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法律実務家として思うこと(その5)

2009年05月22日 | ムサシ
18 一般にわが国民は,すぐに他人を信用し,欺されて後で後悔するというパタ-ンである。振り込め詐欺のような犯罪が易々と成功するのも不思議である。これ程ニュースになっているのに,被害者が後を絶たない。余りにも無防備であるという他ない。多少年老いた人の弱点を利用されており,やむを得ない面もあるのだろうが,どうも「自分のことは自分で守るのだ。」という自覚と,危険を嗅ぎ分ける鋭敏な嗅覚を磨く心構えが足りないようである。毎日のように新手の詐欺が次々にニュ-スとして報道されている。冷静に考えれば,あり得ないような儲け話に乗って,まんまと欺されて,老後の蓄えを失ってしまう。そううまい儲け話などある筈がない。うまい儲け話はまず疑ってかからねばならない。欺された後で弁護士に相談しても時既に遅しである。

19 「名前を借りるだけだから,迷惑をかけない。」と言われるとすぐその気になって,契約内容もロクに確認しないで署名押印する。金額欄が空欄のままで安易に連帯保証人として署名押印しておいて,「500万円という話だったではないか。5000万円の連帯保証などしたことはない。」などと言うのである。また白紙委任状に署名押印して,後で「そんな委任をした覚えはない。」などと言う。契約書など自分で署名押印すべきところを,他人に記載してもらうことも平気であり,後で誰の筆跡かが問題となったりする。物事は最初が肝心なのである。後で後悔して泣くのではなく,契約の最初にシッカリと身構えてチェックする必要がある。可能な限り用心深く,打てるだけの手は打っておく。「自分のことは自分で守るぞ。」と決意する。誰も自分を守ってはくれないと考える。それでも困ることが起きるのが人生である。そして困ったことになれば,自分勝手な判断で行動する前に,早めに法律実務の専門家に相談するのである。今の社会は「法化社会」としては甚だ頼りない状態にある。

20 国民の法的素養を高めることは,焦眉の急を要する事態である。私は高校の社会科の授業で法教育をもっと充実させるのがよいと思う。一人前の社会人となるためには一定程度の法的素養が不可欠である。「自分のことは自分で責任を持つべきこと」,「何事にもキッチリとした契約書を作成すべきこと」,「紛争は未然に防止すべきものであること」,「安易に人を信用してはならないこと」など,法化社会人としての法的な基礎を教えるのである。法律を教えても面白くなければ身につかない。できれば法律実務家が,様々な法的教訓を含んだ具体的ケ-スを持ち寄って,面白くてためになる社会科の副読本を作成してはどうだろうか。生徒が目を輝かせて,身を乗り出して聞くような,面白い法教育をするのである。そうすれば,もっと法的素養のある自覚的社会人が増えて,今の社会に溢れているウンザリするような低レベルの紛争が減り,もっと活力のある,もう少しハイレベルの法化社会が実現し,名実ともに誇るに足る高度な文明社会が実現するような気がするのである。完(ムサシ)