経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

入るを計りてという基本

2011年09月23日 | 経済(主なもの)
 所得増税は1年先送りにするらしい。経済状況からすれば、当然のことだ。日経は、9/17の社説で「増税から逃げられない」としていたが、どう評価するつもりかな。「先送りするな」と批判でもするかね。自身の経済観をもたず、財政当局の空気を読むだけでものを書くから、こんな体たらくになる。

 もっとも、筆者も、9/15に「復興増税は2013年度からとすべき」と書いておきながら、日本はできまいとしていたから、おみそれしたと言うべきかもしれない。まあ、合理的に経済運営を考えるならば、こうなるのだが、日本の政治が合理的な選択をしたのは驚きということだ。

 毎日によれば、タバコ増税で年間2000億円を確保すると、所得税の定率増税の幅は5.5%から4%に圧縮できるらしい。更に、2011年度に予定していた相続増税の年間2800億円を回すことにすれば、幅は2%にまで圧縮できるのではないか。そうすると、所得増税は、まったく必要がなくなってしまう。なぜって? 自然増収があるからだ。

 民間調査機関の予想では、2012年度は2%程度の経済成長が見込まれている。経済が成長すれば、所得も伸びるわけで、所得税の2%増収は堅い。所得増税を先送りして、1年後に2%上げようとしたとき、既に2%の自然増になっているのだから、「もう増税はいらないのではないの?」と考えても、ちっとも不思議ではない。

 このように、税の自然増収を考慮すると、増税の必要性は随分と薄らいでしまう。だからこそ、日本の財政当局は、税収見通しを絶対に示さないで、財政計画を立てようとするのである。「入るを計って、出るを制す」ということが言われるが、入るの部分を隠蔽するのだから酷いものである。

 代わりに出してくるのが「国債44兆円枠」である。常識的には、税収の足りない部分が借金だから、借金の大きさを抑えておけば、税収も把握したつもりになるが、それが狙い目だ。実は、国債枠は、「埋蔵金」の出し入れで容易に操作できてしまう。例えば、2011年度予算は、税収が前年度より3.5兆円も増えているのに、国債発行は44兆円のままだった。

 これは、埋蔵金を減らすことで実現した。「税収が3.5兆円も増える」なんて説明したら、国民の財政破綻への恐怖感が薄らいでしまう。埋蔵金を減らす際には、「もう底を着いた」という情報が流されたが、震災の補正予算で、次から次に出て来ているのは、御存知のとおり。そもそも、債務管理は、借金と資産取崩しを合わせて行うのが会計の常識である。日本の新聞と有識者の無知につけ込み、借金だけをプレイアッブしているのだ。 

 それでは、2012年度の自然増収は、どのくらいになるのか。本コラムでは、2010年度は2.3%成長で税収増が2.8兆円だったことから、2011年度は震災の影響で横ばい、2012年度は2%ちょっとの成長で、約2.5兆円と考えている。この数年は、リーマン・ショックからの回復期なので、成長率以上に税収は伸びるのである。

 これだけで、復興増税をする気なんて失せてしまうかもしれない。税収は、2007年度には51.0兆円もあり、2010年度の決算ベースでも、まだ41.5兆円なのだから、経済を順調に回復させるだけで、あと10兆円の増収が期待できる。国民がこれを知ったら、大いに安心するのではないか。むろん、それでは困る財政当局は、隠蔽・仮装に余念がない。

 財政当局は、41.5兆円の税収があった2010年度予算の税収見込みを、37.4兆円としていた。4.1兆円もの過少見積りである。これを、思いのほか成長率が高かったせいにできないのは、前年度である2009年度の税収は、決算ベースで、これより高い38.7兆円になっていたからである。

 こうしたことは、今年度も同様で、2011年度予算の税収見込みは40.1兆円なのだが、前年度の2010年度の決算数字である41.5兆円よりも少なくなっている。震災がなければ、今年度も大幅な見積り違いが生じていただろう。ちなみに、財務省のHPでは、いまだに、税収の推移のグラフが決算数字に差し替えられていない。2011年度が前年度より少ないという不自然さが知れてしまうためではないか。

 財政当局の人は、したり顔で、「入るを計りて…」と話し、歳出抑制の必要性を説くのだが、肝心の計り具合は、こんなものである。税収を的確に見積もるのは、財政運営のイロハなのだが、まったくできていない。これでは、経済状況に合わないデフレ財政をやってしまうのも当然であろう。日本の新聞や有識者も、自然増収くらい、わきまえてほしいものだ。

(今日の日経)
 所得増税は13年度からに1年先送り。NY株一時400ドル安。米金融緩和・リスク回避止まらず。限界示した米金融緩和策、動かぬ政治、打つ手縛る・矢沢俊樹。郵政株売却が検討項目に。ギリシャが追加財政再建策、市場になお不安。中小金融支援10兆円、リース料を補助。東北に地熱17万kW。大機・ユーロ危機・山河。経済教室・国債金融機関規制・河合美宏。

※復興増税は、宿題になっていた税制改正や政府保有株式の売却を実現する、財政当局の道具と化している。被災者のために、早く予算を用意しようという気持ちはあるのかね。

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