日本裁判官ネットワークブログ
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 政府は,5月8日,給与関係閣僚会議を開き,国家公務員の今年の夏のボーナスについて,景気の急激な悪化で民間企業の水準が大幅に下がることが見込まれるとして,人事院の臨時の勧告に基づき,10%程度減額することを決めたと報道されています(NHKニュース)。臨時勧告に基づき国家公務員のボーナスが減額されるのは,1948年に人事院勧告制度が始まってから初めてのようで,それだけ景気が悪化しているということでしょうか。

 ところで,裁判官の場合は,またまたやっかいな問題が生じます。「最高裁判所の裁判官は,すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は,在任中,これを減額することができない(憲法第79条6項)」「下級裁判所の裁判官は,すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は,在任中,これを減額することができない(憲法第80条2項)」との規定が憲法にあるからです。

 しかしながら,最高裁は,過去同様の問題が生じた際,裁判官会議を開き(平成14年9月4日)公務員全体と足並みをそろえ,全裁判官給与を一律に引き下げることは,司法権の独立や裁判官の身分保障に対する侵害には当たらず,合憲と判断し,現行憲法下で初めて裁判官給与を引き下げることを認めています。その後,2回位同様の事態がありましたが,全て他の公務員と同様に引下げが認められています。前回平成17年の引下げは,形式的には一律引下げを一旦した上で,民間賃金が高い地域には,3パーセントから最大18パーセントまでの地域手当を支給し,実質的には一部の人の減額になる可能性があったのですが,結果的に減額になる人には,減額分を差額支給するという経過措置が取られ,一部の人のみの引下げにならないような工夫がなされていました。今回は,一律引下げの範疇に入るのだと思います。

 平成17年の引下げの際には,当裁判官ネットワークで,裁判官の報酬についてのシンポジウムを開催しました。その際,学者の方から,「日本には,裁判官報酬を減額してはいけない旨の憲法上の規定があるが,これは弁護士から裁判官を任命する法曹一元を前提とする英米法系の国で採用されている制度であり,実際イギリスでは,どんな不景気でも,裁判官の報酬はほとんど減額されていない(確か,例外的に歴史上2回だけはあるようです。)。キャリア裁判官制度を前提とする大陸法系の国には同様の規定や運用は存在せず,ドイツなんかは裁判官の報酬は,行政官と同様に減額は何回もある。日本は,憲法上は,英米法系の裁判官制度になっているが,実際はキャリア裁判官制度を前提とする運用がされており,ねじれ現象がある。したがって,英米法系の裁判官報酬減額禁止規定を形式的に運用することは難しいのではないか。」という趣旨のことを言われたのが印象的でした。今回の事態で,またその学者の方の意見を思い出しています。

 なお,前回平成17年の引下げの際の私の意見は,当裁判官ネットワークHPのオピニオン「● Judgeの目 その8  裁判官の報酬には哲学が必要だ~人事院勧告を直ちに裁判官に準用してもよいのか。」
(http://www.j-j-n.com/opinion/s_judge_eye/judge08_051001.html)を,最高裁判所長官,最高裁判所判事に提出した当裁判官ネットワークの緊急アピール(意見文,平成17年8月30日付け)は, 同HP(http://www.j-j-n.com)のオピニオン(~ 2005年 )「裁判官報酬における人事院勧告等の受け入れについて」を参照して下さい。裁判官の報酬制度を考えることは,日本の裁判官制度を考えることにもつながります。(瑞祥)


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