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年々5月3日の意味が薄らいでいる。今年はETC値下げによる高速道路の渋滞情報に完全に埋没しているザマである。ETCが売れると儲かるの誰でしたっけと嫌味の一つも言いたくなる。

1973年5月3日,一人の裁判官が日記にこう記した。
「平和と民主主義の憲法。高らかにうたい上げられたこの憲法も26年もの間,蝕まれ続けた。時の政治権力に有利な憲法は十二分に利用される。時の権力に不利な憲法は無視される。そして裁判所は何とか理屈をつけて,その政治権力を弁護してやる。それが裁判所というものの本質なんだ(少なくとも今までは)。長沼訴訟はこのような今までの裁判の本質を国民が知り,そしてそれを元の姿に戻そうとした,いわば最初の訴訟であろう。」
裁判官の名は,福島重雄。彼はこの年の9月に裁判長として長沼訴訟一審判決を言い渡す。

上記日記の記載は,連休中に一冊くらいは憲法関係の本を読もうと思って手にした「長沼事件 平賀書簡 35年目の証言」(日本評論社)からの引用である(上記日記は91頁)。
改めて,時の政治権力からのすさまじい圧力を受けながら,裁判官の良心を貫き通した先達に感銘を受ける。「『何で違憲判決したのですか』と取材されたって,僕は仕事をやっただけと答えるだけです。何も変わったことはやっていない。むしろ,憲法判断を避けた人に『どうしてそうしたのか』と聞いてほしい。」(129頁)という,福島さんの発言が素晴らしい。
平賀書簡問題を扱った第二部も,西郷法務大臣の「裁判官が条例を無視する世の中だからね。国会では面倒を見ているんだから,たまにはお返しがあってもいいんじゃないか」という発言を,石川義夫氏が「思い出すまま」で明らかにした,昭和43年の司法予算折衝過程とリンクさせているところ(145頁)など,興味深い。
2008年に,イラク派遣訴訟名古屋高裁違憲判決が出された今日,若き法曹の方々にも是非手にとって欲しい一冊である。

なお,あとがきで触れられている,福島重雄氏が91年に出演したテレビドキュメンタリー「閉ざされた法廷-証言・裁判所は今・・・」は,横浜地裁の向かいの建物にある放送ライブラリーに保存されていて,無料視聴できる。
(くまちん)

追記 法学館憲法研究所主催・伊藤塾後援の元裁判官の連続講演会「日本国憲法と裁判官」第2回(6月19日)に,福島重雄氏が登場されるようである。上記書物の第二部座談会に登場した裁判官も続々登場される。
http://www.jicl.jp/jimukyoku/backnumber/20090413.html


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