日本の財政当局の殺し文句は「子供達に借金を残すな」である。そんなことは誰もしたいと思わないから、非常に効果的である。そこで「増税が必要」と来るわけだが、経済にどれだけの負荷をかけられるかは、その時々の状況による。財政当局は、それを無視して、とにかく増税だと主張し、「論点のすりかえ」を行う。これがダマしのテクニックである。
本当にしなければならない議論は、借金の是非ではなく、今の経済状況で、どの程度の増税が可能かを推計し、それを基礎に財政運営を決めることである。ところが、日本の財政当局に、そういうつもりは毛頭ない。次世代への罪悪感や財政破綻の恐怖感を植え付け、財政当局が与える増税案を、そのまま呑んでくれれば良いという方針なのだ。
その証拠に、彼らは、本当の姿を示す補正後の財政規模を、説明の基礎にすることは絶対にしないし、税収の見通しを示すこともしない。前面に出してくるのは、いかようにも操作可能な「史上最悪の国債発行44兆円」である。こんな簡単なごまかしに、手もなく捻られる日本の新聞や有識者もどうかとは思うが。
今日の日経社説は、その典型である。当初予算ベースだけを見て、財政悪化に歯止めがかからないとし、国債発行を44兆円に抑えることを当然とする内容だ。現実はどうかというと、9/17に書いたように、2010年度は、「決算」ベースで、9.6兆円も収支が改善している。予算は「予定」でしかないのだから、それで評価したって仕方なかろう。
しかも、昨年度は、11月に円高対策の補正予算を4.4兆円追加して、そういう結果になったのだから、当初、財政当局は14兆円ものデフレ財政をするつもりだったことになる。これはGDP比で2.6%にもなるのだから、2010年度の成長率が2.3%だったことを踏まえれば、いかに無理なものだったかが分かる。実際、日本経済は、年度後半にマイナス成長になっているのである。
また、国債44兆円枠にしても、2010年度決算を見れば、42.3兆円で済んでいることが分かる。2011年度予算では、この44兆円枠の形を維持するため、あえて、2010年度補正後より1.3兆円も国債費を多く積み込む操作をして「作った」ものなのである。これを基準にすることがいかに無意味が分かるだろう。現下の低金利を考えれば、今年度も国債費に大幅な不要が出るのは必定だ。
このように、日本は、デフレとそれに伴う円高という高い代償を払いつつ、財政再建を行っている。こうしたことは、昨年度ばかりでなく、本コラムの特別版で指摘したように、2004~2006年度にかけても行われた。GDP統計の一般政府ベースで見て、GDP比で平均1%もの財政デフレをかけており、この時期の成長率は2%少ししかなかったのだから、財政がデフレの持続に大いに貢献していたことが分かる。
火曜日の日経ビジネスO.L.では、「借金の是非」に関する論考に、多くのコメントが付けられていたが、こうした議論は虚しいように思う。「借金の是非」論は、「埋蔵金」なら良いとか、ムダ削減が先だとか、社会保障で若者が搾取されているとか、あらぬ方向に広がりがちである。そして、肝心の来年度の財政運営、すなわち、経済成長と財政再建をどう両立させるかの数量的議論は見えなくなってしまう。それは財政当局の思う壺なのだ。
日本のオピニオン・リーダーは、お忙しいことだとは思う。原典に当たらず、財政当局が持ってくる出来合いの資料で論評を済ませたくなるのは分からないでもない。しかし、英エコノミストやFTは、ソブリン危機が言われる中でも、単に緊縮を訴えるのではなく、財政の「適量」を考えるだけの力量を持っている。日経は、日本経済の木鐸たらねばならない。こんな社説を書いた今の論説陣には猛省を求めたい。
(今日の日経)
社名は新日鉄住金。EUの銀行の損失21兆円・IMF推計。きしむ株式・年金は売り手。外国人の国債保有急増・過去最高67兆円。円、最高値うかがう。社説・来年度予算こそ歳出抑制の正念場だ。被災学校・病院を土地信託で再建。東ガス・火力会社に出資。787が国内関連会社の収益に寄与。国債商品、相次ぎ下方修正。経済教室・東アジア直接投資・高阪章。
※ギリシャなどの小国分だけでも大きいね。※株式は売られ過ぎ。いかにリスクに対して機会利益を取りに行けないか分かる。※最高でも、たったこれだけ。※信託は事業費に収益を組み込める。※東電は火力を売って賠償に充てるべきだろう。買い手の有力候補は東ガスだ。こういう案はタブーなんだろうね。
本当にしなければならない議論は、借金の是非ではなく、今の経済状況で、どの程度の増税が可能かを推計し、それを基礎に財政運営を決めることである。ところが、日本の財政当局に、そういうつもりは毛頭ない。次世代への罪悪感や財政破綻の恐怖感を植え付け、財政当局が与える増税案を、そのまま呑んでくれれば良いという方針なのだ。
その証拠に、彼らは、本当の姿を示す補正後の財政規模を、説明の基礎にすることは絶対にしないし、税収の見通しを示すこともしない。前面に出してくるのは、いかようにも操作可能な「史上最悪の国債発行44兆円」である。こんな簡単なごまかしに、手もなく捻られる日本の新聞や有識者もどうかとは思うが。
今日の日経社説は、その典型である。当初予算ベースだけを見て、財政悪化に歯止めがかからないとし、国債発行を44兆円に抑えることを当然とする内容だ。現実はどうかというと、9/17に書いたように、2010年度は、「決算」ベースで、9.6兆円も収支が改善している。予算は「予定」でしかないのだから、それで評価したって仕方なかろう。
しかも、昨年度は、11月に円高対策の補正予算を4.4兆円追加して、そういう結果になったのだから、当初、財政当局は14兆円ものデフレ財政をするつもりだったことになる。これはGDP比で2.6%にもなるのだから、2010年度の成長率が2.3%だったことを踏まえれば、いかに無理なものだったかが分かる。実際、日本経済は、年度後半にマイナス成長になっているのである。
また、国債44兆円枠にしても、2010年度決算を見れば、42.3兆円で済んでいることが分かる。2011年度予算では、この44兆円枠の形を維持するため、あえて、2010年度補正後より1.3兆円も国債費を多く積み込む操作をして「作った」ものなのである。これを基準にすることがいかに無意味が分かるだろう。現下の低金利を考えれば、今年度も国債費に大幅な不要が出るのは必定だ。
このように、日本は、デフレとそれに伴う円高という高い代償を払いつつ、財政再建を行っている。こうしたことは、昨年度ばかりでなく、本コラムの特別版で指摘したように、2004~2006年度にかけても行われた。GDP統計の一般政府ベースで見て、GDP比で平均1%もの財政デフレをかけており、この時期の成長率は2%少ししかなかったのだから、財政がデフレの持続に大いに貢献していたことが分かる。
火曜日の日経ビジネスO.L.では、「借金の是非」に関する論考に、多くのコメントが付けられていたが、こうした議論は虚しいように思う。「借金の是非」論は、「埋蔵金」なら良いとか、ムダ削減が先だとか、社会保障で若者が搾取されているとか、あらぬ方向に広がりがちである。そして、肝心の来年度の財政運営、すなわち、経済成長と財政再建をどう両立させるかの数量的議論は見えなくなってしまう。それは財政当局の思う壺なのだ。
日本のオピニオン・リーダーは、お忙しいことだとは思う。原典に当たらず、財政当局が持ってくる出来合いの資料で論評を済ませたくなるのは分からないでもない。しかし、英エコノミストやFTは、ソブリン危機が言われる中でも、単に緊縮を訴えるのではなく、財政の「適量」を考えるだけの力量を持っている。日経は、日本経済の木鐸たらねばならない。こんな社説を書いた今の論説陣には猛省を求めたい。
(今日の日経)
社名は新日鉄住金。EUの銀行の損失21兆円・IMF推計。きしむ株式・年金は売り手。外国人の国債保有急増・過去最高67兆円。円、最高値うかがう。社説・来年度予算こそ歳出抑制の正念場だ。被災学校・病院を土地信託で再建。東ガス・火力会社に出資。787が国内関連会社の収益に寄与。国債商品、相次ぎ下方修正。経済教室・東アジア直接投資・高阪章。
※ギリシャなどの小国分だけでも大きいね。※株式は売られ過ぎ。いかにリスクに対して機会利益を取りに行けないか分かる。※最高でも、たったこれだけ。※信託は事業費に収益を組み込める。※東電は火力を売って賠償に充てるべきだろう。買い手の有力候補は東ガスだ。こういう案はタブーなんだろうね。
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