経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

「人口戦略法案」の難点を解決する

2022年01月30日 | 基本内容
 厚労省のスーパー官僚だった山崎史郎さんが書いた『人口戦略法案』は、いわゆる「こども保険」の構想であり、新たな社会保険の導入により、育児休業給付を大幅に拡充して、少子化を克服しようという内容である。1/1に内閣官房参与に任じられたらしく、これが岸田政権で実現されたらと心から願う。ただ、その最大の難点は、重くなる保険料を、どうやって国民に受け入れてもらうかだ。いかに人口の維持という大義があっても、低成長で生活が苦しい中、負担への納得は容易ではない。

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 負担が難点なら、無くせば良い。こんなことを言うと、行革でムダを撲滅して財源を捻り出すのかと勘違いされそうだが、そうではない。少子化とは長期的な滅びの道であり、その克服は日本経済を持続可能にするため、必ず大きな金銭的利益が発生する。この関係を制度設計によって上手く結びつければ、更なる保険料負担を課さずとも、給付ができるようになるというわけである。

 具体的には、本コラムの提案のように、老後に受け取る年金の一部を、乳幼児の子育て期に前倒しで受給できるようにする方法がある。前倒しするだけなので、新たな負担が必要ないのは自明だ。解決すべき課題は、「年金は老後にしか使っちゃダメだ」という固い頭をほぐすことに変わる。少子化が緩和されれば、現役世代が多くなり、保険料が伸びるから、むしろ、もらえるものは増えることになる。 

 厚生年金の財政構造は、ざっくり言うと、子世代が7割になる少子化に耐えられるように作ってある。子世代の保険料による支えがない3割は、積立金と税負担が半々で面倒を見る。すなわち、少子化の克服まで行かなくても、8割5分になるだけで税負担は無用になる。これが2022年度は約12兆円なので、本当に『人口戦略法案』で出生率が1.78ぐらいまで上昇するのだったら、これを財源と見込んで、一部を少子化対策に回したら良い。

 その第一の使い先は、1/6の2兆円程で、若い低所得者の保険料負担を軽減し、勤労者皆保険を実現することだ。非正規に前倒し給付をするなら、厚生年金に加入しておいてもらわないといけないのでね。『人口戦略法案』では、柔軟なライフスタイルを選べないという問題が指摘されているが、正規と非正規に社会保険の壁があり、シームレスな労働時間の調節が難しく、特に残業なし8時間が無理なことが根本にあるから、一緒に解決しておこう。

 この2兆円も一時的なもので、出生率が順次向上して5年後に5.5%増の1.52になれば、不要になる。つまり、2022年度の補正予算で、5年分の5兆円を年金特会に繰り入れる一回切りで済み、2025年度の財政再建目標も影響を受けない。若い低所得層への再分配となり、中小企業を助け、労働力供給も増え、生産性も上がるので、月並みな成長戦略よりも優れている。補正は平時でも3~4兆円を打っているわけで、何をするかの問題だ。

(図)


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 こども保険には、介護保険を実現したときのような「ボケ老人」をどうやって抱えるかといった切実な危機感がなく、人口1億にしないと、大国から転落して経済も衰退するという大義だけでは、負担を覚悟してでも実現しようという後押しには弱い。しかも、介護保険の導入時とは違って、所得が増えないデフレ下にある。他方、少子化の克服には、金銭的利益が期待できるというアドバンテージがある。

 年金は典型だが、賦課方式の部分がある医療、介護、雇用の各保険にも利益はあって、権丈善一教授の基金構想による財源確保は傾聴に値する。そして、最大の受益者は財政なのだ。山崎さんは「勇気を持って投資しよう」と訴えるが、まずは財政が聞くべき道理である。緊縮で滅びの道を歩むのではなく、積極策で日本の持続可能性を取り戻したい。いつものセリフだが、繰り返そう。この国に足りないのは財源ではない、理想である。


(今日までの日経)
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