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裁判員制度・評決公表のアイディア(3)

2009年06月07日 | 裁判員制度・評決公表
ちなみに、従来の裁判官3人による合議制においては、評決の内訳を示すことはできない。
まず、例えば「全員一致で有罪」と言うのは、3人それぞれが有罪の意見だったことを漏らしてしまうことになるから、評決の秘密を守ったことにはならないので、断じて不可である。

つまり、「2対1」だったこと自体は判明してもよいが、「3対0」だったことが判明してはならないのである。
それならば、「2対1」の場合だけ「2対1」だったと表示してもいいのではないかとも考えられるが、もしそうすると、その反面として、表示しなかった場合は「3対0」だったことがバレてしまうので、そういうわけにもいかない。

以上のことを念頭において、同様の問題が生じないかという点に留意しながら、前回提示した下記の「腹案1」が「必要条件」を満たしているかどうか、検証してみよう。

(腹案1)
評決の結果は、判決主文から判明する有罪・無罪に加えて、判決理由中に、評決の内訳を次の限度で記載することにする。
A 主文の結論は、裁判員6人のうちの多数意見(4~6人の意見)であったか否か。
B 主文の結論は、裁判官3人のうちの多数意見(2~3人の意見)であったか否か。

(必要条件)
「個々の裁判員の意見は不明のままになっていること」
「総体としての裁判員の意見がどうであったのかは正確かつ客観的に明示されていること」

(検証)
それでは、数学的に場合分けをして、厳密に検証していこう。

まず、モデルをなるべく単純化するため、有罪●か無罪○かの二者択一のケースで検証する。

裁判員の有罪意見の人数は6から0までの7通り、裁判官の有罪意見の人数は3から0までの4通りである。
したがって、7×4=28通りの場合分けをして、全部並べてみよう。
下記の例えば
60○●○
は、評決が、裁判員が6人とも有罪意見であったのに対し、裁判官は有罪意見が0人(つまり3人とも無罪意見)であった場合である。
この場合、被告人に不利益な有罪意見に裁判官が1人も含まれていないため、「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」67条1項の規定により、判決主文は○無罪となるが、裁判員の多数意見は●有罪、裁判官の多数意見は○無罪である。
これを、主文、裁判員の多数意見、裁判官の多数意見の順に、○●○と表示したものである。
私の腹案1によれば、この場合は、判決理由中に、主文の無罪は「裁判員の多数意見ではなかったが、裁判官の多数意見であった」と記載することになる。

なお、裁判員の意見は3対3の同数になることもあり得るので、これはとりあえず△で表示することにする。

評主裁裁
    判判
決文員官
63●●●
62●●●
61●●○
60○●○
53●●●
52●●●
51●●○
50○●○
43●●●
42●●●
41●●○
40○●○
33●△●
32●△●
31○△○
30○△○
23●○●
22○○●
21○○○
20○○○
13○○●
12○○●
11○○○
10○○○
03○○●
02○○●
01○○○
00○○○

以上を逆に、判決の主文と理由中の内訳表示のパターンの側から分類整理すると、次の8通りとなる。
主裁裁
  判判
文員官
●●●63・62・53・52・43・42
●●○61・51・41
●○●23
●△●33・32
○△○31・30
○●○60・50・40
○○●22・13・12・03・02
○○○21・20・11・10・01・00
なお、当然のことながら、
●○○
○●●
●△○
○△●
となる場合は存在し得ない。

上記のように、8通りに集約すると、左側のどの表示からも、裁判員の有罪意見が6又は0のいずれであったと特定されることはないと分かる。したがって、前記の必要条件「個々の裁判員の意見は不明のままになっていること」は満たしている。

しかし、なお問題は残る。
その点は、次回に論じよう。
(チェックメイト)