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経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

イシバノミクス・物価高と少子化の凄まじさ

2025年03月02日 | 経済(主なもの)

 いまや一番重要な指標になってしまった商業動態・小売業の1月は、前月比+0.6、前期とは+0.7で順調だった。もっとも、実質では、CPI・財の前月比が12月+1.3、1月+1.2と物価高が凄まじかったために、大きく低下している。ようやく、利上げで円安が是正に向かっているものの、物価に表れるのは、もう少し先だ。それでも名目が伸びているのは、物価高に耐える力をまだ持っているということでもある。

 鉱工業生産の1月は前月比-1.1だった。2,3月の予測で伸ばすと、1-3月期は前期比+0.7となり、久方ぶりの2期連続増となる。一進一退の状況に変わりがないが、ベースが少しでも上向いてくれれば十分だ。財別では、資本財(除く輸送機械)は1-3月期が前期比-4.8とマイナスで、完全に一進一退で、建設財も-1.1と同様である。他方、消費財は+3.2となっていて、連続でのプラスが望めそうになっている。

(図)


………
 12月の人口動態速報で、2024年の出生は前年比-5.0%の72.1万人と判明した。-5%が3年連続という少子化にも程がある物凄い低下で、同じ少子化でも厳しさの面構えが違う。合計特殊出生率は、おそらく1.15人で、また-0.05も下がる。2024年の婚姻はようやく底入れしたものの、出生の底入れには1年位はタイムラグがあるので、2025年は1.1人までいくだろう。子世代が親世代の半分になるわけで、支える負担は倍増だから、今30歳前後の人の老後は相当に厳しくなる。そもそも、この激しさでは、国の存続が危い。

 日経は、少子化の背景の婚姻の少なさは価値観の変化としているけど、2022年にちょっと増加して、2023年に大きく下がり、2024年に戻したという経過からすると、物価高の生活の苦しさが大きいと思う。結婚は一定の所得があればできるので、ボーダーにいる人が脱落することで減ってしまう。少子化対策は、ボーダーの人をターゲットにしないと意味がない。結婚できている人に児童手当を増やしても効果が薄いのは当然だ。

 「年収の壁」対応の所得控除拡大で1.2兆円の減税をするらしいが、これだけあれば、低所得者の社会保険料を半減でき、手取を増やして、壁を除去した上、一気に適用拡大ができ、年金の給付水準も向上させられる。そもそも、所得税に本物の壁はないのだから、お笑い種でしかない。また、厚労省は壁対応で補助金を入れるらしいが、そんな余裕があるなら、非正規への育児休業給付の差別撤廃が先だろう。 

 どうして、こうも的外れな方に思い切りが良いのかね。生活の苦しさ、結婚の難しさから、国民が手取増を願うのは正しい。しかし、その本質がどこにあり、何が解決につながるかを考究するのは政治の役割だ。受け狙いの思いつきに対する場当たりの調整では、とても正解にたどり着けない。与党は、目先の乗り切りに気を取られ、給付つき税額控除のような正しい政策を次の参院選で掲げられなければ、とにかく負担減の野党にまたやられるだろう。役所の枠を超える戦略を選べず彷徨うのは、この国の宿痾であるにせよ。


(今日までの日経)
 昨年の出生数最少72万人 社会保障、現役世代に負担 少子化、政府想定超す。「異次元の少子化対策」初年度は不発。昨年の婚姻数、戦後2番目の少なさ コロナ禍減少分が戻らず 単身定着、価値観変化か。社会保険料の肩代わり、企業に8割→全額還付。政府・与党、高額療養費上げ延期を検討。年収の壁160万円になると…納税者の多くは2万円減税。与党「年収の壁」160万円に 国民民主、賛成せず 所得税1兆2000億円減。強い米景気に陰り、円高圧力に 148円台。れいわ、本社世論調査で維新に並び6%。

 

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イシバノミクス・雇用と消費で見ていく景気

2025年02月02日 | 経済(主なもの)
 12月の商業動態・小売業は前月比-0.8で、10-12月期は前期比-0.3となった。10-12月期の消費は、これほどCTIマクロが激しく動いていないので、名目で前期比+0.6くらいかと見ている。むろん、実質では、CPIが前期比+1.1も上がっているので、マイナスに沈む。消費は、可処分所得の増加を背景になんとか食らいついている形だが、これが破綻する前に、早く実質プラスに持ち込みたいところだ。

 12月の経済指標が出て、10-12月期のGDPは実質前期比+0.3かと思う。消費が沈んで、設備投資は若干のプラスでも一進一退の範囲にとどまり、輸入減で外需が押し上げ、在庫減が下げるといった構図であり、実質だと弱さが目立つ。名目では、消費は伸びているので、やはり金融政策で円安を何とかしないといけない。円安でも、定番の輸出と設備投資には頼れない状況であり、日本も米国に似て、雇用と消費が景気動向のカギになっている。

 消費の中身を商業動態で見ると、食料品は、物価が上がっているのに、売上が停滞していて、物価高についていけなくなっている。これが食料品以外にも拡がらないか心配だ。消費の背景にある雇用は、10-12月期の労働力調査は、就業者が前期比+14万人、雇用者が+9万人で、過去最高を更新している。ニッセイ研の斎藤太郎さんも過去最高を指摘していて、ここはポイントだ。

 7-9月期の家計GDP速報では、可処分所得の収入の寄与度が+1.0に対し、公的負担が-0.7と足を引っ張ったものの、前期の収入の高い伸びもあり、家計消費(除く帰属家賃)は前期比+1.0としっかり伸びていた。10-12月期も、雇用者報酬は、10,11月は前期比+1.0と伸びており、期待できる状況にある。あとは、公的負担が邪魔しないことで、再分配に十分配慮することが必要である。

(図)



(今日までの日経)
 「スマイル」も安いニッポン。年金改革、「氷河期」に届くか。マグロ完全養殖ほぼ消滅。就業者最多6781万人 昨年34万人増。社説・野党は負担軽減の手柄争いから脱皮せよ。人口、東京集中に拍車 女性・若者の流入多く。スタバが立地別価格。

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緊縮速報・厚生年金は0.6兆円の緊縮で黒字化を達成

2025年01月26日 | 経済(主なもの)
 政府予算案の提出で、2025年度の厚生年金は、昨年度並みの0.6兆円の緊縮を行い、予算上でも黒字化に到達することが判明した。財政再建は結構だが、それだけ賃上げを相殺し、可処分所得を減らし、消費を抑制しているわけで、庶民に理由は分からずとも、手取が増えないのはおかしいという不満が募るのももっともだ。そうした政治課題を認識できない石破政権は、また選挙で負けるのではないかな。

(図)


………
 「緊縮は善」の日本では、補正予算間で-2.2兆円、本予算間で-6.8兆円の国債減額を果たしているが、赤字の減に、うれしくなるばかりで、「可処分所得の削減で生活が苦しくなり、消費不振で成長が鈍らないか」という視点は欠けている。年金で更に0.6兆円の緊縮と聞いても、何も感じないとは思う。財政赤字は着実に減らす必要はあるが、一気に減らして良いかは別問題で、生活の苦しさで少子化が進めば、年金財政はかえって悪化する。

 昨日は、11月の人口動態も公表され、出生は前年同月比-7.2%で、合計特殊出生率だと1.15人に後退した。婚姻は下げ止まりがうかがえるが、このレベルで止まっても、悲惨な状況の固定でしかない。岸田政権の少子化対策で、児童手当増が既に10月から始まり、育児休業10割支給も4月に始まるというのに、このざまである。にもかかわらず、石破政権は、所信演説で、少子化を受け入れて人口減に見合った地方創生をしようと言い出す始末だ。

 その方策は、これまでも試みられて来た類のもので、若い女性に選ばれるようになるとは思えない。都会では、乳幼児保育や給食が無償で、育児休業給付がもらえる正規職も豊富だ。地方でも同様の支援があり、非正規でも給付がもらえるようでなければ、若い女性に見限られる。産業政策やインフラ整備で正規職を増やすのは迂遠であり。厳しい生活状況の現実を直視した方策が必要だろう。

………
 厚生年金は、マクロ経済スライドの給付調整の早期終了が損得論を呼んでいるが、そもそも、デフレで調整ができなかったために、今の給付水準が高過ぎて、若い世代の給付水準を犠牲にしているのであり、世代間の公平のためにやって当然のものだ。恩恵のある若い世代や低所得層からは、強く支持されるはずの方策だし、国庫負担の増も、元々得られていたものを取り戻すだけだから、財源を論ずるまでもない。

 むしろ、問題は、少子化が深刻化し、給付水準を下げざるを得なくなっていることである。これをリカバリーするには、適用拡大しかなく、それには、給付つき税額控除の導入で、若い低所得層の負担軽減をはからなければならない。これは、地方に多い低所得者の結婚確率を高めて、出生率を向上させ、地方創生にも働く。政策課題の根っこは、経済合理性でつながっているのである。


(今日までの日経)
 日銀、0.5%に利上げ。BYD、本命PHVを日本に。首相「令和の列島改造」5本柱 。政府、備蓄米放出に転換。年金額、物価より伸び抑制 25年度1.9%増 財政改善で将来世代恩恵。コロナ禍の貸付金5600億円分を免除。LNGに供給の大波。

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緊縮速報・道具としての中長期試算

2025年01月19日 | 経済(主なもの)
 中長期の経済財政試算が公表され、2025年度の基礎的財政収支は-4.5兆円の赤字となり、夏の試算とは変わって黒字化の目標には届かなかった。要因は2024年度補正の一部を2025年度に積み込んだためとされる。いずれにせよ、補正と本予算で決めた緊縮が動くものではなく、財政赤字が十分に小さくなっているのに、成長を確保する上で、妥当な政策になっているのかという話になる。

………
 試算は緊縮財政を訴える道具でしかなく、マクロ経済運営を考えるためには、あまり役に立たない。ただし、今回は税収を過小に見積る悪癖をやめたため、実態が試算以上に緊縮になっているというバイアスが消え、2025年度に13.4兆円の緊縮になるのが素直に分かるようになった。もっとも、緊縮を善とするこの国では、GDP比で2.2%も需要を削って成長を抑制するつもりだという情報は、無意味なものだが。

 試算が起点とする補正と本予算の税収は、マクロ指標から推計されるものから見ても適正なもので、上ブレは、ほとんど見込まれない。意外なのは、試算の税収が2026,27年度に名目成長率以上の伸びであり、夏の試算より2.2,2.6兆円の上積みになっていることだ。それでも、基礎収支が悪化しているのは、2027年度では、国の基礎収支のその他歳出が+2.3兆円、地方の公債等を除く歳出が+2.6兆円も伸びているためだ。理由はよく分からない。

 2025年度に基礎収支黒字化の財政再建目標は、事実上、当初予算を対象にするものだったので、今回、補正予算の一部積込みで達成できなかったと言われても、ゴールを動かしたようにしか思われない。意味ある目標としては、補正予算含みでの黒字化であるべきで、初めから前年度と同規模の補正を続ける想定で試算を示した方が適切ではないだろうか。その意味で緊縮の道具としても半端なものになったように思える。

(図)


………
 今回の試算では、2026,27年度の名目成長率が+2.7,+2.9%で推移するとき、国・地方の税収は、+4.4,+4.4兆円で推移し、2026,27年には基礎収支が+6.7、+2.3兆円改善することになっている。これを踏まえれば、2025年度の補正は、前年度並みの規模で良いように見える。あとは、使い途であって、ガソリンの値引きとかでなく、年収の壁の解消や非正規の育児休業の給付にでも使って、成長に資するようにしてほしいものだ。


(今日までの日経)
 中国、9年ぶり名目を逆転。ガザ停戦合意 まず6週間。ガソリン補助金再縮小185円に。基礎年金底上げ、29年以降に判断。輸入物価、4カ月ぶりプラス。訪日消費8兆円で過去最高。壁は「106万円」→「週20時間」に。ドイツ経済、中ロ依存裏目に 昨年再びマイナス成長 。小売り、3年ぶり減益。

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イシバノミクス・命脈に無頓着な財政

2024年12月29日 | 経済(主なもの)
 11月の商業動態・小売業は前月比+1.8となり、この9,10月の遅れを取り戻したような形であり、景気が順調で良かった。他方、鉱工業生産は前月比-2.4で一進一退の状況だ。景気を見るには、生産とその背景の輸出を見るのがセオリーだったが、最近は消費と雇用だ。輸出は10,11月がマイナスで停滞しており、逆に、雇用は男性も10,11月がプラスで上向いている。注目点が米国経済のようになっているわけだ。

 2025年度の政府予算案が閣議決定され、一般歳出は+0.5兆円に対し、税収は+8.8兆円で、基礎的財政収支の赤字幅が8.0兆円も圧縮される緊縮型である。国の赤字幅は0.8兆円になった。また、地方は、地方債を0.35兆円圧縮するともに、特会償還を2.3兆円増やす。地方は従来から黒字であり、国と地方で赤字をゼロにする財政再建目標に達したと見られる。さらに、厚生年金は支給年齢の引上げで0.3兆円は締まる。

 2025年度の場合、税収の見積もりは、珍しいことに過小さがなく、いつものような想定外の緊縮にはならないにせよ、消費が景気の命脈になっていて、今年は定額減税に救われた経験もしたのに、こんな無頓着さで良いのかと思う。いつもどおり、産業政策で設備投資の補助金をバラ撒けば景気は加速できるという思想に縛られ、消費が伸びないのに生産力が増強されるという夢から覚めないのである。

 日銀は、12月の利上げを見送り、円安を是正して実質消費をテコ入れするチャンスを捨ててしまった。金融緩和に拘り、それで設備投資が刺激されて、景気が加速すると思っているのなら、リフレ派とは程度の差しかないことになる。円安で物価が上昇したところで、政策の目標として、何の意味があるのだろうか。生産も輸出も頼りにならない状況なのに、誰も命脈を大事にしてくれないのである。

(図)



(今日までの日経)
 長期金利上昇、一時1.11% 13年ぶり高水準。円下落、一時158円台 日米金利差の縮小観測後退で。税収増、新規国債発行30兆円下回る。ガソリン、1年ぶり180円台に上昇。

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緊縮速報・着実に進む財政再建と円安の金融政策

2024年12月22日 | 経済(主なもの)
 7-9月期の資金循環は、一般政府の資金過不足のGDP比が-2.6%と前期より0.3の改善で、着実に緊縮が進む。10~12月の財政資金対民間収支では、税収の好調さから、一般会計が前年同期比+3兆円が見込まれるので、一段の緊縮が進むことになろう。インフレで緊縮が進む中、いかに緩和するかが重要な政策課題なのだが、そうした需要管理の観点は欠如していて、成り行き任せなのが痛い。

(図)


………
 所得控除の引き上げは123万円でひと区切りとなったが、これだと1兆円規模の減税にとどまる。2024年度の定額減税が3.2兆円だったから、財源的にも、このあたりまでは行くかと思っていた。残り2兆円分を使って、本予算採決までに決着をつける腹だろう。それは、減税でなく、教育無償化になるかも知れない。どちらにしても、少数与党が本予算を通すための戦法としては、よく分かる筋書である。 

 しかし、考えるべきは、その先の参院選だ。手取増・壁除去で国民党が総選挙に勝利した教訓から、各党は現実味のある負担減の政策競争になる。自民党も無策では、またやられるだけだ。サッカーではないが、少なくとも相手の良さを消す戦法が必要になる。例えば、所得控除で壁除去は無理と刺しつつ、1.1兆円の給付つき税額控除で完全撤廃するとか、無償化は東京や大阪ではできているから、地方創生臨時交付金を複数年で約束して実現するとかである。まあ、目先のことで手一杯かな。役所も助けてくれないしね。

 2024年度予算は、補正後の前年度比で1.1兆円の緊縮になり、減税がこのままだと、2.2兆円の緊縮である。2025年度は、本予算の歳出が1兆円伸びても、税収は+2.7兆円が見込まれるから、合わせて5兆円程の緊縮になる。また、地方は、その6掛けの税収増だ。さらに、厚生年金の支給開始年齢が65歳に引き上げられる年なので、社会保障の緊縮もきつい。本来は、こうした緊縮の規模を踏まえつつ、どのくらい緩和するかを考えるべきなのである。

………
 今週、日銀は利上げを見送り、円安にしたけれども、何がしたいのか分からない。円安に誘導して年明けのトランプ就任後の急激な円高に備えるつもりなのか。12月は利上げが順調に織り込まれ、市場が荒れる状況でもなかった。今は、坦々と利上げを進め、緩やかな円高に持って行くべき局面であり、日米の金融政策の逆の方向性を薄めることで備えておくのが適当だ。是非はともかく、逆方向だと何かと変動が起きる。

 金融政策では、物価を操作できず、黒田日銀の異次元緩和は、その点では無意味だったが、狙いどおりに円高を是正できた。そうした無意味な緩和に、植田日銀が拘り、円安の是正ができないなら、黒田日銀と変わらないどころか、得るものもないことになる。しょせん、金融政策はドル円くらいしか動かせないと割り切り、どのくらい緩和するかを考えるべきなのである。


(今日までの日経)
 インフレが動かす課税最低限。緩まぬ円売り圧力。日銀総裁、利上げ材料「もう一段必要」。訪日客最多19年通年上回る。日本の1人当たりGDP、韓国と台湾を下回る。ホンダ・日産統合へ。

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イシバノミクス・年収の壁でのコレジャナイ財源論

2024年12月01日 | 経済(主なもの)
 再分配の政策となると、どうして、この国は、コレジャナイ議論になるのかね。国民党の壁除去を巡り、財源論が戦わされているが、昨年の3.2兆円の定額減税のときはしなかったし、地方財源で揉めたりもしなかったのだから、今年も、いらぬ話にできるんじゃないの。ハイロンパ。しょうもないことで迷走せず、まじめに給付つき税額控除の設計をしてくださいな。コレジャナイに付き合わされる国民は、本当に不幸だよ。 

………
 定額減税で財源論が出なかったのは、1年限りとしていたからだ。今回も1年限りとして、恒久化するかは、参院選の結果を見て、再度議論すれば良い。他方、財源論の本質は、いかに野放図な財政をしないかであって、7-8兆円もの減税はやり過ぎであり、いかに、昨年並みに収めるかが重要だ。財政赤字は出しつつも、収支の改善は着実に進んでいるという方向性を示すことが信用維持に不可欠だからだ。 

 そもそも、103万円の壁を110万円にするくらいなら、インフレ調整だから、財源は無用だ。自動的に増税になっていたものを元に戻すだけで、ある意味、減税ではないから、財源がいらないのは当たり前である。他方、インフレ調整に見せかけ、別の尺度を持ち込み、178万円にするのは無理スジである。その無理さかげんが、7-8兆円という大きさと財源への戸惑いに表れるのである。

 また、壁をきれいに除くのは、以前に示したように1.1兆円ほどでできることだ。そこへコレジャナイ政策を打って7-8兆円も使うとなったら、野放図さが露わとなる。ロジで破綻しがちなのは。戦略がダメな証拠である。減税で得られる成長での税収増もタカが知れている。一方、壁を除いて勤労者皆保険を実現すると、年金財政が大きく改善することは検証済で、注目すべきはこちら。これで財源は後で補え、一時的減税に整理できるわけだ。

 細かいことを言うと、壁除去で主婦パートの健康保険料を軽減しても、財源は要らなかったりする。なぜなら、既に夫の健康保険をタダで受けていて、本人の加入でサービスが増えるわけではないからである。良い戦略は、ロジにも強い。ただ、良い戦略の欠点は、分かりにくいいことである。異次元緩和でデフレ脱却のように、ロクでもない戦略が取られるのは、単に分かりやすからである。

 財務省も、暴論を暴論で制しようとせず、給付つき税額控除の代案を示してやれよ。去年の定額減税と低所得者への給付の組み合わせは、事実上の給付つき税額控除だし、社会保険料の減免型なら、給付先は制度の所管機関だから、実務上のネックもない。何なら補助金の形にして厚労省にさせてもいい。OBだって、給付つき税額控除しかないと言っているのだから、知恵のある収め方を見せてほしい。

………
(図)


 10月の商業動態・小売業は、前月比+0.1とほぼ横ばい。自動車は回復したものの、各種や衣料が落ちており、前月の-2.5の後なので、物足りない。鉱工業生産は、自動車の回復生産があって前月比+3.0だったが、11,12月の予測は-2.2と-0.5だから、一進一退の状況だ。雇用は、労働力調査の就業者と雇用者が共に増え、女性ばかりとは言え、着実に拡大している。11月は、都区部CPIが前月比+0.6と物価高が続き、消費者態度が前月比+0.2にとどまった。

 輸出に期待できなくなった日本経済は、内需を大事に育てていかなければならない。金融政策では円高方向に誘導して物価高を緩和し、財政運営では安定的な需要の確保をする必要がある。2024年度予算は、補正後の歳出歳入で前年度比-1.0兆円、一般歳出で-3.7兆円で、若干の緊縮という堅実なものとなった。あとは、昨年の3.2兆円の定額減税が剥がれる分をどう埋めるかで、これが壁除去で使う目安となる。もう少しお客の国民を意識して再分配のネタを作ってくださいね。


(今日までの日経)
 女性正社員、非正規上回る。「年収の壁」米国は毎年調整。東京都、25年10月から第1子保育料無償化。政府、103万円の壁「6.1兆円減税なら1年目GDP1.3兆円増」。日米金利逆向き、円上昇サイン。法人の追徴税、最多3572億円 AIで抽出。EV失策で生産過剰に。バイト悩ます「103万円の壁」上げ。

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イシバノミクス・キシノミクスからの引き継ぎ

2024年10月06日 | 経済(主なもの)
 政権が変わったので、今回から、月例のレポートはイシバノミクスに変わります。しゲルノミクスかもしれないけれどね。石破首相は、キシノミクスを引き継ぐとのことだが、定額減税を行って緊縮を緩め、賃上げの中でも可処分所得が抑えられて消費が伸びないという昨年の失敗を改めた政策は、どうするつもりなのだろう。それで成長が回復しているとも気づいてないのだから、引き継ぐも何もないのだろうが。

………
 石破首相は、利上げに言及して、円安・株高にしたが、マーケットにおもねるのはよろしくない。それは否定されるべきアベノミクスの側面ではなかったか。そもそも、キシノミクスが金融緩和からの撤退に難渋し、4~6月にかけての異様な円安に苦しんだことを、もう忘れたのか。物価高は景況感を悪くするのであり、4,5月に消費者態度は大きく低下して、定額減税でようやく戻ったところだ。

 政権が気にすべきは、経済対策の規模と使い途である。所信で表明した当初予算の地方創生交付金1000億円の倍増は、誤差の範囲でしかない。昨年、2.7兆円を投入した物価対応の地方創生「臨時」交付金、1.2兆円のコロナ対応の同交付金をどう引き継ぐかである。昨年度補正後と今年度当初予算の一般歳出の差は17.4兆円あり、3.2兆円の定額減税も行った。20兆円規模のことをしないと、財政は緊縮に変わり、売上が鈍って賃上げも難しくなる。

 使い途としては、今さらコロナでもないので、地方が渇望しているものに充てるべきだ。臨時交付金は、給食や保育の無償化にも充てられてきたので、これらに重点化すれば良い。また、石破首相は、若い女性に選ばれる地方にしたいようだが、女性は育児休業給付がある正社員を求めて都会へ出て行く。ならば、非正規でも育児休業給付がもらえるようにすれば、地方でも結婚できるようになる。若い女性に見捨てられたら、地方に未来はない。

 物価高で生活が苦しいでしょうからお金を配りますというだけでは、希望は見出せない。結婚と子供にお金を使い、少子化を緩められれば、経済的にも社会的にもプラスになって、展望が開けるというものだ。人口が激減したら、石破首相が守りたいものなんて、どこにも存在しなくなる。人気を得て選挙に勝ちたいと思うなら、そのくらいの知恵を出してほしいものである。

(図)


………
 8月の商業動態・小売業に見られるように、定額減税もあって消費は順調だし、8月の労働力調査では、就業者数が前月比+25万人の6,791万人となり、コロナ前のピークを2か月ぶりに更新した。新規求人倍率も5か月ぶりの2.3倍台である。鉱工業生産は、前月比-3.4で一進一退の状況だが、9月+2.0、10月+6.1と上向きの見通しとなっている。日本経済には珍しく、消費先行の成長ぶりと言えるだろう。9月の消費者態度は、前月比+0.2と小幅ながらプラスであり、傾向は続いている。緊縮を緩和したキシノミクスは奏功している。ならば、引き継ぐまでであろう。


(今日までの日経)
 中国企業に「隠れ補助金」。足元の物価上昇要因は円安・河浪武史。米雇用、薄れる失速懸念 大幅利下げ観測後退。「沖縄独立」煽る偽動画拡散。金融政策、揺れる石破発言。公取委、生成AIの競争環境調査。

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緊縮速報・4-6月期資金循環・再分配への無関心

2024年09月22日 | 経済(主なもの)
 4-6月期の資金過不足を4期移動平均のGDP比で見ると、一般政府は-2.7%と前期から横ばいだった。定額減税のせいか、中央政府は前期比-0.3だったが、地方政府が+0.1、社会保障基金が+0.3となって相殺した形だ。税収減の影響は次の7-9月期に大きく出るが、地方と社会保障が人知れず緊縮を強めており、あっさり負担減になっていないことには、注意が必要だ。財政全体の締まり具合なんて景気には無関係だと、みんな思っているだろうが。

………
 諸富徹先生の『税と社会保障』を読んだけど、非正規への育児休業給付が実現しなかったことを残念がっておられて、まったく同感だったよ。若い人には社会保険料負担が重過ぎ、少子化対策には再分配が必要とか、富裕層への課税強化とか、再分配のインフラがないとか、専門家には重要な課題だと分かっていることが、世間的には無関心なままにあるのが身につまされる。 

 与野党でトップを選ぶ論戦が繰り広げられているが、若い人の負担軽減や少子化対策の具体策を示してほしいものだ。曖昧なもので済まされる状況ではないだろう。出生率の低下には歯止めがかかっておらず、東京都は、2023年1月に高校生以下に月5000円の給付をすると発表したが、2024年前半の出生数の減少率は、全国平均より良いものの、神奈川県と変わらず、大阪府より悪い。既に決めている児童手当の増額以外の策が必要だ。

 そもそも、結婚した人ではなく、結婚に踏み切れない人への支援が肝要と識者から言われているのに、既に生まれている子供へ支給しても、効果が薄いことは分かり切っている。社会保険料の上乗せまでして肝心なことを実現できなかった岸田政権を、誰も批判しないし、乗り越えようともしない。しょせん、いくらやってもムダみたいな気分なのだろうか。解雇規制の緩和と同じくらいの熱意で突っ込んでほしいものだ。

(図)


………
 社会保障の財政収支が良いのは、雇用が拡大し、資産価格が高まったからである。それで財政検証も、少子化が進んだにもかかわらず、悪化せずに済んでいる。しかし、こうした幸運は、少子化の穴埋めではなく、若い人の負担軽減や乳幼児期の所得保障に使うべきものではないか。結局、それが少子化を緩和し、財政を改善するのである。あきめるのは、それからである。


(今日までの日経)
 自民新総裁は成長ファクターか。日銀、揺れる利上げペース。畜産向け配合飼料、15年ぶり下げ幅。米、利下げ局面へ転換。

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キシノミクス・消費確保と少子化と

2024年09月01日 | 経済(主なもの)
 7月の商業動態・小売業は、前月比+0.2と小幅ながら、4か月連続の増となり、消費は順調と言えるだろう。内容は、自動車と機械器具が伸び、ボーナス増や定額減税の効果がうかがわれる。利上げで円安が収まり、物価上昇圧力が緩む中で、消費が安定的に増えていくことが成長のカギになるので、循環を妨げない財政にすることが大切だ。金利上昇に慄き、緊縮を求めるような課題の取り違えをしてはならない。

………
 7月の鉱工業生産は前月比+2.8と、前月の-4.4からすれば物足りないが、8月の予測が+2.2なので、まずまずであろう。年初の大きな落ち込みから緩やかに回復しており、もう一歩のところに来ている。設備投資を示す資本財(除く輸送機械)は、振幅しつつも昨年後半の水準で推移し、建設財は、明確に底入れを見せている。消費の順調さを受け、生産が昨年の水準を超えていくという展開が望まれる。

 7月の労働力調査は、雇用者が前月比-15万人と、前月の増を戻す形だった。就業者は4-6月期が-2万人と停滞したが、7月もその水準と同じにとどまる。人手不足が言われる割に、就業者が増えていない。製造業や建設業がいま一つで、バラツキがある。失業率は+0.2と、久々に2.7%になった。7月の新規求人倍率は2.22倍で-0.04の低下だった。求人数は、製造業や建設業が少ない状態が続いていたが、7月は上向いた。

 8月の消費者態度指数は、前月比0.0であった。耐久財の買い時が3か月連続の上昇となったものの、雇用環境と収入の増え方が低下し、全体では横ばいという内容である。8月の東京区部の消費者物価指数は、総合が前月比+0.6と高めだった。財の7,8月の前期比は+1.6と引き続き高い。消費者態度は、物価に引きずられがちなので、円安の是正によって宥められると良いのだが。

(図)


………
 2024年6月時点での過去1年間の出生数は前年比-6.1%まで低下した。これだと合計特殊出生率は1.15人を割ってしまう。人口維持水準のわずか30%である。出生数は、わずか3年で15%も減る危機的な状況で、婚姻数は下げ止まった感が出てきたが、こんな低水準では、惨憺たるものに変わりはない。

 背景には、物価高での若い低所得層の生活苦がある。岸田政権は、支援金という負担増までしておきながら、決定的に重要な非正規の女性への育児休業給付をうやむやにした。税収が拡大し、何もしなければ、マクロ的に拙いほど緊縮が進む状況にあって、拱手するのみである。少子化は、勝つまで諦めてはならない戦いなのだが。


(今日までの日経)
 中国、止まらぬデフレ輸出。厚生年金 対象企業の範囲拡大 会社が築く「年収の壁」。出生数1〜6月、5.7%減の35万人 通年初の70万人割れも。膨張予算にデフレの残影。韓国、年金積立金が逼迫。カップル向け賃貸、7.4%高。10年債、0.890%に上昇。

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