い。日本の国・地方を合わせた財政赤字のGDP比(2010年度)が8%だから、日本よりも悪いわけだが、それでも財政出動がまじめに議論されている。だから、円高になるのも当然なのだがね。

 今週の日経ビジネスでは、東レの日覺社長のインタビューが出ていたが、円高に対する企業戦略が良く分かる内容だった。国内での先端品の開発と生産は死守するけれども、汎用品の生産は海外に出すというものだ。どこまで出すかは、国内需要と円高次第ということになる。日覺さんは、円高対策とともに法人減税も求めていたが、円高を防ぐには、緊縮財政を緩める代わりに、法人税は払うという態度がいる。

 今後、日米欧は、ともに財政赤字の不安とインフレ懸念との戦いになる。成長浮揚のために、財政赤字が膨らみ、少々インフレになったって構わない、長期金利が高まるなら、中央銀行が国債を市場からどんどん買い上げれば良いといった道が取れるかどうかが焦点である。本来、インフレは若者が望むべき政策だろう。仕事をもたらさない何者かとは、財政を自分の財布のように思う人たちである。

(今日の日経)
 仏やベルギー国債売り圧力、公的資金注入で。普天間詣で・埋め立てへ圧力。タイ洪水・操業再開1か月。医療費膨張は高齢化が主因か・大林尚。TPP大枠合意来月に・USTR。反ウォール街デモ・主張は様々。京セラ太陽電池・目先のシェアより質向上。中国経済の好調いつまで。ソニーのEVA経営の失敗。ナゾかがく・酸っぱいものが甘く。読書・家族を歴史の中に変遷探る、アイデンティティ経済学。

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2 コメント

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その先を是非!! (ひとみちゃん)
2011-10-16 23:50:25
 どうすれば経済成長を実現できるのか!?
我国は、バブル崩壊以降20年にわたり財政出動をして成長実現のためやってきたのではないのか!?結果、さしたる成長は実現できず負債のみが積み重なりました。
 誰しもがわかっていることです。
どうすれば目に見えた成長を実現できるのか!?具体的に提言するのが経済学徒の務めだと思います。理念や方向性だけではね。
 衆知を集めるのは政治の役目かな。
 結果がでないと後が怖い。
「その先を」について (KitaAlps)
2011-10-17 09:58:27
ひとみちゃんへ

10月17日の「財政よりも需要安定の見通し」で、
「日本のバブル崩壊後の経済対策を巡っては、財政出動や金融緩和のタイミングが遅く、規模も不足しているという批判があるが、・・・ようやく回復してきたものを、1997年のハシモトデフレで潰したり、小泉・安倍政権下で、回復の芽を摘むような早々の緊縮財政をしたりしたことによる。財政赤字の不安に負けて、早すぎる出口政策で失敗するのは、今も生きる教訓だろう。」

と書かれましたね。ちなみに、このことは、具体的には次のページの図1を参照下さい。これは内閣府のデータをそのままグラフ化しただけのものです。
http://kitaalps-turedurekeizai.blogspot.com/2011/07/blog-post.html

 このグラフで「公的需要」(=公共投資+政府消費)の経済成長への寄与をみれば、「財政出動」したと言えるのは1995年までで、それ以後は、ハシモトデフレ時にあわてて行った中小規模の対策以外は、財政出動は経済成長にほぼマイナスの寄与しかしていません。ちなみに、グラフの⑨はハシモトデフレ時の財政緊縮、⑫は小泉改革期の財政抑制(橋本改革の失敗に懲りて毎年の財政緊縮の程度を押さえた)です。

 にもかかわらず、なぜ財政出動をしてきたという印象を皆さんがもってるかというと、これまでのエントリーでも書かれてきているように、当初予算だけが大きく取り上げられ、当初予算後の補正予算を加えた予算総額の動向がマスコミには取り上げられていないことにあります。
 また、予算の全額が執行されるわけではないこと(支出するつもりのない予算が計上されることもある・・・カラ積みともいう)。予想以上の税収増加があった場合に、それを財政緊縮に活用していること(これは経済にマイナスになります)。財政当局は、予算編成を行う際に意図的に税収を低く見積もっていること。これは恒常的に行われています。また常に支出を大きく見せようとするインセンティブがあり、それが実行されていること(そのようにすると、もっと支出を増やせと言う政治家の圧力が小さくなる)。
 上のグラフは、決算データで作成されているので、実際に執行された額に基づいているわけです。

 

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