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昨日の毎日新聞の社説に,「被害者の訴訟参加 痛み共有し冷静に議論を」が掲載されました。刑事裁判のあり方を考える大事なテーマです。裁判官ネットの目的の一つである「司法機能の充実強化」からみてどうなのか,それを「開かれた司法」を目ざす裁判官ネットが,ブログ上で議論するのは大事なことのように思います。冷静に,是非甲論乙駁を!(瑞祥)

毎日社説
 被害者の訴訟参加 痛み共有し冷静に議論を
 犯罪の被害者や遺族が刑事裁判に当事者として参加する「訴訟参加」の制度導入の是非をめぐる議論が、法制審議会で始まった。刑事裁判で損害賠償を請求できる「付帯私訴」についても、併せて論議される。政府は立法化を目指しているが、刑事裁判の仕組みを大きく変えるものだけに、拙速は許されない。

 犯罪被害者や遺族は長い間、刑事裁判では傍聴人と同様の扱いを受けてきた。犯罪被害者保護関連法の制定で、法廷で意見陳述する機会は確保されたが、裁判官が被害感情を斟酌(しんしゃく)して量刑を決める際の参考にされるにすぎない。

 このため被害者団体などは、被告人に直接質問したり、弁論や証人申請などもしたい、と要望していた。独仏などで「訴訟参加」として制度化されていることもあり、被害者の当然の権利だとする主張がある一方、被告人は検察と被害者の双方と争わねばならず、防御が難しくなる、といった反対論も根強い。離婚訴訟の尋問などで原告、被告双方が激しくののしり合う場面が少なくないことから、法廷が混乱するのではないか、との心配もある。

 「付帯私訴」も、被害者が刑事裁判とは別に損害賠償請求訴訟を提起する負担を軽減すべきだ、とする被害者団体などの要請から導入が検討されることになった。やはり英仏などで制度化されているが、争点が増えて刑事裁判が遅延化する……といった異論がある。

 刑事裁判に限らず、被害者の人権は軽んじられてきた。しかも、都市化に伴って通り魔事件のような行きずり型の犯罪が多発し、被害者側は従前以上に不条理や理不尽さに憤慨し、怒りや嘆きを増幅させている。報復感情も総じて高まっており、厳罰化の風潮を招いたのも、被害者の声に後押しされた結果、との指摘もある。

 これからの刑事裁判では被害者の考えが最大限尊重されねばならない。刑罰の本質が報復にあることも踏まえ、「訴訟参加」は慎重に検討すべき方策だろう。しかし、刑罰権を国家に委ねている以上、検察官に被害者の意見、意向を反映した立証を促すのが先決との考え方も成り立つ。検察官の立証への異議を唱える仕組みを考えたり、そのために検察審査会の権限を強化する方法なども検討されていいのではないか。

 政府の被害者対策は、被害者側の個々の要望に応える形で進められている。できる限り要望に沿うのは当然だが、対策全体の方針が明確でなく、相関性などは十分に考慮されていない感がある。

 大黒柱を失った遺族が生活に困窮し、踏んだりけったりの状況に追い込まれるケースなどを想起すれば、優先すべきは、精神的ケアや経済的支援の充実かもしれない。行きずり型の犯罪では誰もが被害者になり得ると理解し、不幸にして犯罪に巻き込まれた被害者の痛みを共有し、被害を社会で補償するという考え方に立つ必要もある。制度導入の可否だけで判断せず、被害感情を癒やす方策などと併せて議論を深めてほしい。



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