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法律実務家として思うこと(その4)

2009年05月15日 | ムサシ
13 よく言われる典型的な話ではあるが,「絶対に迷惑をかけないから連帯保証人になってほしい。」と頼まれて,その言葉を信用して連帯保証人になったという話は今でも少なくない。しかし余程資産が多い人でなければ,決して安易に連帯保証人などになってはならない。連帯保証人になってほしいと頼む人が,「迷惑を掛けることになるかも知れませんが」などとは決して言う筈がない。そんなことを言えば,連帯保証などしてくれる筈がないからである。連帯保証人になるということは,保証する金額によって異なることではあるが,主たる借り主と一蓮托生の運命になり,場合によっては「破産宣告を受けて財産を全て失うことも覚悟せよ」ということである。連帯保証をするためにはそれだけの覚悟がいるということである。

14 「絶対に迷惑をかけない」と言われればそのまま信用するというのは,余りにも脇が甘いのである。連帯保証をするに際して,「一体どの位の借金があるのか」,「どの位の資産があるのか」,「破産宣告を受けそうなのか」などと問い質したという話を聞いたことがない。そんなことも聞かないでおいて,相手の言うままに信用して連帯保証人になり,後で話が違うなどと大騒ぎするというのは,余りにも愚かなことなのである。 頼まれてキッパリ拒否できないのであれば,連帯保証人として署名押印する前に,弁護士に相談すべきである。時には非情に徹して,友人を失うことになったり,親族としての関係を絶つことになっても,自分や家族を守らねばならないこともある。署名押印した後で,何とかしてほしいと泣きつかれても無理なのである。

15 一般的に言えば,わが国は高学歴社会であり,高度な文明社会であると言われるが,その割りには,意外に「法化社会」としてのレベルは高いとは言えないようである。社会の各人が対等な立場で契約を締結するという「契約社会」としての自覚が甚だ低いし,「自分のことは自分で守る」という心構えも不足しており,甚だ脇が甘いのである。学校教育のある時期に,例えば高校の社会科などで熱心な法学教育を行い,国民の法的素養をもう少し高める必要があるということではあるまいか。

16 日本人の一般的傾向としては,物事の当初は甚だおおらかで善良な態度であるのに,いざ紛争になってみると,余りにも細かいことを言い出す人が多いと感じられる。将来の紛争を防止するためには最初が肝心なのである。法律関係を生じる当初から多少ドライに,契約の細部に亘り,シッカリ自分の希望も述べて話を詰めた契約書を作成しておくべきである。そうしておけばその後の多くの紛争は未然に防止できると思われる。契約書も作成されておらず,口約束となっている甚だあいまいな事案でも,いざ紛争となると実に細かいことで対立する。現実にはそういうあまりレベルの高くない事件が訴訟となって裁判所に数多く持ち込まれているのである。要するに多くの民事訴訟の内容的なレベルは余り高くないのである。

17 そうならないように,社会全体として各人がもう少し自覚を高めて,「法化社会の構成員」にふさわしく,キッチリと契約し,契約書を作成することが当然であるという社会に進化すべきであろう。そうすれば現在裁判所に持ち込まれている民事事件は大幅に減少するに違いない。
 「契約書は必ず作成しよう。」これが法化社会の第一歩である。 自分たちで契約書を作成するのが困難であれば,法律実務の専門家に頼めばよいことであり,余り費用がかかるわけでもない。(ムサシ)