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裁判員制度・評決公表のアイディア(6)

量刑で意見が3通り以上に分かれ得る場合には、どのように内訳を表示すべきか。前回提示した私の(腹案2)の是非を検証していきたい。
(腹案2)
量刑については、裁判員6人のうち最も重い1人と最も軽い1人を除いた中間の重さの4人の意見と、裁判官3人のうち中間の重さの1人の意見とを、判決理由中に記載して明示することとする。

(検証)
この(腹案2)のメリットは、裁判員6人と裁判官3人の全員の意見は判明してしまわないように配慮されていながら、なおかつ、それぞれの中心的な意見の分布が表示されることである。
ちなみに、両極端の2人の意見を除外する(その上で平均値を採る)といった手法は、古来、オリンピックの採点競技などでも採用されているオーソドックスなものである。

この(腹案2)で明示される裁判員4人と裁判官1人の合計5人の意見が、主文との関係で、あるいは9人全員の中で、どんな位置になり得るのかを検証しよう。

通常は、判決主文の結論になるのは、重い方から5人目の意見である。これは、明示された裁判員4人の意見の幅の範囲内におさまることが圧倒的に多いことがわかるだろう。
例えば、机上の設例だが、裁判員の意見が、懲役9年、8年、6年、5年、2年、1年、裁判官の意見が7年、4年、3年と分かれた場合は、主文は5年となり、明示されるのは、裁判員の8年、6年、5年、2年の意見と裁判官の4年の意見となる。
主文を導いた各意見の大勢は、これで十分わかるだろう。

例外的に、明示された4人の裁判員の意見の幅の範囲から逸脱した量刑の主文になるのは、次の場合のみである。
裁判官3人の意見が軽い方に集中したため、重い方から5人の中に裁判官が1人も含まれなかった場合。この場合は、「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」67条2項の規定により、表示されていない裁判官3人の内の最も重い1人の意見が主文となる。
例えば、裁判員の意見が、懲役9年、8年、7年、6年、5年、4年、裁判官の意見が3年、2年、1年と分かれた場合は、主文は3年となる。しかし、明示されるのは、裁判員の意見の内、8年、7年、6年、5年、裁判官の意見の内、2年だけである。
しかし、なぜ主文が3年となったのかは、自ずと明らかになる。つまり、裁判官の内で最も重い意見が3年であったことは自動的に判明する。
そして、この場合こそが、意見の内訳を表示することが最も重要な意義をもつケースである。

なお、逆に裁判官3人の意見が重い方に集中した場合は、このように明示された4人の裁判員の意見の幅から主文が逸脱するという現象は生じない。9人の内で重い方から5人目の意見、すなわち、裁判員6人の内で2番目に重い意見、つまり明示された裁判員4人の意見の内で最も重い意見が、主文と一致することになる。

もちろん、実際には、これほど意見が区々に分かれることはないだろうが、いずれにせよ、主文の量刑に、裁判員グループ、裁判官グループのいずれの意見がより大きく影響したかについては、私の(腹案2)の範囲で意見分布を判決理由中で明示しただけでも、十分に判明するはずである。

(チェックメイト)

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