経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

少子化がマズいと思うなら、このくらいやろうよ

2023年01月01日 | 基本内容
~1.8兆円の再分配による少子化の緩和と非正規の解放~
この世界で生き続けること、その全てを愛せる様に、祝福を君に


はじめに
 2022年の合計特殊出生率は、過去最低の水準にまで落ち込む。これは、経済的にも、社会的にも危機的な状況だ。子世代が1.67倍もの損な負担を被るどころか、人口が崩壊して社会の維持が困難になる。この国に生まれたこと、この時代で生き続けることが、本当に無理なものになっている。だけど、これは運命ではない。少子化の緩和に成功している先進国がある以上、政策的な結果でしかない。受け入れるしかないと思うのは、誰かが描いたイメージや、誰かが選んだステージに、甘んじているだけだ。

 日本が少子化の圧力を跳ね返せなかったのは、若者への経済的な支援が薄かったせいである。いまだ、非正規には、育児休業給付もない。0.7兆円あればできるのに、そうなるのは、「財源がない」とする論理だ。税の自然増収が2年で9.3兆円もあり、成長戦略には巨額の補正予算から7.5兆円を投入するのに、再分配に割くものはないとされる。こうした在り方は、投資の促進で成長を加速するとして、正当化されているが、再分配がないために消費が停滞し、需要の少なさに投資は委縮したままという矛盾を起こしている。

 こんな決め付けられた運命なんて壊し、もう呪縛は解いて、定められたフィクションから飛び立ってはどうか。再分配によって、少子化の緩和に成功すれば、財政負担は10兆円規模で軽くなる。投入以上の見返りがある。経済は、需要の拡大で成長し、社会は、持続性を取り戻す。人間の再生を蔑ろにし、人口崩壊を起こす呪い呪われた未来は、君がその手で変えていける。

………
非正規への育児休業給付
 少子化対策として、何をすべきか。まずは、明らかな障害となっているものを除く努力をすべきである。目下の焦点は、非正規の女性への育児休業給付の拡大である。現在の育児休業給付は、継続雇用が条件になっており、正社員の女性でないと受けがたい。2021年の出生数は81万人なのに、初回の給付を受けた女性は38万人だけであり、46.4%の女性しかもらっていない。

 育児休業給付を受けられなければ、出産後しばらくは、生活費を夫に頼らざるを得ない。ところが、デフレ経済が続く中で、頼れる若い男性は少なくなっている。なかなか「良い人」に巡り合えず、いつまでも結婚ができない。この状況で、子供を持てと言われても、無理だろう。非正規の女性も、子育てに一区切りつけば、多くがパートなどで再び働き始めるのだから、現状は、まるで「身分」によって差別するような制度になっている。

 非正規への拡大で、ハードルになるのは財源だが、7,100億円あれば足りる。大きく見えるかもしれないが、国の税収は、2012年度から2021年度にかけて、消費税を除いても、平均して約8000億円の増収があり、その1年分を充てれば良いだけだった。アベノミクスの2014~19年度には、毎年、補正予算が組まれ、平均3兆円あったから、1/4を割けば、実現できていただろう。足りないのは財源ではない、理想なのだ。

(図)


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 2019年度の育児休業給付は、女性の受給月額の平均が約13.4万円、給付期間の平均が約11.7か月だった。これに月額1.5万円の児童手当が加わるので、月額で約15万円の生活保障になっている。こうした保障を、すべての女性に普遍化する。2021年度の女性への給付総額は6,100億円であり、女性の受給者数は出生数の46.4%だったから、普遍化には+7,100億円が必要で、総額は1.32兆円になる。

 この先、出生率が2021年の1.30人から1.75人まで上昇したとしても、+4,600億円多くなるだけである。これで出生率が向上するとしたら、安いものだ。なぜなら、出生率の回復による経済効果は大きく、このくらいの給付をするのに必要な財政負担を、軽く上回るからである。こうした財政上の効果の存在を、よく分かっていないために、少子化対策はケチられてきたとも言える。

 厚生年金の財源は、大まかに言うと、2/3が保険料、1/6強が税負担、1/6弱が積立金である。こうした構成なので、少子化で子世代が親世代の2/3になって、1/3に支え手がいなくても、税と積立金が支えるので、保険料に見合った給付ができる。このことは、もし、少子化が緩み、子世代が親世代の5/6まで増えると、税負担を不要にしたり、低所得者の保険料軽減や年金割増しに転用できたりすることを意味する。

 出生率で言えば、1.75人まで回復すると、子世代は5/6になる。厚生年金の現在の国庫負担額は約10兆円なので、ここまで来れば、それが浮く計算だ。すなわち、仮に、少子化対策に10兆円を投入したとしても、出生率が回復して、10兆円の負担が浮けば、差し引き、財政負担は変わらない。少子化対策には、こうした特別な効果がある。反対に、少子化の激化を放置し、出生率が1.25に落ちると、5兆円規模で追加の財政負担を迫られる恐るべき事態となる。

………
社会保険料に連動した再分配
 次の打ち手は、低所得層の社会保険料の負担を、税の還付によって、実質的に半減させる。1.1兆円あればできる。その狙いは、第1に、少子化の緩和であり、若い低所得者の手取りを増やすことで、結婚や育児をしやすくする。第2に、勤労者皆保険の実現だ。厚生年金や健康保険の適用を拡大しようにも、低所得者には負担が重く、折半する事業者から反対されるというハードルを「社保還付」でクリアする。

 この勤労者皆保険の実現には、多大な意義がある。一つは、国民年金からの移転で本人負担が半減すること、二つは、将来の低年金を予防できること、三つに、シングルマザーの苦境を救えること、四つに、主婦パートの130万円の壁を撤廃できること、五つに、非正規への差別をなくせること、六つに、家庭の事情に合わせ労働時間を柔軟に変えられること、七つに、労働時間での雇用調整が可能になって有期雇用が無用になることである。端的に言えば、低所得層の底上げと抑圧のない合理的な働き方が可能になる。そして、八つに、厚生年金の給付水準を1割ほど引き上げるという、いまや、どうしても欲しい最重要の効果がある。

 社保還付は、社会保険料を月収ごとに決める等級表にリンクして行う。標準額5.8万円の健康保険の第1等級から標準額11.0万円の第7等級までは、半額を還付する。第8から第12までは、一段ごとに還付額を3万円づつ減らしていき、第13でゼロにする。還付額は、第1の年9.9万円から第7の年18.7万円まで段階的に増えていき、第8の年15.7万円から第12の年3.6万円までは徐々に減って第13等級でゼロになる。

 還付の総額1.1兆円を、対象別に試算すると、既に厚生年金に加入している者が3,160億円であり、適用拡大によって、国民年金の1号被保険者から移ってくる人のうち、常用雇用者が180億円、パート・アルバイト・臨時が2,600億円、学生が750億円となる。それに、専業主婦などの3号被保険者が4,600億円であり、ここまで拡げると、勤労者皆保険は完成する。他方、国民年金は、自営業者、家族従業者、無職などに限られたものになる。

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 勤労者皆保険が実現するとは、どういうことなのか。月収5.8万円以上なら、あまねく厚生年金と健康保険に加入できる。パートへの適用拡大で最大の問題は、事業者が負担を嫌い、賃金を下げて、労働者に転嫁しようとすることだが、すべて転嫁されても、社保還付があれば、手取りは変わらない。他方、国民年金や国民健康保険の負担はなくなるから、現在の収入と将来の年金が増して、生活が支えられる。

 また、月収や労働時間によって年金と健保が変わるという壁が消え、非正規と正規の差別がなくなり、能力や事情に合わせて、労働時間を柔軟に選べるようになる。シングルマザーであれば、パートに押し込められ、ダブルワークを強いられることから解放される。主婦パートは、130万円の壁が消えて、いきなりの高負担がなくなり、忙しい中で仕事を休んだり、時給アップや臨時手当を辞退したりせずに済む。

 社会保険の適用の違いがなくなると、正社員が介護で退職せずに、短時間で働きやすくなる。不況時には時短で対応できるので、解雇に備えた有期雇用も無用になる。制度の「壁」が消え、制約を気にせず、正規も、非正規も、能力を最大限発揮できる。それは、マクロ的には、労働供給を拡大し、消費を増やし、経済を成長させ、財政を改善するのであり、これこそ本物の成長戦略だろう。

 そして、勤労者皆保険は、年金の給付水準を上昇させる。2019年の厚生年金の財政検証でオプションAとして提案され、給付水準を示す所得代替率を、1割ほど押し上げるとされる。当時の想定より少子化が悪化し、所得代替率50%の目安を保つには、オプションの選択が不可避の情勢だ。基礎年金の加入期間を45年に延ばすオプションBもあるが、給付規模の拡大が伴い、働き方にも大きな波及効果があるAを、今こそ選ぶべきである。

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おわりに
 若い人の間では、「結婚は贅沢品」と思われているらしい。希望出生率も下がり、価値観が変わってきたようにも見える。けれども、それは、与えられた環境に、意識を適応させているだけではないか。選ぶ未来、望む道は、「誰かが描いたイメージじゃなくて、誰かが選んだステージでじゃなくて、僕たちが作っていくストーリー」であり、人口崩壊という呪い呪われた未来は、君がその手で変えていける。

 あきらめさせるように「少子化対策はいくらやっても」という声もあるが、かつて、団塊の世代が30代初めで、出生率が1.75だった1980年には、厚生年金の保険料は今の半分で、消費税もなかった。大学の授業料も半分であり、奨学金の返済や子供の教育費の心配もなかった。今は、余程の支援がないと、ハードルを乗り越え、結婚や出産をするのは難しくなっている。これまでの少子化対策は、全然、間尺に合っていないのだ。

 給付や還付については、少子化の緩和が年金の財政負担を軽くすることから分かるように、社会保険の枠内で措置することも可能で、いわゆる「財源なし」での実現もあり得るが、説明は省く。複雑になるし、財政上のテクニックで、いかようにもなる。少子化の緩和には、大きな財政上の効果があるという本質さえ分かっていれば十分で、大事なのは、不安やあきらめの鎖を、その胸に秘めた刃で断ち切り、一人孤独な世界で祈り願ったことを貫きたいと思えるかである。

 お気づきのように、今回は、YOASOBIのヒット曲「祝福」のフレーズを引いている。この曲に若い人たちが共感するのは、今の社会に強い閉塞感を抱き、飛び出したい気持ちが強いからだろう。なぜ、こうなっていて、どうしたらよいかは、分からないかもしれないが、君たちの世界や未来は、どんな物語にでも出来る。「この星に生まれたこと、この世界で生き続けること、その全てを愛せる様に、目一杯の祝福を君に」送ろう。


(元日の日経)
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